第169話 久しぶりの食事会
「え、いいんですか?」
「いいのよぉ。むしろ夏休み以来、うちの食卓は少し寂しいから」
現在、土曜日の18時13分。お外が暗い時間帯である。先程まで葵さんと仕事をしていたが、彼女は先程家に戻ったのでこの場にはいない。
俺はバイトが18時に終わったので家に帰ろうとしたが、中庭で真由美さんから待ったがかかる。
「でも、その......」
「あら、もしかしたら両親が
「いえ、そういう訳じゃないんですが......本当に、またお邪魔していいんですか?」
真由美さんはバイト野郎を夏休みのときの“住み込みバイト”と同じように、土曜日の夜は中村家でご飯を食べないかって誘ってくれたのだ。
正直、超嬉しいが週一とは言え、また甘えてしまって良いのだろうか。少し躊躇してしまう。
「なぁにぃ? 泣き虫さんらしくないわねぇ」
「なんというか、あれ以来思うんです」
「?」
「『
「ふふ。大袈裟ねぇ」
「い、家帰って、静かな空間で飯食う日々がない真由美さんにはわかりませんよ」
「そうねぇ。でも似たようなことはあるわよぉ」
いや、5人家族が似たようなことあるわけないでしょ。絶対賑やかじゃんね。
「普段、千沙が居ても居なくても家族で食事をしててもねぇ、途切れるのよぉ?」
「何がですか?」
「“会話”よ、会話」
「......。」
「一人減ったのだから食卓も窮屈じゃないはずなんだけど、それでもどっかしらで会話が終わっちゃうわぁ」
「...........。」
「少し前の生活に戻っただけなのに、あまりにも“存在が濃かった”からそうなっちゃったのかもしれないわねぇ」
どうしよう。人妻との会話、数分で涙出そうなんですけど。
「では.....お言葉に甘えて」
「ふふ。よろしい」
なんて優しい家庭なんだ。こんな変態を受け入れるどころか、招き入れるなんて。
「ああ。俺、中村家の子になりたい。いや、真由美さんと結婚したい」
「こ、心の声よね? 漏れてるわよぉ」
「す、すみません」
「ちょっとそういう目で私を見ないでよぉ? 旦那が居るんだから」
ということは、雇い主を耕せば、
嘘です。そんなことできませんよ。もう、雇い主がパパでいいって思えるもん。名前まだわからんけど。
「あ、このままだと家に上がれないですし、一回家に帰りますね」
そうじゃん。俺、今の服装は作業着じゃん。仕方ない。面倒だが一回家に帰ってシャワー浴びてこよう。
「それじゃあ二度手間じゃない」
「ですが―――」
「あの人の服を借りれば.....って思ったけど、そういえば泣き虫さんの服がまだ残ってたわぁ」
あれ? 住み込みバイトが終わって、家に帰る際に持ち物は全部持って帰ったぞ。なんでまだ俺の服があるんだ。
「すみません。自分、忘れてしまったみたいですね」
「いやねぇ、陽菜の部屋から“社畜”ってプリントされた白のTシャツが出てきてねぇ」
「え」
「アレ、泣き虫さんのでしょう?」
なんで陽菜の部屋に俺のTシャツがあるんだよ。
あ。アレか?! 以前、雨降ってるときに俺んちに来た陽菜に、着替えを貸したTシャツか?!
いや、返せよ! なにテイクアウトしてんだよ!!
「は、はは。でも、ほら、Tシャツだけみたいですし、下着とか諸々考えたらやっぱり帰らないと」
「Tシャツだけなんて誰も言ってないわよぉ」
「え」
「短パンも下着も.....たしか靴下まであったわぁ」
なんで一式全部あんだよ。おかしいだろ。
あいつ、勉強会と称して俺の服こっそり盗んでったな。ねぇ、逆ってあんの? 男の子の盗って何が良いの?
さっきまでの感動返して?
「逆になんで疑問に思わないんですか? 末っ子が男もん一式持ってたら母親的に注意しましょうよ」
「そりゃあ不思議に思ったから聞いたわよ?」
「なんて言ってました?」
『和馬が寂しくなったらコレ
「って言ってたわぁ」
人の衣服をシャブみたいに言わないで?
「それを聞いて放置しないでください」
「ふふ。愛が深いなぁと思ったわぁ」
陽菜の場合、“愛”というより“闇”が深いです。
この後、バイト野郎は真由美さんから陽菜が盗んだ衣服を受け取り、以前のように東の家の浴室を借りた。
週末は千沙も帰ってきているらしいで中村家に居るはずなのだが、先週からバイト野郎を嫌っている様なのでアイツの現状がわからない。
もうお兄ちゃん失格なんだろうか。そんな心配をしながら俺は南の家に向かった。
「高橋、お邪魔しまーす」
「いらっしゃい、和馬君」
「一緒に夕食を摂るのは久しぶりだね。前みたいに俺の隣だよ、かもん」
「和馬、さっさと席に着きなさい!」
葵さん、雇い主、陽菜の順で俺に返答してくれた。ああ、この感じ、久しぶりだなぁ。
「お疲れ様です、兄さん」
「お、おう」
千沙は.....なんか普通だな。なんだ気にしてたのは俺だけか。
「あ、和馬、その服―――いだっ?!」
「これで勘弁してやる」
俺は陽菜の頭を軽く小突いた。理由は言わずもがな。
バイト野郎が着ているこの服、めっちゃ陽菜の甘い匂いするんだけど。マーキングしないでくれないかな。
「そう。でも反省しないし、続けるから」
「.....さいですか」
こいつッ!!
「さ。今日は久しぶりに泣き虫さんが居るからたくさん作ったわぁ」
「ありがとうございます」
「食べきるまで帰れま1〇する?」
「何を基準にトップ10にするのよ。葵姉」
「ほらほら。早く食べないと冷めちゃうよ」
「あ、兄さん、醤油取ってください」
たった一か月、ここでの生活から離れただけなのにすごく懐かしい感じだ。ああ、なんか帰ってきた感ぱないな。もうここで暮らしたい。中村 和馬になりたい。
俺は近くにあった醤油を千沙に渡そうとする。
が、
「あぴゃうッ?!」
「「「「「あぴゃう?」」」」」
醤油を渡す際に、俺の手と千沙の手が触れ合ってしまい、そのせいか、千沙が変な声を出した。
「えっと、ごめん?」
「い、いえ。こちらこそ」
「はい。醤油」
「そ、そこに置いといてください。取りますから」
「.....。」
「ざ、雑菌的なアレです」
泣いていい?
なんなの? 先週の日曜から俺と距離をあけてさ。そりゃあ、自分でも気持ち悪い発言したかもしれないけど、そこまで避けなくていいじゃんね。
「こら。千沙、それは流石に高橋君に失礼でしょ。謝りなさい」
「やっさん.....」
「「「“やっさん”?」」」
さすがの雇い主でも今の行為は看過できないらしい。親としてなんか言ってくださいよ。
ちなみに、
まさか誰もバイト野郎が雇い主の名前を知らないということを知るまい。ああ、ややこしい!!
「これは.....いえ。そうですね。すみません、高橋さん」
「「「「「えっ?!」」」」」
ここに居る千沙以外の誰もが驚愕する。
だって、千沙が俺のことをそう呼んだのは、きっとそういうことだからだ。
「あ、兄失格.....」
「陽菜しっ!!」
言わんでいい。わかってるさ。
.....“お兄ちゃん”をもう終わりにするってことでしょ、千沙。
「......千沙。短い間だったけど、貴重な体験をありがとう」
「はい。こちらこそ」
千沙が素っ気ない態度で言った。
いつの間にか、俺は嫌われちゃったんだな。いや、やっぱり先週のことが原因か。ああ、こんなことになるんだったら、あんなこと言わなきゃよかった。
それだけじゃないかも。日頃の変態発言、性的な視線を向けるなど、異性にしちゃいけないことを繰り返してきたのが積み重ねになったのかもしれない。
「うぅ.....」
なんだか急に悲しくなって涙が出てきた。
「「「「......。」」」」
「高橋さん?」
「ひっぐ.....」
追い打ちやめてくれ。
――――――――――――――――――――
これからこの二人はどうなるのか?!
ども! おてんと です。
この小説、農業がメインなのに全然農家してない気が.....。許してください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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