第171話 新妹〇王の婚約者

 「あんたら何してんの」

 「あ、おかえり」

 「おかえりなさい、和馬」


 天気は晴れ。今日は金曜日で、俺は今帰宅したところだ。


 「何って....見てわかんない?」

 「勉強よ、勉強」


 母親と学校から直接うちに来たであろう制服姿の陽菜が居間で何かをしていた。


 ちなみに、母さんは一昨日帰ってきて、次の出勤日まで1週間は暇らしい。


 「....その本は?」

 「教科書アルバムだよ」

 「ふふ。幼少の頃の和馬は可愛いわね」


 なに勝手にアルバム取り出してJCに見せてんだよ、クソババア。


 「あのなぁ―――」

 「あ、陽菜ちゃん。この子あれだわ。帰ってきてアレが無いから不機嫌なのよ」

 「ああ。そういうことですか、お義母様」


 誰がお義母様だ、こら。


 そしてなぜか母さんの言ったことに納得した陽菜は俺の目の前に来た。


 「なに?」

 「おかえりなさい、。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」


 日頃、母性なんか持ち合わせていない陽菜が包容力のある言い方をして、帰って得来た俺の情欲を煽ってきた。


 「じゃ、じゃあ、陽―――じゃなくて」


 こ、これはマズイ。思わず「陽菜で」って言おうとしちゃった。


 「やりました! あと少しですよ! お義母様」

 「きゃーー!!」


 きゃー!じゃねーよ、クソババア!!


 なんつうことJCにやらせてんだ。仮に俺が3番目選んだらお前どうすんだよ! ホテルに泊まれよ?! 親が居る家でヤんないからな!


 「あ、アホ。変なことばっか覚えやがって」

 「こいつ照れてるわぁ」

 「っしゃあっ!!」


 照れてねーよ。


 ガッツポーズしてるとこ悪いけど、陽菜、勉強しないなら帰れ。


 「はぁ。俺は今そんな気分じゃないんだ。部屋に居るわ」

 「え、なによ。和馬、何かあったの?」

 「勃たなくなったのか。ついにオカズが尽きて勃たなくなったのか」


 不能じゃねーよ。だから陽菜、「じゃあ私が」って言うんじゃないよ。


 「わかんだろ? 妹を失ったんだ」

 「千沙姉、死んでないわよ?」


 「もうあいつの笑顔すら見れないんだ。俺はしばらく自分の心を療養したい」

 「いや、だから死んでないって」


 陽菜は末っ子だからわからないのだろう。今まで「兄さん、兄さん」と生意気な口を利きながらも俺を慕ってきたあいつともう楽しく過ごせないんだ。


 おまけに膝枕というご褒美もなくなった。


 バイト野郎、あそこまで処女膜に近かったことなんて今までにあっただろうか。いや、無い。皆無である。


 「....。」

 「ってことで、部屋に居るから。テキトーに寛いでて」

 「うぃー」


 とてもじゃないが、母親の返事とは思えないな。って、酒飲んでるし。


 よし、陽菜に介抱を頼もう。






 「ああー。することが無くて暇だな」


 俺は自室にてベッドの上で寝っ転がっていた。


 悲しきかな。かれこれ2週間経つのか、千沙あいつの“朝までゲームコース”が無くなった日常のおかげで放課後は特にすることが無く暇である。


 「まぁ、逆に生活リズムが乱されなくて健康でいられるんだけどな」


 そう。朝はびっくりするくらい清々しく起きれるのだ。息子共々な。


 「勉強も....。気分じゃないな。寝よう。ああ、でも.......テスト近い....のに....」


 寝転んでいたからか、眠気に抵抗することなく俺は眠りについた。




 「ぁ....デカ...しゃぶ........わよね」

 『カチャカチャ』


 誰かの声となんかの金属音が断片的に聞こえてきた。どうやら俺は寝ていたらしい。


 「うぅ....陽菜?」

 「うひゃうっ?! お、おおおおおはよ、和馬!!」


 視界に入ったのはポニ娘こと陽菜だ。なんで俺の部屋に居んの。しかもなんか慌てていたし。


 「....何してた?」

 「な、何もしてないわよ?!」


 怪しい。


 横になっていた俺は、今度はベッドを椅子代わりにして座った。だってこのまま仰向けに寝ていたら、“元気寝起きおっき君”がバレるもん。


 「っ?!」


 って、おいおい、チャックが開いてるじゃないか。制服のまま寝ちゃってたし、それによく開けっぱで学校に行ってしまうから恥ずかしいことこの上ない。


 俺は慌てて社会の窓を閉めた。


 「....ぁ」


 なぜか陽菜の残念そうな声が漏れる。


 「?」

 「な、なんでもないわ!」

 「いや視線が」


 俺の股間をガン見してもナニは見えませんからね? 一瞬、この淫魔が制服のベルトを緩めてチャックを開けたと思ったが、さすがにそこまで疑うのは人としてどうなんだろう。


 「べ、別にぱんぱんに膨らんだ息子が窮屈そうだからチャックを開けようとしたわけじゃないからッ!!」

 「....。」


 すごい。何も聞いてないのに白状し始めた。疑うのは良くないって思ってた俺は後悔しか感じない。


 しかも普段しない“ツン”で言ってきたし。そんなことにツンしていいのか。


 「....母さんは?」

 「酒飲んで寝ちゃったわ。ねぇ、あの身体のどこに、あんなにたくさんの酒が入るの?」

 「銀色のヤツか。酒に関してうちの母親は人間やめてるからな」


 ああ、きっと居間は悲惨なことになっているだろう。片付けが面倒だ。


 「はぁ......。さて、あのババアが荒した部屋でも片付けるか」

 「もう片付けたわ」


 「え、あ、そう? ありがとう。じゃあ夕飯でも作るか」

 「もう作ったわ」


 「お、おう。ありがとう。ちょっとトイレ行ってくるわ」

 「はい、尿瓶」


 いや、使わねーよ。なんで尿瓶があんだよ。どっから持ってきたんだ、それ。


 陽菜のそういう先読みして気が利くところは本当に助かる。尿瓶は余計だけど。


 「なんか何から何まで悪いな」

 「別に良いわよこれくらい」


 「じゃあ陽菜が作ったご飯を頂こうかな」

 「女体盛りは一人じゃ無理だから用意できなかったわ!」


 「誰もそんなもん注文してないから」

 「智子さんが寝ちゃったから........残念ね? せっかく刺身を買ってきたのに」

 「お願いだからやめて」


 人んちでなにしようとしてんの?


 でも悲しきかな。もし仮に中村家三姉妹で女体盛りをしたとして、より多くの食材を盛れるのは胸が小さいというの称号をもつ陽菜だ。


 無論、女体盛りは食を楽しむものではなく、男の欲を満たすためのものだから食事など二の次である。


 「というか、こんなことしてていいのか?」

 「受験勉強のことかしら?」

 「大丈夫か?」

 「ふふ。この前の模試は良い結果だったわ」

 「塾行ってないのにすげーな」


 塾に通っているから合格できるという訳ではないが、それでも単独で受験対策するのは簡単ではないと思う。


 「勉強で躓いたことがあったら何でも聞いてくれ。できるだけ協力するから」

 「和馬のそういうところ本当に好き」

 「っ?! す、すーぐそういうこと言う」

 「手応えあり....ね。好き好き、だーい好き! 愛してるッ!!」


 陽菜が高揚した様子で俺の話なんか聞かずに言ってきた。


 童貞で遊んで楽しいか。


 「はいはい。寝言は胸を大きくしてから言え」

 「うっわ、最低」

 「最低で結構」


 そんな最低でもお前はこれからもアタックしてくるんだろうな。


 「さ、早くご飯が冷めないうちに食べましょ」

 「そうだな。ああー、にしても暇だなぁ」

 「?」

 「だって普段は千沙からゲームしよってお誘いが来るんだぜ? ここんとこそんなこと無いから暇だよ、暇」

 「......へー」


 意外と妹という存在は一人っ子だった俺にとって大きかったのかもしれない。こんなにも日頃千沙との交流がないと気になるんだからな。


 妹が失った今の俺はこれほどまでに妹を欲するものなのか。そんなことを嫌と言うほど自覚してしまう。


 「前は鬱陶しかったのになぁー。変なもんだな。千沙は今頃―――」

 「ねぇ、和馬」

 「ん?」


 俺の名前を呼んだ陽菜が急に俺に抱き着いてきた。


 「お、おい。なんだ急に―――」

 「私、なっても良いわよ?」

 「は?」


 一瞬、陽菜が何を言っているのか理解ができなかった。


 でも、ポニ娘は上目遣いで続けて言ってくる。


 「和馬の―――、よ?」


 「ごくり」、生唾を飲むそんな音が俺の部屋に響き渡る一言だった。

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