第180話 ブランコのあのチェーンの部分って臭いし、汚いよね
「これからどうしよっかなー」
バイト野郎こと和馬は中村家を後にして、帰宅途中で家の近くの公園にあるブランコに座っていた。
「勢いで出てきちゃったけど、まぁ、あそこには長居できなかったしなぁ」
そう。桃花ちゃんから両親の、特に母親の喘ぎ声がうるさいという近所迷惑の報告があったため、急いで中村家を出たのだ。
なので本来ならば急いで帰らないといけないのだが、帰宅途中で戸惑いの気持ちが生じたので歩みを止めてしまった。
ああー、自分の両親の子作り事情を他所のうちの子に知られてめっちゃ恥ずかしいよぉ。しかも葵さんや千沙は本日二回目。
「家に帰って両親を止めないといけないんだけど、正直、もう喘ぎ声は聞きたくない。絶対まだヤってるよ」
もう嫌だわ。回数の問題じゃない。慣れることなんてないし、慣れたくもない。聞きたくもないんだ。
「でも近所迷惑なんだよなぁ」
とりあえず、遅くなったが両親にメールだけでもしておこう。注意したら窓は閉めるだろうけど、あの両親のことだ。きっと冷房効かしてまたおっ始めるのだろう。勘弁してほしい。
「はぁ.....帰りたくない」
ブランコでゆらゆらしながら、深いため息をつくバイト野郎。
本当に両親揃ったって良いことないよなぁ。ちょっとは健全な男子高校生のことを視野に入れてほしいものだ。
「この辺、ネカフェなんか無いし、ダチんちに急に押しかけるのもなぁ」
幸い、夕飯は中村家でいただいたのでお腹は空いていない。朝まで家には帰りたくない気分なんだ。ただそれだけのこと。
「今更中村家に戻るのもなぁ」
いくら東の家には部屋が余っているからと言ってもさすがにそれは迷惑だろう。
「明日学校なのにぃ」
「え、バイト君、学校あるの?」
「あるよ。月曜だぞ............って、会長ッ?!!」
うおっ?! びっくりした。会長じゃん。俯いていたから全然気づかなかった。
「ど、どうしたんですか? こんな所で」
「ん」
「ああ。なるほど」
見ると会長は私服姿で、どうやらコンビニで買い物でもしたかのようなレジ袋を持っていた。出かけてたのね。
ちなみに、今日の私服姿はトレーナーに下はショートパンツである。もう10月だから夜は涼しいはずなんだけど、美脚見せというサービス精神を欠かさない会長に感謝しか感じない。
「さっき敬語を欠いたよね?」
「す、すみません。まさか会長とは思わなくて」
「まぁ、バイト君だし、今回は見逃してあげる」
処したがり癖はどうにかならないのだろうか。
「で、なんで学校あるの?」
「いや、ですから明日平日じゃないですか。会長もありますよね?」
「そうだけど。君、ドロップアウトしたんでしょ?」
してねーよ。
「なんでそうなるんですか........」
「こんな時間に帰宅せず、公園のブランコでため息ついてたらもうドロップアウトを疑わざるを得ない」
俺はリストラされたサラリーマンか。
「違いますよ。ちょっと色々あって家に帰りたくないだけです」
「......そう」
そう言って会長は俺の隣のブランコに座った。
「はい」
「え、いいんですか?」
会長はコンビニで買ってきた物の中からプリンを取り出して俺に渡してきた。
「いいよ。余分に買ってあるし」
「すみません。いただきます」
さすが先輩。プリン大好き。会長も大好き。抱いて。
が、俺はあることに気づいた。
「あの......スプーンは?」
「.....家で食べるつもりだったから受け取ってないや」
え、ええー。プリン渡されただけじゃあこれ食えないよ。でも、だからといって頂いた物を返すのもなぁ。
貰っといて言うのもなんだけど、スプーン無しのプリンって有難迷惑ですよ。
「なんとかして食べて。舌を使うとか」
「はぁ」
「君のクンニテクの見せ所だ」
未だ誰にも披露したことないけどな。
会長は今日も絶好調ですね。よく異性の前で平気な顔してクンニとか言うよ。尊敬しちゃう。
「んんッ! んが! ふッ!!」
「うっわ。必死になって舐めてる」
お前がやらしたんだろうが。先輩が後輩にスプーン使わずに食べてって、軽くパワハラだよ。
こうしてなんとかスプーンを使わずに食べ終えた俺はご馳走様を告げてまたブランコに座った。
「で、何があったの?」
「え。ああ、まぁ、ちょっと家に両親が帰ってきてですね」
中村家では事故とは言え、さすがに息子自ら他人に「両親がセッ〇スしてて」なんて言えない。
「“喘ぎ声”.......か。身内のセッ〇スは気まずいよね」
なんでわかんだよ。言ってねーだろ。
「よ、よくわかりましたね」
「え、本当だったの?」
「なんつうカマを掛けてくるんですか?!」
「いや、なんかバイト君の家族もきっとバイト君みたいな感じなんだろうなって」
普段、俺のことどういう目で見てるかよくわかりましたよ。
っていうか、予想でもよく口にしたよな。一切の躊躇いも感じなかったわ。
「まぁ、気持ちはわからないでもない」
「男子高校生が居るっていうのにお構いなしなんですよ? するなとは言いませんが、時と場合を考えてほしいです」
「そうだね。ちょうど今もうちではブタゴリラ兄と凛さんが“あんあん”ヤっているとこだよ。隣の部屋だからよく聞こえる」
まーじか。達也さんと凛さん今お取込み中かよ。っていうか、ブタゴリラ兄って言い方。
そう考えるとバイト野郎と会長はある意味、お互い被害者なのかもしれない。
「ああ、それでコンビニまで散歩に」
「そ。でも家に帰ってもまだ続けていると思う」
「さ、さいですか」
「君は? どうするの?」
「自分は......会長と違って両親が揃うのは一時的なことですし、家帰って我慢するよりかはどっかで時間を潰しようかと」
「そう。ワタシはこんな生活がかれこれ2年経つかな。でも、慣れそうにない」
「はは」
そりゃあそうか。だから出かけたんだもんな。
ったく、もうちょっと他人のことを考えてほしいものだ。
「さて、公園で時間を潰しますか」
「......。」
「ああ、会長。プリンご馳走様でした。お礼と言ってはなんですが、家まで送りますよ」
西園寺家すぐ近くだけどな。暇だし。
「来なよ。うちに」
「? ええ、送らせていただきます」
「いや、そうじゃなくて、うちに泊まりに来なよ」
え。
「い、いや、それは流石に邪魔ですよ」
「夏休みの間は中村家でも普通に泊まっていたんだろう?」
「そ、そうですが、いきなりは迷惑ですって」
「迷惑かどうかは西園寺家の者が決めることだ」
え、ええー。いいの? いや、いくらなんでもそんな急にお邪魔するなんて駄目でしょ。
「しかし―――」
「会長命令。言うこと聞かなかったらクビにする」
「......。」
あんた西園寺家でどこのポジションだよ。
「でも、ほら、以前、凛さんから『ちょうど空き部屋があったからそこを借りている』って聞きましたよ。もう空き部屋無いですよね?」
「そうだね」
「『そうだね』って」
「なに、別に空き部屋である必要はないでしょ」
「そ、それって.....」
会長と相部屋ってことですかッ?!!
そ、そんなことしたら、どうなるかくらい会長だってわかっているはずだ。それでも―――
「期待には応えよう」
「っ?!」
心を読まれた?! これは.....これはありえる!! ワンチャンありえるッ!!
最近、会長とは良い感じの雰囲気だと自覚している部分もなくない。そうか、今日は卒業時だったのか.....。さよなら童貞。
「でも、陽菜を断っといて会長の誘いに乗るのもなぁ」
「泊りのことかな? 安心してくれ。こう考えればいい」
いや、泊まりじゃなくて、身体の関係みたいな、彼女彼氏の関係みたいな。
............経験を積むという目的ならアリだろう! 田舎の楽しみなんてこんなもんだよ!! ビバ・セフレ!
「『今日は諸事情があって仕方なく、偶々居合わせた美咲さんが魅力的だった』って」
よく自分で魅力的だったとか言えるな。たしかに巨乳美女は魅力以外の何者でもないけど。
よし、決めた。コンドー
「じゃあ行こうか」
「初めてなのでリードお願いします!!」
「? ああ。任せて」
男としてこういった発言は頼もしくないが、この和馬、変に意地を張りたくない。未経験なバイト野郎より、過去何人と経験しているだろう会長を頼ろう。
「ああー、緊張してきました」
「寝心地良いと思うよ」
「せっかくの“お誘い”で寝るなんて!! ふっ。今日は寝かせませんよ?」
俺は不敵な笑みでそう言った。なに、体力には自信がありますよ。
こうして、バイト野郎は西園寺家に行くことになった。
唐突なラッキーハプニング。控えめに言って最高である。親父、母さんありがとう。あんたらと違って俺はちゃんとゴムするから安心して。
―――――――――――――――――――
ども! おてんとです。
農業系ラブコメディーなのに最近、全然農業してなくてすみません。許してください。
ということで、反省して次回はそうします。
え、今日の続きはって?
ふっ。野暮なこと言わないでください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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