閑話 美咲の視点 バイト君は寝かしてくれなかった

 「ただいま」


 藁小屋でバイト君と別れてからワタシは自宅に戻った。とりあえず、両親に伝えておこう。寝ているだろうけど大切なことなんだし、一応ね。


 ワタシはそのまま両親の寝室へ向かった。戸を開けて中に顔を出すと、案の定二人は寝ていた。


 「お母さん、起きてる?」

 「んあ? みさきぃ?」


 寝ぼけてる。お父さんは起きる気配すら感じさせないほど鼾をかいている。


 「うん、明日の朝食はバイト君も居るから」

 「あさごはんたのむよぉ」


 会話が噛み合ってないけど、コレで良し。


 さっきはバイト君に『親を叩き起こす』っていたけど、そんな鬼のようなことはしない。


 大丈夫、人数分のご飯があれば誰も文句言わないさ。


 「おやすみ」


 ワタシはそう告げて自室に戻った。


 道中、兄の部屋の前にて、


 『あんっ! そこらめぇ!』

 『そうか? ここは喜んでいるぞッ!』

 「.......。」


 妹が隣の部屋に居ることを自覚しているのだろうか。よくまぁ、毎日飽きもせずズッコンバッコンするものだ。


 「それくらいお互い愛し合っているってことか」


 ワタシには理解できそうにない。尊敬半分、迷惑半分だから今のところは二人に文句を言っていないだけ。


 「にゃー」

 「ただいま、ゴロゴロ君。」


 本当に可愛いな、この白黒の毛皮を纏った子猫は。


 「ほら、缶詰を買ってきた」

 「にゃー」

 「器に移すから少し待って」


 先程、私がコンビニで買ってきた物の中から、ゴロゴロ君の好物である猫缶を取り出した途端すごいすり寄ってきた。正直、器に移したいのにこれでは邪魔である。


 「邪魔」

 「にゃー」

 「クソ猫め」

 「にゃー」


 猫に何を言ってるんだか、ワタシは。


 今日はもう寝よう。隣がうるさいけど、イヤホンして音楽聞けばいい話だし。


 そう思って風呂に入り、歯を磨いてからワタシはベッドに寝転がった。いつものようにゴロゴロ君もワタシの寝床に侵入してきた。可愛いけど、すごい邪魔。


 いいよ。寝返りで潰してあげる。






 「............寝れない」


 横になってからどれくらいが経っただろうか。いつもはすぐ寝れるのに、今日はなぜか時間がかかる気がする。


 「あ、バイト君のせいか」


 そうだよ。絶対そうだ。


 別に同じ部屋どころか、同じ屋根の下ですらないのに、少し意識する自分が居る。


 「......せっかくなんだし、少し付き合ってもらおうかな」


 彼のことを考えると、いつもは“受け”に徹するワタシが、ついこちらから行動をしてしまう。


 「よし。そうと決まれば善は急げだ。なに、あんな藁小屋で早々寝れるわけがない」


 勧めといてなんだけど、いくら藁が居心地良くてもすぐに寝れないでしょ。人んちなんだし、彼も緊張して寝れてないはず。


 「ゴロゴロ君退いて。彼のとこ行ってくる」

 「んどッ?!」


 .......猫なの?


 時々飼い猫のこの鳴き声を聞くと、そんな疑問が脳裏をよぎる。


 ワタシは猫かなんだかわからない怪しい小動物を退かして、バイト君が居る藁小屋に向かった。






 「バイト君............君、すごいよ。色々と」


 藁小屋に入る前に軽く「入るよ」って断ったけど、返事が無いから中に入ってしまった。


 そしてワタシは驚いた。


 「.....なんで裸?」


 彼はこの秋という夜が涼しい時期にも関わらず、全裸で寝ていた。


 見ればそこら中に脱ぎ散らかしたであろう彼の服があった。寝相が悪いのかな?


 「すぴー、すぴー」

 「......。」


 実際に『すぴー』とか言う人いるんだ。


 一糸まとわぬ彼の裸体をワタシはガン見した。服を着ないで爆睡する彼を前に困惑しているわけじゃない。


 ブタゴリラ父とブタゴリラ兄の裸以外、異性のなんて見たことがないんだ。無理もないだろう。


 「藁ってそんなにあったかいのかな。ねぇ、風邪ひくよ?」


 わかってる。こんな声量じゃ彼は気づかないだろう。起きもしないだろう。


 でも、それでいい。だって今の一言はのためだから。


 「うわぁ。これはすごいなぁ。先輩がハマるわけだ」


 ワタシは今の状況が安全だと知れた途端、彼に接近して品定めをし始めた。


 「肩とかもう、採れたて新鮮肩メロンだよ」


 目指すは街雄さんだよ、バイト君。


 「脇とか鎖骨部分が綺麗でいいね。水を垂らしたらこの窪みに溜まりそう」


 ワタシはしばらく全裸の男を舐め回すように観賞した。大声を出していないし、肌に触れてもいないのでそう簡単には起きないだろう。


 「さて、あとはやはり.....」


 うん。もう身体は充分堪能した。あとはだけだ。


 全裸なんだから当然―――


 「これが.....バイト君のバイト君」


 ――下半身も裸である。


 「うっわぁ。コレかぁ」


 ワタシは棒状のナニをまじまじと見てしまった。


 父や兄のは見たことあるけど、血の繋がっていない異性のを見るのは初めてだ。


 「先っちょ、皮被ってないけど痛くないのかな? 露出してるよ?」


 なんで彼はこうも無防備なんだろう。ココも全裸じゃないか。


 ワタシは一度ソレから視線を外し、辺りを見渡した。周りには彼が持っていた荷物、着ていた上着、白のTシャツ、短パン、靴下があった。


 「寝相が悪いとは言え、ここまで脱ぎ散らかす? まぁ、貴重な体験ができたからいいけど」


 あれ。よく見たらパンツが無いじゃないか。


 「.......。」


 なんで?


 公園で彼と会った時点で彼はもうノーパンだったってこと?


 いや、それ以前に中村家に居たんだ。風呂や食事をしたって言ってたし。そこでもバイト君はパンツを穿いていなかったのだろう。


 「君って意外と奇行に走るよね。どんな趣味してるの?」


 そんなこと言っても起きる気配のないバイト君である。


 「でも一番の驚きは.....」


 コレのこの“強度”である。


 ブタゴリラ兄と凛さんのセッ〇スの最中を見たことは無いが、ち〇ぽが硬く、大きくならないと穴に入らないのだろう。それくらいの知識はある。


 でも、この頼りなさはなんなんだ。


 「えい」

 「おふッ!」


 思わずソコにデコピンをしてしまった。


 その際、彼が悲痛な声を発したが、まだ起きていない。危ない。バイト君が起きてしまうところだった。なんでデコピンしたんだろう。


 あ、でも少しムクっとなった。ムクって。


 「このまま刺激を与え続ければムクムクとなるかも―――」

 「んん~」

 「っ?!」


 やっぱり起きちゃった?


 「すぴー、すぴー」


 ワタシは慌ててその場を離れようとしたが、そんな必要はなく、彼は起きなかった。


 「よし。時間が許す限り続けよう」






 「あ、もうこんな時間だ」


 ワタシはスマホで時間を確認し、見ると午前3時半だった。


 「バイト君のせいで寝れなかったじゃないか。処すよ? このち〇ぽ」


 全くもって理不尽極まりない話である。


 「ふむ。見ていて飽きない。それどころか触れてみたいと思ってしまう自分がいる」


 知れば知るほど興味深い。彼の性格、彼の身体、彼のち〇ぽ。どこもかしこもまだ知り足りない。


 「まぁ、今日はこの辺にしておこう」


 そろそろ家に戻って少し早いけど朝ご飯の支度でもしよう。


 「あ、そうだ」


 ワタシは再びポケットからスマホを取り出してカメラを起動した。


 『パシャッ!』


 最後にこれだけはしようと思ってたんだ。永久保存版確定の一枚である。


 「............いや、一枚じゃ不安だし、つまらない。もっとだ。もっと」


 しばらくシャッター音が鳴り響く藁小屋だったが、それでも彼は起きなかったのでワタシはもうしばらくその場に居たのであった。

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