第202話 カテキョの対価はママで
『ピンポーン』
「高橋です」
「遅いわよ。早くあがりなさい」
天気は晴れ。と言っても、今はもう日が暮れた時間帯なのでお外は真っ暗だ。そんでもって寒いのなんの。
「いらっしゃい、泣き虫さん」
「悪いね。バイト無い日なのにこんなこと頼んじゃって」
中村家のリビングに向かうと真由美さんと雇い主が寛いでいた。
そう、俺は今晩陽菜の家庭教師を務めるのだ。まぁ、家庭教師といってもそんな大したことができるわけじゃない。塾に通っていない分、勉強面で頼れる存在が少ない陽菜にとっては俺は一応頼れる存在なのだ。
え、『千沙がいるじゃん』だって? 誰だ、そんな役立たずの次女は。知らないぞ。
「いいなぁ、家庭教師が居て」
おっと、葵さんが嫉妬しておられる。
「はは。こういうときに長女は大変ですね」
「言ってくれれば家庭教師を雇うわよぉ?」
「そうそう。今更だけど利用できるものは利用しなきゃ」
「そ、そうじゃなくて! なんかこう、親しくて、気軽に頼める感じがいいなって」
つまり嫉妬ですね?
仕方ありません。一年生である俺には卒業生である葵さんに教えられることは多くないですが、保健は教えられる自信があります。
「葵さん....。つまり俺を傍に置きたいんですね?」
「ち、ちがっ!」
「駄目よぉ。泣き虫さんには陽菜の相手してもらわないとぉ」
「かっかかかか家庭教師って意味よ?! 他意はさほど無いから! さほど!!」
「はは。高橋君、中村家のインテリアとして
はは。冗談ですよ。だからその殺気を向けないでください。
あと陽菜、“さほど”はよせ。嘘でも他意は無いって言え。
「まぁ、クリスマスに俺がプリントされた等身大の抱き枕をプレゼントします」
「
「「「「........。」」」」
「あっ」
よく家族の前で言えましたね。そして言った後に恥ずかしがる葵さん、マジ可愛いっす。
「さ、和馬、早く私の部屋に行くわよ!」
「あ、泣き虫さん、今晩はうちで食事を済ませないかしら?」
「え、いいんですか?」
「陽菜に付き合ってくれるお礼って訳じゃないけど食べていきなさい」
やった。これで夕飯まで思う存分陽菜に付き合えるぞ。あ、ってことは夕食後も少し
俺は陽菜と一緒に彼女の部屋に向かった。
「なんか女の子の部屋に入るのも段々慣れてきたなぁ」
「なに、あんた今まで緊張してたの?」
「うん。なんか家ってさ、部屋によって匂いが違うじゃん。人んちだと尚更意識しちゃう」
「たしかに。あんたんちも良い匂いよね」
それはイカ臭いあの高橋家のことだろうか。
異性にそう言われたのならそうなのかもしれない。俺が気にしすぎなのかな。
「消臭剤でも置こうかな」
「っ?! だ、駄目よ!」
「な、なんだよ、急に」
「あのままでいいの!!」
え、そう? 以前、桃花ちゃんにイカ臭いって言われてから軽く立ち直れなかったんだけど。あいつ、冗談か本気かわかんないんだよな。
そして俺は陽菜の部屋に入った。
「すんすん....やっぱ甘い匂いがする」
「あんた、部屋入って即嗅ぐなんて軽く犯罪よ?」
「ほら。陽菜のことだから媚薬効果のある芳香剤とか仕掛けてそうで」
「安心なさい。今日はしないわ」
今後はするのだろうか。そこら辺を問い詰めたい。
『ガチャッ』
「で、まずは数学から....」
「今鍵をか締めなかった?」
「........いいえ」
なに今の間。
「ちょ、おま、何する気だよ?!」
「べ、別に何もしないわよ!」
「じゃあなんで締めたの?!」
「じゃ、邪魔が入らないようにと」
「なんかする気じゃん!」
くそ。なんで男の俺が怯えなきゃいけないんだよ。
「いいから! 受験控えているのにエッチなことなんでできないわよ!!」
「きゃあー! 葵さん! 俺の童貞がぁ! 俺の童貞が―――いだッ?!!」
「うっさいわね!! 貞操帯付けるわよ?!」
JCの口から貞操帯とかパワーワード出てきたんですけど。上の口がうるさいからって下の竿を黙らしちゃいけないでしょ。
俺は気を取り直して陽菜の勉強を見ることにした。
「んで、数学だっけか。どっかわかんないとこでもあったの?」
「ええ。ここ、なんでX=5なのかしら?」
「ああ、うん。それはだな―――」
こうして貧乳JCが意地を張ること無く、わからないところはどんどん聞いてくるので効率よく進んでいった。
「あ、和馬。良い知らせよ」
「?」
「これを見なさい」
一段落したところで陽菜が一枚の紙を俺に渡してきた。なんだこれ。
「こ、これはッ!」
「全国模試の結果よ」
そう。カラーで印刷されたこの紙は陽菜が以前受けた全国模試の結果が記載されていたのだ。
「前回のと比べると成績が上がったな」
「ふふ。ちゃんと力がついてきた証拠ね」
「
「えへへ」
「が、慢心するなよ。英語、前回の結果より少し落ちたぞ」
「え、英語は元から高かったから良いのよ!」
「馬鹿。得意なんだろ? なら一点でも稼げ。それなら数学で1点間違えても補えるんだからな」
陽菜は拗ねた顔で言う。ったく。油断していると成績落ちるぞ。
ああー、でもこれで俺が通う学々高等学校に近づいたのか。努力が実って嬉しさ半分、俺の青春の危うさ半分といった気持ちである。
「なによ。もうちょっと褒めてくれてもいいじゃない」
「よしよし」
「っ?!」
俺は軽い気持ちで陽菜の頭を撫でた。そんなテキトーな撫で方なのに陽菜の顔はめっちゃ赤かった。
「あ、ごめん。恥ずかしかったよね」
「そっ、そんなことないわ! あ、でも頑張ったからご褒美が欲しいわね!」
「え、ご褒美?」
なに、俺がしてあげられることなんて多くないぞ。
「あの、陽菜さん」
「なぁにぃ?」
「これはいったい.......」
陽菜がご褒美欲しいというので日頃の労いも含め、俺は言う通りのこをした。
「“膝枕”よ?」
「そうだけど.....」
「少し前までは千沙姉の代わりにやってたじゃない」
「でも“耳かき”はしてなかったよ」
そう、俺は陽菜に膝枕してもらっていると同時に、彼女は俺に耳かきをしてくれているのだ。
膝枕は久しぶりだけどいいよ? そういえばまだ陽菜は俺の妹(仮)という設定が生きていたしね。
でも耳かきはなんで?
「いいじゃない。なんかこういうことしてみたかったのよ」
「でもこれじゃあ俺のご褒美じゃない?」
「それが聞けたのならやった甲斐があるわ」
「あ、そう」
「それに、“される”より“したい”の方が私に合ってるわ」
母性本能ってやつ? こんなことして楽しいのかよくわからないけど、本人がこれでいいっていうなら別にいいか。
「かきかき~。かきかき~」
「はうぅー!!」
超気持ち良い。普段、自分で掃除するのとはまったく別だ。なめてたわ。耳かき、なめてたわ。
「ふふ。気持ち良いかしら?」
「ああ。最高。ずっとしてほしいくらいだ」
「っ?! じゃあ早く堕ちなさいよ!」
『ガリッ!』
「いっつ?!!」
「あ、ごめんなさい」
おいおい。もっと慎重にやってくれよ。
「はい。掃除は終わり。日頃ちゃんと手入れしているからか、あんました甲斐が無かったわね」
「そう? はぁ......。癒されたぁ」
「ふふ。ママの気持ちね」
“ママの気持ち”ねぇ。
..........陽菜ママかぁ。JCのこの包容力はギャップがあって威力ヤバいな。極めて危険である。
アリかも。
「っ?!」
しばらくJCに膝枕されて寛いでいたバイト野郎の頬に上から何か垂れてきた。
「あ、ごめんなさい。つい」
「え、なに。何が落ちてきたの?」
「
「.......。」
.......やっぱ、お前ナシ。
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