第170話 藁わは別に寂しくないぞ!

 「うぅ....千沙ぁ」


 天気は曇り。10月に入ってから秋という季節を感じさせるような気温や湿度になっていき、夏のような暑苦しいは日々はもうない。と言っても、運動すれば暑いのは変わらないけど。


 「ねぇ。せっかくワタシが仕事手伝ってあげてるんだからいい加減泣き止んでよ」

 「す、すみません」


 日曜の朝9時から俺は西園寺家総出で稲作農家が栽培した藁を回収しているところだ。いや、ほんっと会長も手伝うとか超珍しいよ。


 もちろん、中村家も西園寺家も稲作をしていない。稲を栽培している農家から買い取って、来年まで使う藁を確保するのだが、量が多いため会長も手伝っているのだ。


 ちなみに、ここの稲は松原まつばらさんと方が栽培していたらしい。


 「しっかし広いですねー」

 「ここのお米は美味しいよ? 90点あげちゃう」


 何様だこいつ。


 「あと10点は?」

 「藁って束ねるときになんかチクチクしない?」

 「....。」


 味関係ねーじゃん。


 今は会長たちと水が抜かれた乾いた田んぼの上で、藁をある程度の量集めて紐で縛り、束ねたものをトラックの荷台に乗せる作業を繰り返している。


 藁は事前に数か所にわたって山のように集められているため、俺たち6人は手分けして取り掛かっている。ここでは俺と会長しかいないのだ。


 「ああー。自分は何が間違ってたんでしょうか」

 「またその話? 間違いだらけの人生を現在進行形で送ってるんだから手遅れだよ」


 人が落ち込んでいても全ッ然慰める気のない巨乳会長である。人の心を持ち合わせていないのだろうか。


 「というか、君さ。ワタシを騙してたよね?」

 「え、何のことですか?」

 「8月からできた“妹”って千沙君のことでしょ」

 「ええ」

 「ワタシは君の親が再婚して妹ができたのかと思ったよ」


 ああー。そういえば会長が前そんなこと聞いてきたな。「あの女の子は誰?」ってゴミでも見るかのような目でバイト野郎を睨んできたって言うアレ。


 「アレは会長が勝手に勘違いしたんでしょう?」

 「あ、そういうこと言うんだ」

 「はっ。第一、自分に妹ができようができまいが会長には関係ないですよ」

 「....。」

 「痛い痛い!! 藁で顔を突くのやめてください!!」


 会長がある程度束ねた藁の先で俺を突いてきた。地味にチクチクして痛い。


 「うっわ、服の中に藁がめっちゃ入ってるし。チクチクするぅー」

 「なんだか今日のバイト君は冷たいよね」

 「え。ああ、もう妹がいなくなったことに自棄になってますから」


 俺は作業着に入った藁を取りながら返答した。


 昨晩、中村家で夕飯を頂いてから俺はその後すぐ家に帰った。千沙からの“兄解除”宣言以降、気まずい雰囲気になってしまった中村家に長居することなんてできなかったからね。


 「....そんなに妹が欲しいならワタシがなってあげようか?」

 「え゛?」


 会長がなんかとんでもないこと言い出してきたんですが。


 「い、いや、いいですよ」

 「ワタシならちゃんとした兄が居るから本物の妹が味わえるよ?」


 いや、“妹を味わう”ってなんだよ。なんか性犯罪っぽいぞ、それ。味わっちゃいけないだろ。


 「会長、年上じゃないですか」

 「....ふーん」

 「それにこんな大きな妹は嫌です」

 「.....。」

 「痛っ?! だから藁で突くのやめてくださいって!!」


 会長はどちらかというとお姉さん系だよね。巨乳だし。


 「モデル体型って言って」

 「わ、わかりましたから。いい加減、藁で突かないでください」


 未だ束ねた藁でバイト野郎を突いてくる生徒会長。大きいは褒め言葉ですよ、この爆乳が。


 「ちょっとすみません」


 俺はツナギ服の上半身部分のチャックを開け、インナーシャツをばさばさと揺らして中に入った細かい藁を落とした。


 でも、身体に付いて全然取れてない。このままだとチクチクするんじゃん。


 「........。」

 「あー、もう。しょうがない。バイト終わったら取るか」

 「.....脱ぎなよ、シャツ。ワタシも手伝うからさ」

 「え」


 やった張本人がなんか言い出してきた。やり過ぎたことに自覚したんだろうか。反省している様子じゃないけど。


 「じゃ、じゃあ」


 俺はインナーシャツを脱いだ。


 「おおー」

 「うっわ。すごい付いてますね」

 「わ、ワタシは背中から取ろう」

 「あ、はい」


 どうやら会長はバイト野郎の後ろに回り込んで藁を取ってくれるらしい。


 「すごい筋肉だね」

 「え? まぁ自宅で少し鍛えてますから」

 「“少し”?」


 会長、筋肉ウォッチしてる場合じゃないですよ。早く藁取ってくださいよ。


 「それより背中はどうですか? 結構、藁ついてますか?」

 「ああ。事態は深刻だ。もう少し時間がかかる」

 「そ、そんなに?」


 そう言っている割りには全然取ってくれないんだけど。会長の指が背中当たってないから、会長が何もしてないこと丸わかりだよ。


 「よし。前見せて」

 「え。前は自分でやりますよ。っていうか、後ろ全然取ってませんよね?」

 「うるさい」


 え、ええー。


 会長は今度は俺の前に来て筋肉ウォッチをし始めた。おい、本当に何してんの?


 「あ、あのですね。達也さん筋肉すごいじゃないですか。俺のなんか見ないでください」

 「あんなブタゴリラと君のを一緒にしちゃいけない。腹筋すごいね」

 「ちょっ! お触り禁止ですって」

 「それに兄の身体なんかより異性の身体の方が見てて楽しいじゃないか」

 「そ、そうかもしれませんけど。今はバイト中です」


 会長が俺の腹や胸を無許可で触ってくる。依然として身体についた藁を取ってくれない。


 「ほら、自分の母親の身体より、他所のうちの若妻の身体の方が興味あるでしょ?」


 そうかもしれないけど、実の母親を比較対象にしないでほしい。ちょっとウプッてきた。


 「藁取ってくださいよ。チクチクしてて気持ち悪いんですから」

 「わかった。ここのを取ろう」 

 「あんっ!」

 「ふふ。良い声で鳴く」


 会長が俺の乳首に付いた藁を乳首ごと摘まんできた。


 「ちょっと! いい加減にしてくれないと後で自分もを摘まみますよ?!」


 ドストレートセクハラでも食らえ。


 「別にかまわないけど? あ、くりくりすると気持ち良いでしょ」

 「あんっ!」


 バイト野郎の渾身のセクハラが利かない。


 ねぇ、これ誰得? 逆ならまだしも、誰もこんな絵面望んでないよ?


 「攻めようか」

 「らめぇぇぇええ!!」


 美咲さんによって俺の未開発乳首が両方いじられる。田んぼの上で。


 「良い顔....ぞくぞくしてきた。ワタシも普段こうやっていじるから気持ち良いのはわかるよ」


 そして会長のオナニー事情が発覚。この人も大概だよな。よくそういうことを異性の前で言えるよね。


 「おい、てめーら!! 田んぼの上でナニしてんだッ?!」


 遠くから健さんの怒鳴り声が聞こえた。そりゃあそうだ。仕事しないで堂々と田んぼの上で乳首開発してんもんな。


 こうして、妹がいなくなって寂しい思いをするバイト野郎を会長が慰めて(?)午前中の仕事は終わった。


 後日談だが、会長が洗濯バサミを片手に、「次はコレで」と言ったことに対して俺は無視しかできなかった。

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