第203話 ヒロインがNGして許されるのは〇魂だけ

 「いただきます」

 「たくさん食べてねぇ」


 先程、陽菜の家庭教師を務めていたが、今は中村家4人と夕飯を食べているところだ。


 ちなみに夕飯のメニューはグラタンとシチュー、サラダなど洋風料理がメインだ。


 「どう? 陽菜はちゃんと勉強できていた?」

 「ええ。日々の努力のおかげか、前回の模試の結果は良いと思います」

 「えへへ」


 この調子だとマジで合格しちゃいそう。うちの高校、田舎よりだから生徒数そんなに多くないんだよね。だから倍率も高くないし。


 もう陽菜の進行もここまで来たし、諦めた方が良いのだろうか。ワンチャンこのまま成績を上げ続けて、桃花ちゃんと一緒にレベルの高い“庵々高校”に行ってくれないかな。


 「ちゃんとモチベに繋がるのって大切だよね」

 「葵さんはどうですか?」

 「順調.......とまではいかなくてもそこそこかな」

 「頑張ってくださいね」


 葵さんも大変だな。志望大学の受験前にセンター試験なんだっけ。自力で頑張ってんだ。バイト野郎には何かできないかと考えてしまう。


 ............駄目だ。バイト野郎じゃあ葵さんの性欲処理しか役に立てそうにない。


 「って、葵。ちゃんと占地しめじ食べなよ。高橋君の皿に移すんじゃない」

 「うっ」


 バイト野郎が考え事をしていたら雇い主がなにやら葵さんに注意していた。


 そう言われるとたしかに俺のグラタンの上に不自然に占地しめじが置いてあった。


 「あなたねぇ」

 「まだ好き嫌いしているの?」

 「か、和馬君が好きだって言うから.......」

 「いえ、一言も言ってませんが」

 「そ、即席の嘘でももっとマシなの吐けないの」


 嘘が下手くそなのは誰に似たんでしょうね。


 しかし意外だなぁ。葵さんでも嫌いな食べ物とかあるんだ。


 「初めて知りました。茸類全部が駄目なんですか?」

 「うーん。大体かなぁ。っというか、人が嫌いだって言っているのに料理に入れてこないでよ」


 葵さんがジト目で真由美さんに講義する。なにそれ。可愛いなチクショウ。


 「いつまでも食べられないじゃあ困るわぁ」

 「.......人が受験勉強で忙しいからキッチンに立てないことを良いことに好き勝手しちゃってさ。誰だって好き嫌いの一つや二つはあるでしょ」


 あんた、今までそんな理由で料理を手伝っていたのかよ。どんだけ食卓に茸を出させたくないんだ。


 家事ができる子ってイメージが台無しだぞ。


 「茸類のどんなところが嫌いなんですか?」

 「触感.......というか、匂いがね」

 「そうかしら? 美味しいじゃない」


 好みってもんがあるからな。俺には理解できんがきっとそういうものなんだろう。


 陽菜に抗議するかのように、葵さんはシチューの中にスプーンを突っ込んである物を掬い出した。


 「陽菜だって嫌いな食べ物あるでしょ。グリーンピースこれが苦手なんだよね?」

 「もう克服したわ」

 「え?!」

 「ふふ。そんなの鼻くそみたいなもんよ」


 ちょ、食事中。お前、一応、ヒロインみたいな存在なんだからNGワードくらい弁えろよ。


 「陽菜、あなたねぇ.......」

 「とか言って、グリーンピースを食べるときは鼻を抓んでいたくせに」

 「秘儀よ、秘儀。床に落とされるよりマシでしょ」


 汚っ。お前、粗末どころの話じゃないぞ。踏んじゃったらどうすんだ。


 「ま、今回は自分が占地を食べますよ」

 「和馬君!」

 「ちょっと、高橋君。娘を甘やかさないでよ」

 「あ、じゃあ私のシチューに入っているグリーンピースも食べてよ」


 克服してないんかい。鼻抓んで食えよ。


 「駄目よぉ。ちゃんと本人たちに食べさせないと」

 「はは。日頃、受験勉強で忙しい葵さんに少しでも役に立てればと」


 「本音はぁ?」

 「はい。葵さんが口付けたスプーンで掬った占地しめじなので............」


 「.......。」

 「あ」


 皆の視線が痛い。


 真由美さんも人が悪い。バイト野郎は嘘を吐いてもバレるから潔く本音を言えるよう心掛けているのに、それを利用するだなんて。


 ほら、僕の隣の席の人を見てください。鬼のような形相ですよ。


 「おい、高橋ぃー」

 「すみません。すみません。許してください」

 「ちょ! そんな理由なら私自身がちゃんと食べるよ!」


 お、長女は克服できた模様。作戦通りですね。良かった、良かった。


 ええ、はい。だからフォークを俺の脇腹に突き立てるな、雇い主ッ!!


 「あんたって本当に下心で生きているわよね」

 「前も言ったけど、親の前では少しは猫を被りなさい」


 俺も前から思ってたんですけど、親本人がそれ言うってどうなんですかね。


 すると葵さんが回収した占地を一気に口の中に入れ込んだ。陽菜の秘儀、鼻抓みと同時に。


 「うへぇー」

 「お水どうぞ」

 「ん」


 可哀想に。でも葵さんにはちゃんと茸類を克服していただかないと困ります。


 なぜかって?


 ち〇ぽの形状は茸みたいだからです。


 ああ、俺の茸を食べてくれないかなぁ。でもそんなこと言ったらきっと軽蔑と通報なんだよな。


 「高橋君は何か嫌いな食べ物はあるのかい?」

 「自分は.......特にないですけど、味に癖があるパクチーは少し苦手ですね」

 「パクチー美味しいじゃない」

 「でもイメージ的には女性が好んで食べそうだよね」

 「ふふ。また今度晩御飯にパクチーを出してあげるわぁ」


 いや、出されたらちゃんと食べますよ? そんな鼻抓んで食べるような物じゃないんで(笑)。






 「陽菜、寝るなら自分の部屋で寝なさい」

 「んんー」


 夕食を終えて1時間ちょい。陽菜は満腹になったのか、ソファーの上でで寝てしまった。


 今日はもう家庭教師はしなくていいのかね?


 「ごめんなさいねぇ。勉強見てもらうために来てもらったのに」

 「いえ。それは別にいいんですが」

 「まったく。陽菜には困ったものだよ」


 こうして大人しく寝ていると寝込みを襲いたくなるくらい可愛いのにね。


 「そういえば和馬君の通っている高校ってどこなの?」

 「今更それ聞きます?」

 「ご、ごめん」


 まさかのこのタイミングで葵さんから在籍している高校を聞かれた。


 「で?」

 「.......。」

 「え、なんで言ってくれないの?」


 ここで3人にカミングアウトしちゃっていいのだろうか。この人達経由で陽菜にバレないかな。


 今更だな。嘘ついたってしょうがない。


 「.....まぁ、なんというか、陽菜の志望校です」

 「「「えっ?!」」」


 3人は揃いも揃って驚く。


 「だ、だから陽菜はそこが志望校なのかしらぁ」

 「いえ。陽菜が知っているかどうかわかりませんが、自分、陽菜に直接言ったことありません」

 「え、じゃあ知らないでそこの高校を選んだの?!」

 「まぁ、この辺は志望校の選択肢がそう多くないし、偶々ってこともあるだろうけど」


 「陽菜から聞かれたこともないのぉ?」

 「無いですね。興味無いんでしょうか」

 「それは無いよ。いくら陽菜でも和馬君が居る高校だからって理由で志望校を決めないだけだと思う。わざと聞かないようにしてたんじゃない?」

 「ああ、聞くと迷っちゃうから的な? まぁでも、知り合いが居る高校に行きたいよね」


 “知り合い”の域で済むなら俺に抵抗は感じないな。


 桃花ちゃんや千沙には口止めしといたけど、陽菜に知られるならそっちの線が怪しいな。あと母さんも。


 そこで葵さんがポンと手を叩いて自慢げに提案してきた。


 「そうだ。起きたら陽菜に聞いてみようよ」

 「直接ですか?」

 「そ。でも聞き方を少し考えよう」

 「えーっと、なんて?」

 「例えば、『和馬君が通っている高校って〇〇高校なんだよ』って」


 なるほど。それで違う高校の名前を言って陽菜が知っているのかどうなのか反応で判断するんですね。


 知ってたら『え、学々高校でしょ』って言い黒である。知らなかったら『へぇーそう』的な感じで白ね。


 俺たちは陽菜を見つめた。


 「.....起きないわねぇ」

 「どっちにしろ、風邪でもひかれたら困るから起こさなきゃ」

 「あ、待って!! 陽菜が起きる前に和馬君を借りたい」


 お? なんだなんだ。葵さんから指名を頂いたぞ。


 「いいですよ。無料オプションですし」

 「言い方。......えっとね、はい!」


 そう言って葵さんは空いている一人用ソファーにボスンと座った。


 「?」

 「肩揉んでください!」


 え、セックスがご所望なんですか?


 そんなことを思ってしまったのは言わずもがな。思わぬエッチイベントにバイト野郎、期待に股間が膨らみそうだ。

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