閑話 美咲の視点 説明しよう。書記と副会長だ。

 「なんであんなこと言ったんだろう」

 「どうした?」

 「どこか体調が悪いんですか?」


 金曜日の放課後、生徒会室で執務を行っていたワタシは後悔していた。


 そんなワタシの独り言に生徒会書記と生徒会副会長が反応する。ここに居るのはワタシたち3人だけだからつい気が緩んでしまう。


 ちなみに書記は後輩女子、副会長は同級生の男子である。


 「ああ。ちょっとね。大したことじゃないよ」

 「そうですか。何かあったら言ってくださいね」

 「そういえば西園寺、今日のお昼ご飯は珍しく買い弁だったな」


 今朝はついバイト君に持って来させようとして家に弁当を忘れてしまった。だから朝早くからオープンしているお店で適当に買ったんだよね。


 というか、そもそもバイト君は今日バイト無かったし。


 「うん。家に忘れてね。取りに帰るのもなんだから最寄り駅で買っちゃったよ」

 「はは。会長もそういうことあるんですね」


 本当だよ。そういえば高校に入ってから弁当を忘れることなんて今までに無かったな。


 あれもこれも全部バイト君のせいだ。


 「はぁ.....。ワタシにも少し非があったかも」


 思い出すは数日前に彼と言い合いになった件である。なんでも言うことを聞いてくれる便利な彼に我儘を言いたい放題してしまった。


 あれはさすがに...........ウザがられたかな。


 「ふふ。私たちに相談してくださいよ」

 「こういう時くらい頼ってくれ」


 ワタシは恵まれているなぁ。


 「少し、ある人と喧嘩してね」

 「“ある人”って彼氏ですか?!」

 「そんな訳ないだろ。日頃あれだけ校内に居るカップルたちを裁いて、不純異性交遊には厳しい鬼の会長だぞ」


 「.....。」

 「あ、そうでしたね」

 「ああ。そんな西園寺が彼氏なんか作る訳がない」


 そういえば今までの交際歴は皆には黙ってたんだ。付き合ってた男性は皆他校の人だからわからないよね。


 まぁ、どっちにしろバイト君は彼氏じゃない。


 「で、その人がワタシを甘やかしてくれるから、ある仕事を手伝ってもらえるよう押し付けたんだ」

 「“ある仕事”って、もしかして生徒会の仕事ですか?!」

 「そんな訳ないだろ。いくら気分屋の会長でも一般生徒に生徒会の仕事は任せない、自分には厳しい鬼の生徒会長だぞ」


 「.....。」

 「あ、そうでしたね」

 「ああ。そんな西園寺が無責任なことする訳がない」


 副会長からの信頼が厚すぎる。


 「で、会長はそのとなんとか仲直りしたいと」

 「‟男性”って決めつけるのに迷いが無いね」

 「ええ! 会長のその顔はまさに恋する乙女のソレです!」

 「あ、スイッチ入いちゃった」


 そうだった。書記の子はこういう色恋沙汰には目がない性格の持ち主だったんだ。


 故に彼女は恐ろしく女の勘が鋭い。


 「はは。会長が? 書記は相変わらずお花畑だな」

 「はは。副会長こそそろそろ現実見た方がいいですよ?」

 「何度も言っているが、俺は二次元以外に興味がない」


 そうだった。副会長は超が付くほどのオタクで、リアルで女性の裸体を見てもなんも反応しないという笑えない体質の持ち主であった。


 故に彼の目には現実ではなくてディスプレイしか映らない。


 「仲直り.....ってほど大事じゃないよ。廊下でばったり会っても挨拶はくらいするだろうし」

 「だーめですよ! それじゃあ!」

 「え、そう?」

 「はい! あ、それと『廊下でばったり会う』ってうちの高校の男子なんですね」


 この子............なんて恐ろしいんだ。そのうちボロが出そうで迂闊に話せない。


 コナ〇君と話しているみたいだ。


 「まぁ、そこは別に誰でもいい。で、仕事任せたことに対して『自分は青春を優先したい』って怒らせてしまった」

 「うっわ。なんですか、“青春を優先”って。キモいですね」

 「そこは否めないね」


 ワタシと居ることはどうやら彼の言う“青春”に不必要らしい。ワタシが交際経験豊富だからかな。


 内容は糞なのにね。


 「つまり、会長なんかかまってられないと。止めた方が良いですよ、そんな男」

 「仕事を押し付けられるより、高校生活を謳歌したいってことだろう。至極健全で真っ当な理由じゃないか」

 「仕事を押し付けられていると見せかけて、実は学校から貸与されたノートパソコンのデータのほとんどをエロアニメで埋め尽くした君が言うんだ。そうかもしれない」


 「そういう男に限って、異性に無理な憧れを抱くんですよ。女子力が高いとか、絶対処女が良いとか」

 「憧れを抱いて何が悪い。貴様らだって男子に高身長、高学歴、高収入のいわゆる“3高”を基準に異性を見ているだろ」

 「そうだね。副会長はバスト、ウエスト、ヒップのいわゆる“3サイズ”を基準に、現実じゃあり得ないアニメ体型を異性に求めているんだ。そうに違いない」


 「なぁ、俺は会長に何か恨まれることでもしたか?」


 いや、特に。


 「無理に付きあわせたワタシが悪いかもしれないが、なにも邪魔な存在みたいに言わなくてもいいじゃないか」

 「ん? 会長は仕事を手伝ってくれないから気に病んでいるんじゃないのか?」

 「あ、副会長はもう帰っていいですよ」


 すごいな。どの男もこんなに鈍感なのか。


 「あ、そうだ。副会長ほどアレじゃないけど、そこそこ性格が近いから試しにいくつか質問してみよう」

 「なぁ、やっぱり俺、お前になんかしたか?」


 「うへぇ。コレに近いんですかぁ」

 「書記、一応俺は先輩なんだが」


 ほんの少ーしだけ似ているかも。


 「まぁ、実物は副会長より上位互換だけど、身近に居る男性で頼れる存在はあまり居ないんだ」

 「飴と鞭」


 ツッコんでくるとこも似ている。バイト君みたいに副会長にメガネを掛けさせようかな。そしたら心なしかちょっとは寄るかも。


 「質問です。なんでそんなに残念イケメンなんですか?」

 「貴様が質問するのか」


 「なんでワイシャツの中に着ているキャラTが毎日違う女性なんですか?」

 「口にしにくい質問を増やすな。まぁ、答えはシンプルだ。二次元の世界には法も秩序もなく、日替わりランチ感覚で女の子を無制限に選びたい放題だからだ」


 「うっわ」

 「反応は予想できてたし、貴様も回答を予想できただろ」


 すごいな。ここまで“好きなこと”にオープンなのところは“性癖”を隠さないバイト君と一緒だ。


 「副会長のメンタルはアスファルトに咲く花のようだね」

 「涙の数だけ強くなればいいか?」


 「まさかノートパソコンの中身だけじゃなくて所有者の中身もここまで酷いとは」

 「追い打ちのスパンが短い。休憩をくれ」


 「生徒に示しがつかないし、今日で副会長を辞任してくれない?」

 「実力じゃなくて人格で拒絶される痛みがすごい」


 本当に傷ついているのかな。さっきから平然と語ってるよ。


 「良かったですね! 副会長は明日から皆の“心のサンドバッグ”ですよ!」

 「次の役職まで用意されているのか。ASがきちんとしている生徒会だな。色んな意味で涙流していいか?」

 「で、聞きたい事っていうのはね―――」

 『キーンコーンカーンコーン♪』


 と、こんな無駄話をしていたからか、終鈴のチャイムが鳴った。さて、片付けをして帰ろうか。


 「ったく。無駄に俺を虐めてくるから下校の時間になっただろ」

 「まぁ一個くらい質問いいじゃないですか。ね、会長」


 ふむ、どれを質問しようか。


 「あ、そうだ。これはワタシの友人の話なんだけど」

 「その言い方は会長確定だぞ」

 「ベタですね」


 「副会長的にから近くに寄られたり、抱き着かれたらどう思う?」

 「ほな会長と違うかぁ」

 「副会長、口調。まぁ、あの美咲さんですからね」


 さてさて、思いついて即聞いてみたことだけど、実は結構重要なんだよね。


 「迷う必要なんてないな」

 「「と、言うと?」」

 「できる限り露出している肌は全てアルコール除菌、飛沫感染の恐れもあるからマスク、帰ったら手洗いうがいは免れない」


 ワタシはウイルスかなんかな。


 「大体、他所の男のイチモツを握った手でそこら辺を触ること自体が許されざる罪なんだ」

 「「.........。」」


 普段、他人とは気が合わないワタシだが、書記の子と感想が一致したのは確信できた。


 こいつ、マジでやべぇ奴じゃん。と。


 「握っただけじゃない。咥えた口で飲食するなど.........正気とは思えない」

 「会長、片付け終わりました」

 「じゃあ、戸締りして帰ろうか」

 「もっと言うなら―――」

 

 今日も生徒会室は賑やかであった。



――――――――――――――――――



地味に今後出てきそうなメンツ・書記と副会長!!


ども! おてんと です。


生徒会のメンバーは他にも居ますが、現状これ以上増やるつもりないです。


次回はお待ちかね(?)の特別回です。


な、な、な、なんと! 恒例(2回目)の10000PV突破特別回です!! 超ビッグイベントです!!!


今更ですね。あの頃、アンケートに回答してくださった読者様方、申し訳ございません。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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