第182話 ハメられた和馬

 「チュンチュン............チュンチュン」

 「んあ? 朝?」


 こんな朝チュン嫌だ。誰とも寝てないよ。


 「藁? え、なんで?」


 そうか、昨晩は西園寺家でお邪魔したのか。


 目が覚めるてスマホを見ると、4時ちょい過ぎである。良かった。アラーム設定し忘れてたけど、なんとか良い時間帯に起きれた。


 「へっくしょい!」


 寒っ。日も出ていないこんな時間帯だから寒いのは当然か。


 天気は........雲は見当たらないから晴れだろう。お外真っ暗でわかんないや。後でスマホのお天気アプリで確認しよ。


 「............。」


 いや、それ以前になんで俺はなんだ。寒かった理由これか。


 辺りを見渡すと俺が脱ぎ散らかした服があった。いつもはパンツくらい穿いているんだけど、今回は千沙に返してもらうのを忘れていたのでノーパンだった。


 「ま、まぁ、まだ藁小屋だからいいだろう」


 だって他の人が要る部屋でもなかれば、同じ家に居るわけじゃないし、バレないだろ。


 「相変わらず寝相が悪いなぁ。そういえば、昨夜は『藁って意外とあったかいなぁ』ってほざいてたっけ? 暑いと感じると脱ぐ癖どうにかならないかな」


 そんなどうしようもない独り言をしながら、俺は服を着直して西園寺家へ向かった。





 「高橋、お邪魔しまーす」


 やべ、つい中村家にお邪魔するときの感覚で玄関のドア開けちまった。


 ピンポンくらいすれば良かった。常識がなっていないな俺ってば。


 まぁ、会長が健さんたちに伝えているらしいし、軽いサプライズ感覚でいこう。そんでもって、お礼とか挨拶をちゃんとしとこう。


 「「「「っ?!」」」」

 「あ、おはよう。バイト君」


 居間に行ったら皆さんお揃いのようで。それも俺の登場にびっくりしている模様。


 早いね。まだ日が昇ってませんよ。お外真っ暗です。いつものことか。


 「いやぁ、昨晩は助かりました。急にすみま―――」

 「な、なんで和馬居るんだ?!」

 「え」


 健さんが急に大声出してきた。朝食の最中らしく、凛さんが口を押えて俺に言ってくる。

 

 「し、しかもインターホンを鳴らさずに」

 「そ、それはマジですみま―――」


 「そこはどうでもいい! 今日はバイト無いぞ、和馬!」

 「ですから、昨晩美咲さんから聞きませでした?」


 「も、もしかして、若くしてワーカホリック.....」

 「違いますって!」


 「.....俺たちは気づかぬうちに和馬を追い込んでしまっていたらしい」

 「自分は気づかぬうちに不法侵入してしまったらしいです」


 え、なに。なんで? 美咲さんから事情を聴いてないの?


 俺は美咲さんを見た。


 「てへ☆」

 「.....。」


 あんた、性格上、普段『てへ☆』とかしないだろ。


 でも可愛いな! 畜生ッ!


 「え、つまりどういうこと?」


 陽子さんのその問いにバイト野郎は昨晩泊まるまでに至った経緯を話した。


 「わ、藁小屋って......。いつの時代だよ」

 「本当、ご迷惑をおかけしました!」

 「美咲、ちゃんと言いなさいよ.....」

 「言ったよ? でも、寝ぼけてたから会話が成り立たなかった」

 「なら朝言えよ」

 「そ、そうだよ。むしろ皆揃っている朝に言ってよ」


 本当だよ。なんでそんな重要なこと言わないんだよ。


 おかげで俺が勝手に藁小屋で寝泊まり


 「それは.....“思いやりサプライズ”だよ。皆の目を覚ますため、致し方なくね。そう、致し方ないことなんだ」

 「「「「「......。」」」」」


 “思いやり”をサプライズって言う奴初めて見た。


 駄目だ。こいつに何を言ってもそれっぽいこと言ってくるだろうから、ストレスが溜まる一方だ。


 「ああ、それで達也の隣に謎のお茶碗とか味噌汁が置いてあったんだ」

 「俺はてっきり美咲が寝ぼけてたんだと思ってた」

 「まぁ、なんだ。せっかく来たんだ。和馬、飯食ってけ」

 「そうさね。美咲、作ってあるんだろう?」

 「もちろん」

 「いただきます!!」


 朝から賑やかになったけど、さすが西園寺家。突然の来客のようなバイト野郎を迎え入れてくれるとは。


 なんか家に帰りたくなくなってきた。色々な意味で。


 俺は洗面台を借りて顔を洗い、温かいご飯を頂くことになった。


 「それとね、バイト君。昨晩のことなんだけど」

 「?」

 「....やっぱりなんでもない」


 どうしたんだろ。俺の顔に何かついているのかな? 藁はさっき一つも残さず取ってきたし、たぶん大丈夫だと思うけど。


 「それで、依頼の電話が無くてもやる気のある和馬君はこの後どうするんだ? まさかただ飯とは言うまい」

 「是非とも働かせてください!」

 「やっぱりワーカホリックか」


 言わせたようなもんじゃんね。


 「冗談だ、冗談。仕事はあるし、手伝ってもらおう」

 「ありがとうございます! あとすみませんが....」

 「わかってる。美咲と同じようにお前も高校生だ。いつも通り7時までで頼む」

 「ありがとうございます!」


 さすが健さん。話が早くて助かります。


 食事を終え、こうしてバイト野郎はいつも通り西園寺家で早朝バイトをすることになった。


 「あ、作業着がない」

 「ああ、中村家からハシゴしたんだっけか」

 「なら俺のを貸してやるよ、

 「“おさがり体験”がもうできるんだね!」

 「.....。」


 貸してもらうんだ。今回はツッコまないでいよう。







 「なんかトマトの収穫減りましたね」

 「お、わかるようになってきたか、愛一郎」

 「あっ君はリコピンオーラを感じるようになったんだね」


 そんなもん感じてないです。


 俺は達也さんから作業着を借りて早朝バイトを開始する。そして最近、トマトの収穫をする際にトマトの量が全体的に減っていることに気づいた。


 「10月だからなぁ。そろそろトマトは収穫時期の終わりを迎えてくる頃だ」

 「そうですか。なんか寂しいですね」

 「ふふ。あっ君はここで育ったようなものだもの」


 別にそれで寂しいと思っている訳じゃないけど。


 「まぁ、二人にトマトのことをたくさん教わりましたから。その痕跡がなくなるのがちょっと空しく思います」

 「お前は良い奴だけど、正直に本音を語るとこの上なく気持ち悪いな」

 「禿同。なんでだろうね?」


 俺が聞きたい。バイト野郎に向かってドストレートに『気持ち悪い』となんで言えるかを。


 「が、まだお前はトマトの全てを知っていないぞ」

 「え、結構教えてもらいましたけど」

 「ふふ。それじゃあトマトは何科でしょう?」


 “何科”? そんな専門的な“科”とかあるのか。


 「トマト科ですかね?」

 「はいブッブー!」

 「減給な」


 罰重っ。


 「もうっ! またそういう変な嘘言って」

 「はは。答えは“ナス科”だ」

 「な、ナス? トマトですよ?」


 「栽培方法や花がナスと似ているからだよ」

 「まぁ、ざっくりな区別の仕方だがな。他にもナス科はあるぞ。ピーマンとかジャガイモとか」

 「ジャガイモ?! あれも?!」


 「そ。普段、スーパーで売られている野菜を見ただけじゃわからないよねー」

 「ああ、それなりに自ら学ぶか、その環境に身を置かないと知れない知識ってヤツだな」

 「へー。そう言われるとトマトのこの黄色い花も中村家のとこで見たナスの紫色の花と似ている気がします」


 知らなかった。実は全然違うのに同じ科なんだな。


 正直、将来に必要な知識と言えばどう考えてもそうじゃないが、それでも―――


 「興味のあることは知れば知るほど知りたくなるだろ?」

 「っ?!」

 「あっ君、そんな顔してたよ」


 ふ、二人に心を読まれていただと?!


 「ふふ。じゃあ追加でクイズだよ」

 「減給しないように気をつけろよ」

 「勘弁してくださいよぉ」


 こんなこと言っているが、バイト野郎、実は給料なんかそっちのけである。「学生の癖に生意気な奴め」って思われるかもしれなけど、給料目的でこのようなバイトは続けない。


 金銭なんかより、今はもっと素敵な事に出会えた気がするから“もっと知りたい”と思ってしまうのだろう。


 ...........まぁ、それもこれも中村家で夏休みに20万程稼いでが生じたからだろうな。

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