第158話 好奇心じゃあ猫は殺せない

 「おはよう、バイト君」

 「あ、おはようございます、会長」


 天気は晴れ。9月下旬に入ったからか、先月のような暑い日は段々少なくなってきている。といっても、天気予報では30度くらいと言ってたな。


 ここんとこ碌に雨が降っていないから畑のあちこちで土が乾燥していて困っている。今日もずっと晴れるらしいので雨は期待できない。


 「早いですね。まだ5時前ですよ。もしかして家業を手伝いに?」

 「まさか。前も言ったように畑作業はあまり好きじゃないんだ」


 「じゃあ、なんで運動着スポーツウェアを着てるんですか?」

 「これから走りにね」


 「意識高いですね」

 「朝早くから農作業に勤しむ君に言われたくないな」


 う、うるさいな。


 そう、俺は例のごとく朝5時から7時までの2時間、西園寺家で早朝バイトをするのだ。まだ身体が慣れていないからか、この時間帯は眠くてしょうがない。今日は金曜日だし、土日に入れば早朝バイトは無い。頑張ろう。


 ちなみに例のごとく、達也さんから昨晩連絡がきた。ほんと急だよね。もう慣れたけどさ。でもいい加減やめてほしいものだ。


 んで、記録更新して23時半に連絡きたよ。そのうち日付変わるんじゃないかな。


 「おーい! 和馬、そろそろ仕事すんぞー!」


 少し離れた所で健さんが大声で俺を呼ぶ。さて、今日はリコピンオーラを感じ取れるだろうか。.....無理だな。できる気がしない。


 「じゃあ、自分はこれで」

 「バイト頑張って」

 「あ、はい」


 あの会長から素直に励まされると少し抵抗を感じてしまう。


 最近、会長との距離が近くなった気がする。気のせいかな。なんか不愛想な猫が懐いてきた気分だ。


 前みたいに、変な壁を感じない。むしろ会長から話しかけてくることが多い。まぁ、前みたいに理不尽に会長権限を行使してこないからそこは嬉しく感じる。






 「最近、美咲ちゃんと仲良いね?」

 「同じ高校に通ってるからですかね? 話す機会が増えた気がします」

 「良いことじゃねーか!」


 俺はいつものごとくトマトをどんどん収穫していく。近くにいる達也さんと凛さんも同じように仕事をしている。


 「あっ君、美咲ちゃんのこと好き?」

 「おっ! それ俺も気になってた! どうなんだ、愛一郎」

 「“和馬”です。そうですね、そんな急に好きになれませんけど、魅力的な人だと思います」


 中身は独裁者ですが。


 「ほうほう。つまり好きになるかもしれないと」

 「なんでそうなるんですか」

 「でも道は険しいよ?」


 「なんたって今までに何人もの男共をフッてきた美咲だからな!」

 「あ、それ気になってたんですよ。聞けばいろんな人との交際経験があるんでしたっけ? よくそんなに付き合って別れての繰り返しができまよね」

 「そうだね。最短で6日の中島君だっけ?」


 「ああ。最長で半年.....いや、もっと短かったな。たしか斎藤君だったな」

 「わーお」


 6日でフラれた中島君も半年も続かなかくてフラれた斎藤君も可哀想という感想しか出ない。どんまい(笑)。


 「そう考えるとあっ君はすごいと思うよ」

 「?」

 「付き合ってた頃は彼氏の話なんて碌にしなかったが、愛一郎のことはよく話すぞ?」


 まじ? それってバイト野郎は好印象ってことかな。ちょっと嬉しいんですけど。


 「珍しいこともあるもんだ。この前はたしか―――」


 『農業が好きならうちの高校じゃなくて農業高校行けばいいのに』

 『彼って変態だよね。朝から飽きもせずに女性を品定めするような目で見てるんだよ』

 『わざと見せているのか、ズボンのチャックを開けっぱのまま学校に向かう神経が理解できない』


 「って」

 「それ、自分ディスられてません?」


 んだよ。どこも好印象じゃないじゃん。というか会長、食卓の場で何言ってんの。


 チャック開いてたなら言ってよ。公衆の面前でなんで放置するかな。それでも生徒会長か。いや、普通に開けっっぱ俺が悪いけどさ。


 「かもね。でも話しているときの美咲ちゃんは笑顔だったよ」

 「感情の無い人間だと思ってたが、そうでもなかったな」

 「実の妹をなんだと思ってるんですか.....」


 まぁ、そういうことならいいか。バイト野郎の変態な部分はもうどうしようもないことなんだし。責任として、葵さんにはあとで罰を与えよう。





 こうして時間通りに早朝バイトを終えた俺はまだ仕事を続ける健さんたちに一言断って帰宅する。


 「バイト君」


 西園寺家を去ろうとしたとき、後ろから聞こえてきた会長の声でバイト野郎は止まった。


 「お疲れ様です。では自分はこれで―――」

 「君の家から最寄り駅までどれくらい時間がかかる?」


 「? 15分くらいですけど」

 「そう。なら8時頃家を出るといい」


 「はぁ」

 「じゃあまた後で」


 後ろでさっき一緒に畑から帰ってきた凛さんがニヤニヤしてる。これはアレか。「一緒に学校に行こう」というお誘いか。素直に誘えばいいのに。





 バイトから帰ってきた俺は会長に言われた時間通りの時間で家を出た。いや、いつもと同じ時間だな。変わんないわ。


 会長は誘っていたのかな? 遠回しに一緒に行こうなんて嬉しいこと言われても待ち合わせ場所言われてないし、どこで待っていればいいのかわからない。


 「会長以外の西園寺家皆の連絡先はあるのにな」


 今度、連絡先聞こう。


 「あ、兄さん」

 「え、千沙?」


 と、そんなことを考えていたら、駅周辺で千沙に会った。しかも制服姿である。初めて見るけど制服姿の妹が超可愛い。赤色のインナーカラーでもよく似合ってるじゃないですか。


 中身がアレな部分を除けばもう自慢の妹だよ。


 「どうしたの? 学校は?」

 「体調が悪いので欠席しました」

 「なんで欠席なのに制服着てんの?」

 「兄さんに一度見せようと思いまして」


 なんて兄想いなんだ。お兄ちゃん嬉しいよ。


 「ありがと。でもスカートの丈が少し短い気がする。他の男に見られないか心配だ」

 「っ?! き、気持ち悪いです! なんで会って早々セクハラ噛ましてくるんですか!」


 しょうがないじゃないか。こんな俺を兄にした千沙が悪い。


 「んで、これから実家に帰るのね」

 「いや、せっかく兄さんに会えましたし」


 そう言って千沙は手のひらを上にして片手を俺に差し出してきた。


 「え、なに?」

 「鍵貸してください」

 「んん?」


 彼女は何を言っているのだろう。


 「いえ、ですから、兄さんの家の鍵を貸してくださいって」

 「いや、帰れよ」


 「なんでですか。兄さんの家の方がうちより近いじゃないですか」

 「体調悪いなら自分ちで大人しくしてろよ」


 「なっ?! 本来ならばここであった兄さんに看病してもらおうと思ってたんですが我慢したんですよ!」

 「ふざけんな。なーにが看病だ。お前、実は仮病だろ? こっちはそこに気づいても指摘しないよう我慢してたんだぞ」


 「け、けけけ仮病な訳ないじゃないですか!」

 「じゃあ、なんで欠席して実家に戻る必要があんだよ?!なんで服装なんか選んでんだよ?! どんな症状だよ!」


 「先日のスポーツテストのせいか、筋肉痛みたいなダルさがあります! 立派な病気ですよ!」

 「“みたいな”じゃなくて、ただの筋肉痛だろうがッ! どこも病気じゃねーよ! 学校行けよ!」


 「せ、せっかく妹が気を利かして制服姿を見せに来たのに」

 「今日は金曜だぞ? あと1日我慢して学校行けよ。なんで朝からこっちに来てんだ」


 「あー! あー!! もういいですよ! 兄さんなんか知りません! 私帰りますから!」

 「早く治したかったら病人はゲームするんじゃないぞー。あ、仮病なら大丈夫かー」

 「きぃー!!」


 なんだ「きぃー!!」って。猿か。


 こうして俺は千沙と別れて学校に向かう。あいつ、絶対仮病だよ。仮病で欠席する奴とは思ってなかったな。


 「あ、会長のことすっかり忘れてた」


 千沙と話し込んでいたら会長のことすっかり忘れてた。どうしよう。間に合うかな。


 『ピロンッ』


 と、不意にスマホの通知音がなった。


 「あれ、会長からだ。達也さんたちから俺の連絡先でも聞いたのかな?」


 [バイト君のことすっかり忘れてた。もう電車乗っちゃった]

 「......。」


 あんたもかい。



――――――――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


最近、「この作品はフィクションなんだし、はっちゃけても良くね?」と思ったのでこれからは若干ネタ化していこうかと思います。許してください。


といっても、素手で熊を倒せる鷹〇さんくらいです。転生はしません。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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