第168話 嫉妬させたい奴VS嫉妬させる気ない奴

 「っていうことがあったんですよー」

 「へぇー。美咲ちゃんが他人に懐くなんて珍しいね」


 天気は晴れ。先週の日曜に雨が降って以来、雨が降ることはなく、向こう数日は晴れが続くらしい。今日は土曜日で、今は仕事場にバイト野郎と葵さんの二人だけが居る。


 気温も10月に入ったからか、先月に何回かあった30度越えの暑さは無く、だんだん秋に近づいているの感じる。


 「弄ばれてるんですかね?」

 「さぁ? また和馬君がなんかしたんじゃない?」


 葵さんと仕事をしながら、先週の日曜以来の会長がなんか変なので相談していた。葵さんは美咲さんと中学校の頃からの知り合いらしいからな。


 最近、会長との距離が近くて怖いんだよね。いや、美人と近くに居れることは願ったり叶ったりなんだけどさ。


 「葵さんなら何かわかるかと思ったんですけど」

 「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」

 「ちょ、唐突なパロはやめてください」


 現在、俺と葵さんはキャベツの種まきをしているところだ。セルトレイと言われるたくさんの穴がある育苗用のトレイに培土を詰めて、そこにくぼみを作り、キャベツの種をまく栽培方法だ。


 いつもと違って今日は室内で座って行う作業だから汗をかくことはない。


 「でも急に抱き着いてくるんですよ? 『軽いスキンシップだよ』とか言って」

 「へー。懐かしいなぁ。私も中学生の頃はよく美咲ちゃんに抱き着かれてたっけ」

 「あ、誰彼構わずしてくるんですね」

 「いや、どっちかというと、男女構わず心を開いた人だけ、みたいな」

 「そんなシャイな子じゃないと思いますけど」


 もうこのトレイに土を埋めて、種をまく作業をどれくらい繰り返してきたのだろうか。5枚とか10枚じゃないぞ。もっとだ、もっと。数多すぎ。


 「ふふ。しんどい?」

 「細かい作業は苦手ですね」

 「種が小っちゃいからね」


 そう。植えているこのキャベツの種がくっそ小さいのよ。


 間違って同じ窪みの所に種を複数入れたりしちゃうとピンセットで余分な種を摘まむんだが、何回もミスしちゃってイライラしてくる。


 「本当に小さいですね。精子みたいです」

 「精子の方がもっと小さいでしよ.........じゃなくて! なに呼吸するかのようにセクハラしてんの?!」

 「ははは。セクハラの呼吸、壱ノ型、うじゃうじゃ精―――」

 「怒られるよ?! そういう使い方すると本当に怒られるよ?!」


 葵さんは今日も元気ですね。


 怒らす度にその豊満な乳が揺れるので見てて飽きません。


 ちなみにこの種がどれほど小っちゃいかって言うと、手の指の爪と肉の間に入るくらいとても小さい。お米一粒なんかよりよっぽどね。


 それを一粒一粒この穴の中に入れてくんだ。憂鬱である。


 「はぁ......。本当に反省しないよね」

 「あ、美咲さんは自分がセクハラ言っても何も怒りませんでしたよ」


 「え? ああ。美咲ちゃんは昔っからそういうの気にしないし、むしろ自分から言ってたっけ」

 「たしかに」


 「だからって女の子に向かって下品なこと言わないでよ.....」

 「次から気を付けます」 


 「絶対嘘だ.....。よし、あと10枚くらい作ろうかな」

 「うへぇ。まだ作るんですかぁ。あ、そういえば、会長が『平日の朝は最寄駅で集合ね』って言ってきたんですけど」


 「.....そうだね。あ、和馬君、種足りなくなりそうだから新しいの開けて」

 「はい。あの人、言っといて自分で忘れることが多いんですよ。自分を置いて行ったり、逆に寝坊でいつまで経っても来ないとか」

 「.....。」


 本当にマイペースだよな、あの人。


 「少しは自分の発言に責任を持ってもらい―――」

 「ねぇ、さっきからなんなの?!」

 「え」


 葵さんが急に怒鳴りだした。


 「ど、どうしたんですか?」

 「今日は仕事始めってからずーっと美咲ちゃんの話ばっかりしてさ!」

 「え、あ、はい」

 「もっと仕事に集中してよ! それか私を褒めてよ!」


 すみません、後者の意味がまったくわかりません。


 「ったくさー、口を開けば「会長会長」って。もう好きなんじゃない? それ」

 「いや、別にそういう訳じゃないんですが」


 「ここんとこ毎週毎週、惚気話ばっかり」

 「の、惚気話.....」


 「先週は『付き合えるなら千沙と付き合いたい』って言ってたくせに」

 「あ、そういえば千沙は最近どうです?」


 あいつ、週末は俺んちに遊び来るか、オンラインゲームに誘ってくるくせに、今週は音沙汰なしだった。不思議なこともあるもんだ。


 あまりにもバイト野郎が気持ち悪いことを言ったから怒ってんのかね。


 俺ってなんなんだろう。女の子にキモがられたり、吐き気を催させたり、怒らせたり.....ぐすん。涙がちょちょぎれますね。


 わかってる。この性格なかみがいけないんだよね。自覚してます。でも、やめません。絶対。


 「さぁ。愛想尽かされたんじゃない?」

 「きょ、今日の葵さんは言葉にトゲがありますね」

 「べっつにー」


 なにその不貞腐れ方。超可愛いんですけど。


 「千沙と言えば、あいつ、自分のこと兄と慕ってくるくせにめっちゃ厳しいですよね」

 「.....。」


 「どこにボーダーライン設けてるかわかりませんが、少し悲しいですよ」

 「..............。」


 「まったく.....。少しは兄にサービス精神ってものを―――」

 「ねぇ、さっきの話聞いてた?!」

 「え」


 本日2度目の激おこ葵丸である。


 「私がッ! ここに居るのに、なんで他の女の子のことばっか話題に出すのッ?!」

 「い、いや、そうは言われましても」


 「美咲ちゃんの次は可愛い可愛い妹じゃんッ! 聞かされる身にもなってよ!!」

 「す、すみません」


 今日は女の子の日なんだろうか。バイト野郎、さっきからなんで怒られてるのか心当たりがございません。


 「あ、じゃあこうしよう! 私ね、通っている高校で気になる男性がいるの!」

 「は、はぁ」

 「で、今度、告白してみようかなって!」

 「頑張ってくださいね」

 「なんでそうなるのッ?!」


 な、何がしたいんですか.....。


 正直、ここまでご乱心だと心当たりというか、葵さんが怒っている理由は大体わかるけど、別に俺たち付き合ってるわけじゃないし、軽い世間話程度でいいじゃんね。


 「もっと、こう...『告白なんかしないでください!』とか無いの?!」

 「そ、それはなんというか........止めるべきなんでしょうか?」

 「止めるべきだよッ!!」


 さいですか......。


 頬をぷくーっとリスのように膨らませて怒り続ける巨乳長女である。まだ落ち着かないみたいだ。


 「和馬君はね、もうちょっと相手のことを考えるべきだよ」

 「はい」


 「放っておくと身近な女性の話ばっか続ける気なんでしょ」

 「まぁ、ええ、おそらく」


 「『おそらく』?! そこは『そんなことしませんよ。葵さんとの会話を楽しみます』って言ってよ!」

 「........すみません」


 葵さんは自覚あるんだろうか。さっきから言ってること全部“やきもち”ですよ。


 「陽菜とか、桃花ちゃん、果てはお母さんの話までする気でしょ! どこまで私を弄べば気が済むって言うの?!」

 「いや、さすがに母親は話題に出しませんよ」


 「で、最後の最後まで私の話をしないっていう鬼畜の所業をするんでしょ?!」

 「鬼畜.....」


 「あーあ! 先輩想いじゃないなぁ! 優先順位ってものがあるんだから、まずは私のご機嫌取りを頑張って欲しいね」

 「つ、次からは気を付けます」

 「そうしてッ!!」


 面倒くさいことこの上ない。でも、そんな先輩がたぶんだけど嫉妬してるんだ。自覚が無い葵さんを見ててどこかほっこりしてしまうバイト野郎だった。



―――――――――――――――



なにがしたいんでしょうね、この長女は。


ども! おてんと です。


皆さん、お気づきですか? この作品の1話より前に特別回とか、人物紹介とちょっとした日常回を公開していることに。


自分もそれを読み返していたら、あら不思議、登場人物の回で「野良猫たち」ですって。


今までで一度も登場したことないし、登場ですらない......。許してください。そのうち出ます。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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