閑話 桃花の視点 猫みたいな人とご対面
「桃花、考え直さないか?」
「あなたならもっと上の高校行けるじゃない」
「お父さん、お母さん.......」
私、米倉 桃花は志望校の願書などの関係で実家に戻ってきていた。
「やっぱり駄目?」
「駄目じゃないけど、ちゃんとした目標があるなら....」
「そうだ。なんでその高校に行きたいんだい?」
でもそんなこと、こんな真面目なときに言えるわけがない。
「将来のことなんてまだ全然決まってないけど、この高校に行きたい理由ははっきりしているの」
「何か特別なことでも?」
「最近色々と楽しそうなんだ」
「楽しそう?」
「そ。体育祭とか文化祭とか他にもボランティア活動みたいな課外活動が例年よりずっと増えてきているみたいなの」
「へー、じゃあ学校生活が楽しそうだね」
嘘です。体育祭も文化祭も言ったこと無いし、全部テキトーです。
「うん。楽しそうだからって理由で志望校を決めるのは良くないと思うけど、やっぱり今のところは将来何したいなんて全然決まんないよ」
「そう....」
「まぁ、急かしても仕方ないか。大切なことなんだし」
お、コレはイケるかも。
「色々な
「.......ならもう何も言わないわ」
「ああ。桃花にはまだ少し考える時間が必要なのかもな」
「お母さん、お父さん、ありがとう」
よし。思ったより苦戦せずに説得できた。
「ということは、桃花はうちから数分で着く最寄駅から一本で行けちゃう高校に通うんでしょ?」
「? ああ、たしかに。ここから近いね」
「じゃあ高校はちゃんと自宅から通えるな」
現役中学3年生の私はこの年度だけ祖父母の家から中学校に通っていた。理由は祖父母の家の方が学校に近いためって言い訳してたけど、実は両親が鬱陶しいという思春期真っ最中の心情からきたものだ。
....だからこうして口にするくらい二人は寂しかったのかな。
「うん。高校はここから通うよ」
「そう。じゃあまた桃花に店のこと手伝ってもらおうかなー」
「ああ、忙しいときはやっぱり人手が必要だからな!」
「え゛」
あ、そうじゃん。すっかり忘れてた。私がこの家からじゃなくて祖父母の家から中学校に通うのは両親が鬱陶しいって理由以外にあったんだ。
「さーて、明日の仕込みをして今日は寝るか!」
「ふふ。うちのお弁当を美味しいって言ってくれるお客様がいらっしゃるからね」
「....。」
私の家、弁当屋だったわ。
「ふぁ~。ねむーい」
両親と進路について話しあってから一晩が経った。
金曜日の今日は当然学校があるので行かなければならない。
「桃花ぁ! お母さんたち忙しいから、自分でちゃんと支度して学校に行くのよー!」
「ふぁーい」
廊下からお母さんの声が聞こえた。
私の実家はお弁当屋で、朝早くから準備をしている。本来ならば私も手伝わないといけないけど、受験生ということから勉強に専念するため、手伝いはしなくてもいいとのこと。
その勉強も全然してないんだけどね。
「でも念のため、ちゃんと勉強しないとなぁ」
目指すは陽菜と同じ高校。あ、お兄さんもか。
そういえば陽菜はお兄さんが志望校に在籍してるってことまだ知らないのかな。
だからなのか、お兄さんは私に口止めしてきたんだよね。なんでだろ。面白そうだから別にいいけど。
「行ってきまーす」
「「いってらっしゃい」」
私は両親にそう告げてから家を出た。ちなみに出口は二か所あってうち一つは裏口で、もう一つは開けた場所、つまり店の出入口だ。
私が家を出る時間が大体オープンの時間である。
『ガラガラガラガラ』
「あれ。今からお店開くんだ。良い時間に来たかも」
「....。」
わぁー。先輩だぁ。
「西園寺さん....?」
「? 私を知ってるってことはうちの高校の子? いや、中学生か」
「はい。西園寺先輩は生徒会長でしたよね」
「今通っている高校もだよ」
「そ、そうですか」
「うん。あ、おはよ」
「お、おはようございます」
店の扉開けた瞬間、元生徒会長に会っちゃったよ。あっちは私のような一生徒なんか覚えないみたいだけど。
「えーっと」
「あ、もしかしてここのお弁当屋は―――」
「はい。うちが経営してます」
「そう。今日はバイト君―――じゃなくて、色々とあってお弁当忘れたからここで買おうかと」
「さいですか」
私の通う中学校で、私が1年生のとき西園寺先輩は3年生で生徒会長を務めていた。当時、ものすごい荒れていた時期があってこの人が卒業する頃には、うちの学校は落ち着きを取り戻したのだとか。
.......私、この人、苦手なんだよなぁ。
「じゃあ私はこれで」
「え、ワタシの後輩なんでしょ? ちょっと付き合ってよ」
「な、何を?」
「お弁当。どれがお薦めとか無いの?」
「え、ええー」
コレ。コレだよ。この人からしたら私なんて初対面みたいなものなのにこの図々しさ。
中学校の頃もよくこき使われたなぁ。まぁ、弁当くらい別にいいか。私は苦笑いで会長に答えることにした。
「日替わり弁当がお薦めです」
「滅多にこないワタシには日替わりの良さがわからないよ」
「なら定番のかつ丼はどうです?」
「学校でそんながっつり系はなぁ」
「えっと、ではヘルシーにサンドイッチ」
「ワタシ、トーストしたパンじゃないいとサンドイッチとは認めないんだ」
め、めんどくせぇ。ほんっとこういうとこだよ。クレーマー並みだよ。
「....ごめんね。最近、嫌なことあってつい人に当たっちゃうんだ」
「そっすか。大変っすね」
謝らなくていいからもう解放してくれないかな。私の口調も次第にテキトーになってきてるし。
「よし、このお稲荷弁当にしよう」
「....。」
絶対最初っからそれを買う気だったでしょ。そんな感じがするもん。なら私に聞かなくてもいいじゃんね。
「じゃあ私はこれで」
「うん。じゃあね」
「あ、そういえば西園寺先輩はどこの高校なんですか?」
「ああ。学々高等学校だよ」
「そうですか」
............んん?
「え、今なんて言いました?」
「学々高等学校」
「....。」
マジすか。私の目指してる高校じゃないですか。
「それにたしかさっき....」
「ん。生徒会長だよ」
MAJI・DE・YABAI☆
「あ、じゃあね。そろそろ行かないと電車に間に合わないや」
「あ、はい」
親ともう一度進路相談しよう。そう決めたJCであった。
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