第157話 美咲の視点 一人より二匹

 「会長、電車来ましたよ?」

 「......ん」


 電車が来たらしいが、視線を足元に向けているワタシには視界に入らない。


 今日はバイト君と一緒に登校してもいいかな。もう色々と面倒くさくなっちゃった。このまま彼と一緒に電車に乗ろう。


 「席空いてないですね」

 「....。」


 “やりがい”ってどうすればワタシにも感じれるのだろう。ここ最近ずっとそんなとばかり考えている気がする。


 彼は.......バイト君はその得体の知れないものを感じれるから日々が楽しいらしい。


 「良い天気ですね」

 「..........。」


 ワタシは日々退屈過ぎてしょうがない。先程、彼に何か趣味は無いかと聞かれたが、全くと言っていいほど何も浮かばなかった。


 「あの、会長」

 「.............。」

 「会長!」


 彼が急に大声を出してきた。


 「っ?! な、なに?」

 「そろそろ裾離してくれません? 直したいんで」

 「え」


 彼に言われた通り、気づけばいつの間にかワタシの手は彼のワイシャツをちょこんと摘んでいた。どうやら無意識に掴んでいたらしい。


 「あ、ごめん」

 「いえ、可愛かったので少し楽しめました」

 「.......そう」


 彼に可愛いと言われたが素直に喜べない。というか、可愛いって滅多に言われないな。自分で言うのもなんどけど、ワタシは可愛いより綺麗と言われる方が多いからね。


 「え、んですか?!」

 「逆に処されたいの?」

 「いや全く」


 何が言いたいんだ彼は。まぁ、普段のワタシならば処すが、少し彼を見る目が変わったので処す気にもなれない。


 「何か達成感を得たいなら生徒会にもっと力を入れてみてはどうです?」

 「例えば?」

 「生徒の意見をもっと聞くとか?」

 「生徒のために動けって? 冗談じゃない。地位や権力、名誉が欲しいから生徒会長になったんだよ」

 「そんな理由聞きたくなかった......」


 付け加えるなら生徒会室でだらだらとしながら紅茶を飲む時間が好き。


 あ、いや、アレって生徒のためになるのかな? まぁそれはどうでもいいか。


 「そういえば、以前目安箱あったじゃないですか。あれ、最近見かけないんですけど」


 生徒の意見を聞く箱ね。あんなの生徒会にとってただの災いボックスだよ。無理難題を書いて突っ込んできてさ、自分で解決してくれないかな。


 「あーアレね、真ん中に穴をあけて野鳥の巣箱にした」

 「は?」

 「いや仕事が増えそうだしね。仕事より野鳥の新しい命を増やした方がいいじゃん」

 「すみません、貴方、生徒会長ですよね?」

 「代わりに募金箱を設置したからいいじゃないか」


 たまに変なことを聞くな、彼は。そもそも目安箱に大した意見なんて入ってないよ。


 「なんで会長になれたんでしょうね」

 「人望があるからでしょ。容姿が良くて学業も優秀だからじゃない? あと地域活動とか少し頑張ったし」

 「自分でソレ言うんですか」


 事実だからね。たしかにこの高校で生徒会長になってから地域交流のイベントを増やしていった。


 ワタシが生徒会長を就任の際、その活動に関して反対する生徒は多くいたがボランティア活動を頑張ってもらった。


 「よくあんなに行事ばっか増やしましたね」

 「ふふ。いい迷惑だろう?」

 「それはまぁ」


 大体の生徒はこんな反応する。当たり前だ、見返りの無いボランティア活動をさせられるんだ。損としか感じないだろう。


 でも理由は言わない。公に言うとバレちゃうし、言うのは生徒会の子たちと一部の先生くらい。もちろん口外したら意味無いなので口止めした。


 「上手くいってるんですか?」

 「?」

 「いや、学校周辺の地域からのですよ」

 「っ?!」


 彼にはボランティア活動という考えを示したはずだ。なぜご近所さんからの募金に繋がるんだ。


 「............なんで募金?」

 「あんな急に美化清掃の回数を増やしたら、多少なりとも周辺の住民は俺たち生徒に感謝しますよ」

 「.....。」

 「それに幸い、うちの田舎高校の周辺は結構の数の金持ちの住民が居ますよね? なら、自治会やら個人やらでその感謝を“募金きふ”というかたちで期待できそうですし」


 多くの生徒は面倒ごとは嫌だといって反対するのだが、実際、地域活動は損なことばかりじゃない。


 頑張ってワタシたち生徒が貢献すればちゃんと見返りがくるのだ。若い人たちの労働力はいつだって需要があるからね。


 もちろん、集金それだけじゃない、


 「メリットはそれだけじゃないよ、他にも―――」

 「それにご近所さんに良い印象を持ってもらえれば、体育祭や文化祭の集客、人気や評判に繋がります。高校自体の良いアピールにもなりますし、地域交流は馬鹿にできませんよね」


 ......言い当てすぎ。言わせてよ。


 「.....意外と切れてるね」

 「いや、これくらい考えればわかりますよ」


 そんなことはない。


 面倒ごとを嫌うほとんどの生徒は嫌ったままだ。でも活動の理由なんて言えない。だって邪な理由なんだもん。


 「ま、バイト君ならいっか。そうだよ、“得する”ためだよ」

 「はは。現状、結構集まってるんですか?」

 「多いか少ないかで言えば、少ない方かな」

 「月1の美化清掃は今年度始めたばっかですしね」

 「これからは近所の幼稚園、小中学校との交流も増やしていくつもり」


 例えば、幼稚園児とのお料理交流会や遊び相手とか、小学生なら登下校の安全確保など、こちらの持ち味である“生徒数”でどんどん手伝って『良い生徒ですアピール』をしていく。


 「大変ですか?」

 「いや。まぁ、暇潰しみたいなもんだよ」


 生徒からの募金箱による集金なんて高が知れてる。自由に使えるお金を増やすならを狙わなければ。


 ......さて、問題はこの集めた資金をどうするかだな。


 「ちなみに。集めたらそのお金をどうするんですか?」

 「そこなんだよね。今はまだ少ないし、とりあえず貯金かな」


 「その予算を各部活動の備品や、学習しやすい環境のために使うんですよね?」

 「もちろんだ」


 「それで、生徒たちに恩を売って支持率を保つと」

 「よくわかってるじゃないか」


 この男......面白いね。少し興味が湧いた。まだ地域周辺に募金箱は置いてないが、今後そこはかとない感じで設置する予定だ。


 「なんというか、意外と行動してるんですね」

 「意外と?」

 「ご、ごめんなさい」

 「......まぁ、さっきも言ったようにただの暇潰しだよ」


 そう。暇潰しも兼ねての支持率を保つという一石二鳥だ。


 「上手く募金が貯まればの話だが、色々な所に平等に使えるほど貯まっていないのが心配だ」

 「それじゃあただのボランティア活動ですしね。嫌な言い方ですけど」


 「ね。正直、なんとか次の生徒会選挙までに何か実績を残したいかな」

 「え、3年生になっても生徒会長やるんですか?」


 「もち」

 「もちって......」


 中学2、3年生も生徒会長、高校2年生の今も生徒会長。ならせっかくなんだし、次も生徒会長したいじゃないか。暇だし。


 「提案ですが、そろそろ始まる体育祭や文化祭に使ってはどうですか?」

 「え」

 「何かの賞とか、何か飲み物を配布するとか。イベントの状況によっては景品や飲み物を貰えると少なくとも自分は嬉しいですね」


 バイト君、もしかしたら有能なのでは?


 普段、こういった議題を生徒会のメンバーでするとき、皆はあまり意見を出してこない。面倒くさいのか、ワタシの意見待ちなのかよくわからないんだよね。


 「......。」

 「あ、すみません。ただの提案です」


 だからかな。こういった話相手が居るのことに、なんだか楽しく感じてしまうのは。


 「会長?」


 黙っているワタシに、彼は心配そうな顔をして聞いてきた。


 「バイト君、ちょっと楽しくなってきた」

 「? それは良かったですね」


 先程から要領が掴めてなくてアホ面を晒す彼である。.....だが、そんなところも少し可愛く見えてしまう。


 なにも“やりがい”は自分一人で得る必要はないじゃないか。他人を巻き込もう。


 「これからもよろしく」

 「え、あ、はい。こちらこそ?」


 そう、例えば西園寺家うちでバイトしてる高橋君とかね。給料分の働きはしてもらおう。

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