閑話 千沙の視点 今日の妹はコインで言うと裏ですよ!

 「お兄ちゃぁぁああああああん!!!」


 現在、16時24分。私は先程から東の家の自室にて、枕に自身の顔をうずめて悶えています。


 「お兄ちゃんがッ!! 付き合うなら私って!!」


 先程、南の家で暇を持て余した私たち三姉妹は、同じく暇であろうお兄ちゃんに電話をかけてみました。


 「ああ〜、お兄ちゃんが最初に言ってきた『実は俺の事好きなんだろ?』は辛うじて演技ができましたが、さすがに『付き合いたい』はキッツイですよ」


 もちろん、良い意味で。


 最初の一言目はちょっと気持ち悪かったので、さすがに「そうですッ!」とは即答できませんでしたよ。


 「『付き合うなら千沙』ですって!! きゃーー!!」


 本日6回目の悶絶です。まだ電話してから1時間も経ってませんが、まだまだこの回数の更新は絶えないでしょう。


 「ふぅ。少し落ち着かなければ。千沙の“ち”は知性の“ち”ですよ。冷静さを書いてはクール系スレンダー美少女失格です」


 さて、“兄”さんとの通話の途中で抜け出して来てしまいましだが、もうそろそろあっちは通話を終えた頃合いでしょうか。


 うっかり携帯を南の家に置きっぱにして来ちゃいましたよ。通話している最中でしたから仕方ないんですけど。


 「まぁ、会話の内容は録音してあるので後でじっくり聞きますが」


 永久保存確定ですね。録音したデータを少し加工して「付き合うなら千沙」って着メロ用に作りましょうか。


 「誰かにバレたら嫌ですし、却下です、却下」


 今日の妹は独り言が絶えません。


 「あ、もしかしたら私が出て行った後に、私を選んだ理由を言ってたかもしれませんね」


 ふふ。尚更、録音内容が早く聞きたくなってきました。


 落ち着きを取り戻してきましたし、南の家あっちに戻って携帯を回収してきますか。


 私は通話が終わっていると思って姉さんたちの居る場所へ向かいます。




 「あ、千沙」

 「平気かしら?」


 通話途中で急に出て行った私を姉妹たちが心配してくれました。


 「ええ。スッキリしました」

 「そ、そこまで.....。千沙は少なからず和馬君のことを意識していると思ってたよ」

 「私もよ。あんな反応されたら少し和馬に同情しちゃう」


 はは。そう言えば二人は私が吐き気を催したのでトイレに向かったと思っているんでしたっけ。


 んなわけないじゃないですか。


 さっきまで枕が湿るほど顔をうずめて叫んでましたよ。もちろん、歓喜の声で。


 「すみません。でも、いくら兄でもアレはドン引きですよ」

 「はは。選んでくれたってだけで私たちより千沙の方が魅力的ってことだよ」

 「そうね。私はもっと自分を磨く必要があるわ」


 陽菜は誰か気になる男性でも見つけたんでしょうか。ここまでやる気になるんて珍しいですね。


 「葵姉、千沙姉の携帯は?」

 「あ、はい。千沙の携帯」

 「わーい!―――じゃなくて、ありがとうございます」

 「「?」」


 あ、危ない危ない.....。


 若干ボロが出てしまいましたが、先程の私の演技のおかげか、つい喜んでしまっても二人に感づかれた様子は無いです。良かったぁ。


 「千沙の携帯、電話終わったらすぐに電池切れしてたよ?」

 「ファッキン!!」

 「ふぁ、ファッキン?」


 姉さんにそう言われ、自分の携帯を見ると充電切れでした。最悪ですね。あっちに着いたらすぐ再生できないじゃないですか。


 「充電すればいいでしょ」

 「そ、そうですね」

 「あーあ。せっかくチャンスだったんだから千沙姉のスマホのデータでも見ようと思って―――ぐへっ?!」

 「見たんですか?! 見たんですか?! 中を見たんですか?!」


 私は妹の胸倉を掴んで問い詰めます。


 「見てません見てません見てません!!」

 「ちょ、ちょっと千沙?! 落ち着いて?!」

 「本当ですか?! もしも嘘ついたならプライバシーの侵害で訴えますよ?!」


 「ブクブクブクブクブクブク」

 「陽菜泡拭いてる! 出ちゃいけない泡が口から出てる!! プライバシーの侵害より、陽菜の命を侵害しちゃう!!」

 「あ、すみません」


 良い感じにキマってたのか、気づけば陽菜は泡を吹いてました。気絶ですかね。


 ちなみに、私のスマホの中身はほぼ兄さん関連のデータばかりなので誰かに見られたらもう終わりです。


 「そ、そんなに見られたくなかったの?」

 「墓まで持っていきます」

 「.....却って見てみたいかも」

 「以前、興味本位でウィキったんですけど、この時期なら人の死体は白骨化するまで10日程度かかるそうですよ?」

 「ごめんなさい。冗談です。許してください」


 いくら姉でも立ち入り禁止エリアですよ。そんなことしないよう、脅して釘でも刺しときます。






 『ゲームや機械いじりと言った趣味が合うのもそうですが、日頃、千沙は俺を頼りにしてちょこちょこ甘えてくるのでそこが可愛いかな、と』

 「きゃーー!!」


 先程、携帯を回収した後にすぐに自室に戻ってきてから、充電しながら録音内容を聞いています。


 『日頃、千沙は俺を頼りにしてちょこちょこ甘えてくるのでそこが可愛いかな、と』

 「ええ、可愛いですよッ!! もっと褒めてくださいッ!!」


 繰り返すこと14回目。今度はヘッドホンで聞きましょうかね。


 部屋には、いや、東の家こっちには私一人しか居ないからか、普段の私じゃありえないほどのはしゃぎっぷりです。


 「それにそのあと、姉さんたちが聞いてたことに兄さんが図星でしたよ」


 普段、好きで膝枕してあげましたが、あっちもやっぱり嫌いじゃないんでしょう。


 まぁ下ネタというか、お互い似たような性格なので、そういうことに関してはもう気になりませんね。兄さんにとっても本音で語れるから楽なのでしょう。


 そして私の“処女はじめて”まで.....。美咲さんに聞かれて黙ってましたけど、コレ絶対、私のことをそういう目で見てますよね。


 「ああ~、兄さんにとってはどれもこれもポイント高かったわけですかぁ」


 もしかして兄さん、私のこと好きすぎるのでは?


 先程からそんなことばかり考えている妹・千沙です。


 「でも、エッチはちょっと嫌ですね.....」


 気持ちは嬉しいですけど、まだその段階は.....というかなんというか。


 「私はそれよりもっとゲームなど兄さんとイチャイチャしていたいんですよ」


 おっと、歯止めが利かなくなった妹がつい本音を言ってしまいましたよ。


 そうです。できることならゲームをする際、兄さんの真ん前に座ってくっついていたいです。そのときに私のお尻辺りに硬いモノが当たるかもしれませんが、まぁ、許します。


 っていうか、逆に兄さんに膝枕してほしいですね。今度頼んでみましょう。


 「きっとしてくれますよ。なんたって、私と付き合いって言ってたんですから。ふふ」

 「千沙ぁ」


 「さて、次はどれを再生しましょうか―――」

 「千沙ッ!!」


 「ふぇっ?!」

 「えーっと、千沙、す、少し良いかしらぁ?」


 振り向くと、閉めていた私の部屋の戸が開いてました。中に居たのはお母さんでした。


 「な、なななななんで―――っ?!」

 「何回も呼んだのよぉ? でも、興奮して全然気づかなかったみたいでねぇ」


 お母さんが困り顔で自身の頬に片手をやり、私の部屋に入って来た理由を言いました。


 こ、興奮しすぎたみたいです。こっちの家には誰も居ないと思っていたのでつい。独り言聞かれてましたかね...。


 「そ、それで、なんの用ですか?」

 「あ、これ、あなたの配達物にもつよ」


 私は母さんから荷物を受け取ります。配達してくれた方が南の家あっちに持って行ったのを代わりに母が受け取ってくれたのでしょう。


 「あ、ありがとうございます」

 「千沙」

 「は、はい。なんでしょう?」

 「その、盗み聞きするつもりはなかったのだけれど........泣き虫さんの前では少しくらい素直になりなさいな」

 「.....。」


 よ、余計なお世話です。


 しばらくの間、お母さんと気まずい関係が続いてしまった兄想いの妹でした。



―――――――――――――――――――――



素直になる気なんて無いシャイ(?)な子、千沙!!


ども! おてんと です。


今回は普段と少し違った千沙回でした。


次回は巨乳長女とバイト野郎のイチャラブです。たぶん。時系列的にこの日から一週間程経ちます。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!


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