第153話 無自覚告白ジャッジメント

 「ってことがあったんですよ」

 「へー、意外。美咲ちゃんでもそんな珍しいことするんだね」


 「珍行ちんこー動ってやつですね」

 「........。」


 「チンコ......動ってやつですね」

 「わざと言い直さなくていいよ!!」


 楽すぃー。


 天気は晴れ。今日は日曜日でまだ九月の中旬である。夏はまだまだ続くようだ。眩しく俺と葵さんを照らす太陽がなんか見下している気がする。


 「なんですか、期待していたくせに変に反応しちゃって」

 「し、してないし!! 和馬君がちんッ....えっちな単語言うからでしょ!!」


 「いいえ? あれは‟珍行動”って言ったんです」

 「嘘ッ!! が滲み出てたよ?!」


 なんだ、‟変態成分”って。滲み出るもんなんかソレ。


 「それでも合法的なセクハラですよ」

 「なに、合法的なセクハラって?! セクハラに合法なんてないよ!!」


 「いえ、あります。例えば、‟ちんこー動”ではなく、‟ちんぽー動”って言ったらこれはギリ違法です」

 「充分最低だよ?! ギリなんて匙加減ないから!」


 こんなクソ暑い中でも葵さんは今日も元気いっぱいである。誰のせい―――おかげだろうね。

 

 「じゃあなんで一回目言ったときに無言だったんですかぁ?」

 「え」


 「まさか国語が得意な葵さんが“珍行動”って意味を知らない訳ないでしょう?」

 「うっ」


 「自分に言わせたかったんですよね?」

 「そ、そうじゃなくて」


 「国語っていうより、保健が好みだったりして」

 「ちっちちちちち違っ!!」


 「これではどっちが変態なんだか....議論の余地があると思いまーす」

 「もうやだぁ」


 葵さんが困り果てる。なにこれ、超楽すぃー。


 現在、バイト野郎と葵さんは草むしりを一緒に行っている。先程、午前中では西園寺家である場所の土手の草刈りを終わりの時間までずっとしていた。今日は一日中、雑草関連の仕事である。


 普段の俺ならば、同じことの繰り返しのこの作業を苦痛だと感じるが、今日はそう感じない。


 なぜか。それは、


 「ほんっとって嫌な性格してるよねー」

 「はは。ありがとうございます」

 「褒めてないし」


 葵さんが諦めてついに俺のことを“和馬君”呼びしてくれるからだ。


 あー、これ、葵さんとの距離が縮まったって考えでいいんだよな? マジ最高。


 今までのバカさを感じるあの「和―――高橋君は~」っていう、よくわからない急なシフトチェンジ呼びはもうお終いなのだ。


 「自分も葵さんも、思考にそんな大差無い気がします」

 「そんなことないよ。というか、万が一そうだったとしても全力で否定する」

 「そ、そこまでですか」


 でも、なんで急に“和馬君”呼びしてきたんだろう。まぁ、以前からちらほらそんな呼び方をしそうだったけど、土曜日きのうまで普通に「和―――高橋君」だったんだよ?


 「話戻すけど、美咲ちゃんは他に何か言ってなかった?」

 「特に」

 「まぁ、美咲ちゃんは天才だから言動がよくわからないよね」

 「......葵さんだったらどうします?」


 俺は葵さんに先程から午前中のことを相談していた。内容はバイト野郎が会長さんに失礼なことを聞いたかどうかである。だって会長さん、最後の方は明らかに不機嫌だったんだもん。


 「え、『なんで頑張れるのか』の問いのこと?」

 「はい」

 「うーん、やりがいがあるからかなー」

 「わかります。自分なんかはバイトができるのは学生の間だけなので、この体験を大切にしたいです」


 加えて「葵さんとの時間を」なんて言ったら、またセクハラとか女誑おんなたらしとかボロクソ言われるん―――。


 「うん。私も和馬君と一緒に居る時間が好きだから仕事が楽しいよ」

 「......。」


 はい?


 「ど、どうしたの? 開いた口が塞がってないよ?」

 「い、今なんと?」


 俺はしっかりと聞こえていたが、再度聞いてみることにした。


 「え? 開いた口が―――」

 「それより前です」

 「和馬君と一緒に居る時間が好―――っ?!!」


 葵さんの顔が見る見る内に赤くなっていく。自分の発言の意味を自覚し始めたのだろう。


 「っしゃぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 「あッーーーーーー!!!」


 ガッツポーズで大はしゃぎする俺と、両手で顔を隠して恥ずかしさのあまり叫びだした葵さん。


 この広大な畑で草むしりどころではないビッグイベントの発生である。

 

 「こ、ここここれは違うよ?!!」

 「今更何を」


 「え、えーっと和馬君が好きって意味じゃないから!」

 「誰もそんなこと聞いてませーん」


 「そ、そういう意味合いに聞こえる発言だったし!」

 「でもアレ、完全に素で言ってましたよね?」


 「す、すすす素じゃないし!! 嘘だし!」

 「はいはい」

 「もうやだぁー!!」


 赤面を通り越して泣き始めた葵さん。最高。マジ可愛い。結婚してくださいよ。


 というか、これ、告白じゃんね。この後デートしません?


 つっても、今から行ける所なんてレストランからのラブホしか思いつきませんけどー。略してレス・ラブですね。


 「本当にそういう意味で言ったんじゃなくてね!」

 「はいはい」


 「アレは“仕事仲間として”って意味で!」

 「はいはい」


 「決して、結婚を前提にお付き合いしたいって意味じゃないから!」

 「え、そこまで考えていたんですか?」

 「そこは『はいはい』でテキトーに流してよッ!!」


 いや、無理だろ。


 葵さんの思い浮かべるカップルの理想像ビジョンが思った以上に重い。いくら内心で結婚してくださいを連呼している俺でも、迂闊に「付き合おw」って言えないわ。


 「話がだいぶ逸れましたが」

 「誰のせいだと思ってんの......」


 「会長さんがあまり気にしてなさそうでしたら普通に接します」

 「うん。それが良いかな」


 「もしそうじゃなかったら......」

 「なかったら?」


 「その時に考えます」

 「ふーん。ま、なら大丈夫でしょ」


 うっわ。高橋君に戻ってるし。


 「葵さん.....」

 「和―――高橋君がいけないんだからね!」


 頬をぷくーっと膨らませて抗議する葵さん。マジ可愛い。我が突起物ち〇ぽで膨らんだ頬を突きたい。


 それに、シフトチェンジ呼びだし.......。なんかそれ、バカっぽいですよ。


 「よ、呼び方くらいで、なんでそんなにこだわるのかな?」

 「なんででしょうね。葵さんともっと親しくなりたいんじゃないですか?」

 「っ?!」


 あーあ。せっかく、距離が縮まって良い感じだったのになー。


 「そ、そう? で、でも、そんなこと私に聞かれても」

 「はいはい、そーですねー」


 しばし不貞腐れるバイト野郎であった。

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