第201話 濡れた格好で他人の家に行くときは注意しろ

 「お兄さんの馬鹿! いい加減私のハメ撮り動画消してよ!!」

 「馬鹿野郎! 忘れかけた頃に不意打ち食らわしやがって!!」


 このJC、マジでどうにかなんないかな。


 天気は雨。土砂降りである。そんなときもあるさ。バイトの日じゃないだけマシだ。


 現在、学校から帰ってきた俺のとこへお騒がせ巨乳JCが制服姿でお邪魔してきた。


 「おっじゃましまーす!」

 「あ、こら。足濡れてんじゃねーか」

 「傘忘れたから学校から走ってきた」

 「タオル持ってくっから待ってろ」

 「はーい」


 そんでもってなぜかびしょ濡れ。


 誘ってんのかな。待ってろ。タオルのついでにタンスから援助交際エンコーの代金持ってくるから。アポなし着払いとはなんて威勢のいいデリヘル嬢なんだ。


 「ほらよ」

 「ありがと」


 が、そんな勇気ないのがこの道のプロ、童貞和馬君だ。


 濡れた箇所を拭きながら桃花ちゃんが俺に言ってくる。


 「お兄さんのことだから、私のこんな姿見たらお金出して土下座でHを頼んでくると思ったぁ」

 「ギク」

 「..........え、マジ?」

 「ど、土下座まではするつもりなかったヨ」

 「ちょ、帰っていいですか?」


 いいよ?


 別にデリヘル頼んだわけじゃないから。ちょっと期待したいだけだから。


 つうか、お前が勝手に来たんだろ。


 「で、今日は何しに来たの? あ、料理禁止ね」

 「まだなんも言ってないんですけど」


 「あ、でも俺が桃花ちゃんを料理するならいいよ」

 「警察呼んでいいですか?」

 

 しょうがないじゃんね。


 桃花ちゃんが来るなんて予想してなかったからオナ―――自家発電に勤しもうかと思ってたのに急にずぶ濡れJCが来たんだもん。


 「お前さ。自分の武器わかってんの? 女子中学生の平均を大幅に超えるもんぶら下げんてんだぞ」

 「すみません、犯罪者さんですか?」


 「ムラムラするに決まってんだろ。5万出せばいい?」

 「お巡りさーん。コレもう時間の問題よびぐんでーす」


 ばっか、お前。警察がここに来てもずぶ濡れで来たお前が悪いって言われるよ。


 見てみ? セーター脱いだお前のワイシャツ、雨のせいで透け透けだよ。なんてエッチなピンクブラジャーなんだ。


 息子が辛いと叫んでる。


 「佐藤さんちで着替えてから来いよ。というか、1時間くらいしてから出直してきてください」

 「お兄さん、一発ヌく気でしょ」


 「ごめんね」

 「素直に謝られても.....。私だっておばあちゃんちに入れるんだったら入りたいけど、鍵を家に忘れたから入れないんだよ。車無かったから出かけているのかな」


 「なるほど。で、日銭のために俺んとこに来たと。10万でいい?」

 「今日は私がツッコまないといけないの?」


 だってムラムラしてるんだもん。


 「はぁ。まぁ、とりあえず............『先にシャワー浴びてこいよ』」

 「うっわ。そういうのは陽菜にぶつけてよ」

 「なっ?! おまっ、なんで―――」

 「お風呂借りまーす」


 桃花ちゃんは俺の言葉を遮って浴室へ向かっていった。


 なんで陽菜のことを......。まぁ、親友なんだし自分で気づいたのか、本人から聞いたんだろう。


 「陽菜。陽菜..........陽菜かぁ」


 いや、あいつ闇が深そうで怖いんだよな。絶対、ゴム何個目かで安全ピンでプスリといくタイプだよ。既成事実で攻めてくるタイプだよ。


 というか、どーせ子作りするなら最初っから生だよね。ゴム破けて出しちゃったとか、損以外の何ものでもないよ。


 「お待たせー」


 そんなこと考えながらぼけーっとしてたらいつの間にか桃花ちゃんが浴室から出てきた。


 服装はおそらく持参したであろう学校の長袖短パンのジャージ姿。今日は体育でもあったのかな。............はぁ。


 「....なんでブルマの文化が無くなったんだろう」

 「あの、いい加減セクハラやめてくれませんか?」


 ごめんね。


 「そういえば受験生なんだろ。志望校決まったの?」

 「あ、それなんだけどね。ちゃんと決まったよ」

 「へー。どこ?」

 「少し遠いけど“庵々あんあん高等学校”」

 「あれ、てっきり陽菜と同じとこだと思った」


 二人は大の仲良しだからね。まぁ、進路のことは大切なんだし、本人がそう決めたのならそれが良いのだろう。


 「お兄さんと同じ高校に行って欲しかった?」

 「はは、まさか。正直、何されるかわかんないから違う高校で良かったと思う」

 「ふふ。それが聞けてなにより」

 「?」

 「なんでもなーい」


 いつもだったら「失礼だなぁ。同じ高校に行くよ?」とか冗談か脅しかわかんないこと言ってきそうなのに。


 「勉強頑張ってんの?」

 「うん。以前の倍くらいは」

 「1を倍にしたところで2だよ」

 「あははは。頭良いからね」


 余裕そうでなにより。たしか庵々高校って偏差値高かったよな。


 桃花ちゃんの言った通り、ここからだと志望校は少し遠い。でも偏差値の高い高校は高学歴を残すのにもってこいだ。


 「まぁ、頑張れ」

 「うん。さて、暇だし、お兄さんに何かご馳走しちゃおうかな」


 「駄目。やめて」

 「今日一で真面目な顔じゃん」


 「あ、そうだ。じゃあ一緒に料理しよう。それなら俺の目の届く所だからまだ安心だよ」

 「わ、私をなんだと思ってるの.....」


 “キッチンディザスター”だよ。狩猟免許のあるハンターに討伐を依頼したいくらい。


 「.....お兄さん、私が飲食店のうちの子って言ったら信じる?」

 「都市伝説かな?」

 「殴っていい?」


 あのね、飲食店は料理ができる人じゃなきゃ店開いちゃ駄目なの。桃花ちゃんの料理技術からそんな家庭あり得るわけないじゃん。


 馬鹿にしてんのかって。


 「俺が炒めたりするから、桃花ちゃんは食材を刻んで」

 「はーい」


 こうして俺はJCと料理をし始めた。


 とりあえず、この子には火を使わせなければ比較的小規模な被害で済むだろう。そう思って俺はこのJCに食材を刻むことから教えた。


 「にんにく刻んで」

 「ほい」

 「うんうん。芽を取ってから刻もうね」


 「人参の皮を剥いて」

 「やすりどこ?」

 「うんうん。ここにピーラーがあるからこれを使おうね」


 「玉ねぎを1センチくらいの間隔で切って」

 「うぅ~目がぁ。お兄さん、そこのタオル取って!」

 「うんうん。包丁でタオルの場所指さないでね。危ないから」


 なんだこいつ。2、3個調理器具使わせただけなのに、なんでもうやらかしそうなの?


 とてもじゃないが飲食店の子がなせる所業じゃないよ。


 「すごいね。外国人に日本語教えている気分だ」

 「なんか智子さんのときもよく注意されたなぁ」


 あの母親が他人に注意できるほど調理の感覚を思い出したのか。


 俺が小学生の頃はちゃんとした料理を作ってたのに、俺が料理できるようになってから急激に退化していったあの母親が?


 俄かには信じがたい話だ。


 「で、今日は何を作るの?」

 「焼き鮭、お浸し、味噌汁、生姜焼き、野菜炒め」

 「普通ぅー」

 「お前なぁ....。まずは定番メニューからだ」


 この子は何を期待していたのかな。外国人がいきなり流行語理解できるわけねーだろ。


 「一人で料理するより楽しいね」

 「まぁ、うん。たしかにね」

 「やっぱり? お兄さん、私が高校生になってからも来てほしい?」

 「え、いや、ワンチャンあるなら」

 「ないよ?」


 素直に来てほしいなんて言えない。そんな小っ恥ずかしいこと言えるわけがない。


 俺らはしばらく話しながらおかずをどんどん作っていく。そして俺は鮭を二切、グリルの中に入れた。


 「お兄さん、二切も食べるの?」

 「え、桃花ちゃん食べないの?」


 あ、俺に料理を振る舞うのが目的だから一緒に食べないのか。いつもそうだもんね。


 「ああー。そうだよね。今日はになりそうだし、ここで食べようかな」

 「これからは桃花ちゃんだけで料理させないことを誓うよ」

 「それはヤだ。ちょっとおばあちゃんに夕飯要らないって言ってくるー」


 そう言って桃花ちゃんは電話をしに少し離れたリビングへと足を運んだ。


 以前、祖父母は着信音が聞こえないくらい難聴だって聞いたけど大丈夫なのかね。


 「さて、テキトーに盛り付けて運ぶか」


 俺は調理し終わった物から皿に盛り付けてリビングにある食卓まで運ぼうとした。少し、いや、結構早い夕食だ。


 「あ、もしもし。お婆ちゃん? 私だけど、今日お隣の高橋さんちで食べてくるから夕飯要らないからねー」


 どうやらちゃんと繋がったらしい。これで心置きなくJCとディナーできるな。


 「そ。ついでに食べられちゃうと思う」

 「っ?!」

 「大丈夫。避妊はするから―――」

 「お、おい!! お前こら!」

 「犯されるぅー」

 『ブツッ!』


 最後棒読みで切りやがった。


 「お前、なんつうこと佐藤さんに言ってんだ?!」

 「あはははは! 引っかかったね! 電話はすでに切ってましたー!」


 桃花ちゃんがケラケラと笑い出す。


 大人(高校生)をなめやがって。犯すぞ。


 「はぁ。ほら、魚も焼けたから冷めないうちに飯食うぞ」

 「はーい」


 ほんっとこのJCは厄介だわ。反省の“は”の字もない。


 でも、


 「お兄さん、JKになっても来てあげよっか?」

 「来んでいい」

 「まったまたー」


 日頃俺しかいない高橋家が賑やかになるのはたしかである。

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