第127話 あな〇にアンカー打ち込んでいい?
「くっそ。数多すぎだろ!」
「頑張るんだ、高橋君! 台風は待ってくれないぞ!」
天気は晴れ。明日の夜から台風が来るって言うのに今日は馬鹿みたいに晴れていやがる。ほんっと外で仕事すると汗ばっかかいて嫌になるわ。
「あ、そこもアンカー打っといて」
「了解!」
このクソ暑い中、バイト野郎と雇い主はキュウリ畑でその台風の対策をしているところだ。具体的には畑にアンカーを打ち込んでロープを通し、キュウリを作っている
「このアンカーと呼ばれる金属の塊、本当にこんなので大丈夫なんですか?」
「まぁ数は必要だけど、これでパイプを固定するのとしないのとじゃあ結果が違うよ」
畑の所々にこの“アンカー”と呼ばれる螺旋状の杭をねじ込んでいるのだが、台風のあの強風でこのアンカーはちゃんと役割果たせるのか不安である。
ちなみに先程、雇い主が「アンカー打って」とか言ってたが、“打つ”というより“ねじ込む”が正しい。ぐりぐりと回しながらねじ込んでいるしな。
この作業をしばらく続けた後、改めて畑を全体的に見渡したら結構しっかり補強できている気がする。これなら意外と強風でも耐えられそう。
このキュウリ畑に何十個もアンカーがあるんだ。最後にロープでバランスよく縛ってこの作業は終わりとなる。
「一通り終わりましたね」
「キュウリはね」
「え」
「次に似たような感じでゴーヤ、インゲンも同じくやっていくんだよ。あとナスもか」
そ、そんなにあんのかよ.....。昨日「楽しみ」とか思ってた馬鹿なバイト野郎を殴りたい。正直、楽しいどころか超キツイんですけど。
とりあえずキュウリ畑での作業は終わりなので次の畑に移る。ちなみに次はゴーヤ畑らしい。俺と雇い主はその畑に向かうため、トラックで向かっている最中だ。
「.....高橋君、祭りは行くのかい?」
「? ええ。昨日も言ったように友人と行きます」
なんだ急に。珍しく仕事とは関係無い話題を出してきたな。
あ、もしかして、
「はは。心配しなくとも葵さんたちとは行きませんよ、お義父さん」
「おい、誰がお義父さんだ」
「それに姉妹水入らずですから邪魔になりたくないですしね」
「そこが問題なんだよぉぉぉおおおおおお!!!」
『パッーーーー!』
「ちょっ! ハンドル叩きつけないでください!」
大声出してハンドルを両手をグーにして殴りつけた雇い主。当然クラクションも鳴ってしまうどうした。狂ったか、ついに狂ったか。
「どうしたんですか。いくらド田舎でも急にクラクション――――」
「考えてみてくれ! あの3人が祭りにボディーガード無しで行くんだよ!」
「祭りですからね」
「頭の中エッロいことしか考えてない猿だってたくさんいるんだぞ!」
「祭りですからね」
「しかも娘たちは浴衣姿じゃないか!」
「祭りですからね」
なんだこいつ。親バカか。うちの両親の放任主義っぷりを分けてあげたいくらいだ。
「高橋君、中身がアレな君でも仮に娘がいた場合、お祭りに行くと言ったら心配するだろう? いや、君が結婚できるとは思えないけどさ」
「喧嘩売ってます?」
「しかも嫁入り前の娘が浴衣着て!! 君が父親だったら耐えられるか! いや、実際、父になれるかどうか別としてね」
「よし、車止めて外に出ろ」
雇い主は俺をディスらないと気が済まないのかな。まぁ娘が心配なのはわからないでもないけどさ。
「そんなに心配ならついて行けばいいじゃないですか」
「それ毎年やってるんだけど、去年超怒られた」
ですよねー。保護者同伴ってあんま子供は楽しめないもんなんですよ。おまけにあんた、殺気まき散らしているだろうから尚更ね。
「まぁそろそろ子離れした方が良いってことですよ」
「やだー!!」
子供か。
「絶対、男寄り付くじゃん! 即ナンパされるよ!」
「はぁ」
「そんな奴いたら絶対うんこする穴にアンカーねじ込むよ!!」
痛い痛い。想像するだけでケツがきゅっとなったわ。
「じゃあどうするんです? 娘に気づかれないように後ろから見守るんですか?」
「だから毎年してるって言ってるじゃん!」
あ、「してる」って
そんな会話をしているうちに次の畑にあっという間に着いたので、さっきと同じようにこのゴーヤ畑にも
「でね、代わりに高橋君について行ってもらおうかなと」
と、まだ会話を続けようとする雇い主。
「自分、友人と行くって言いませんでした? それにさっき言ってた『男が寄り付いちゃう』って、俺もその“男”ですよ」
「いやいや。その辺の男より高橋君に任せた方が安心できるよ!」
おっ。そんなにバイト野郎を信用してくれてたんですか。ちょっとうるっときましたよ。
「まぁ他の男より0.01ミリくらいマシってとこかな」
なんだそのコン〇ームみたいな薄い信頼は。
「でも自分も毎年友達と行ってますし、もし自分がそいつらを差し置いて女の子と居る所を見られたら殺されますよ」
彼女でもない女の子と行って友人たちに変な恨みを買われたらどうするんですか。しかも3人共、美少女だし。
今後、友人たちから遊びに誘われなくなっちゃうかもしれない。いや、そんな嫌味なことをする奴らじゃないか。
「彼女できたって言えばいいじゃん」
「え、親公認ですか?!」
「んなわけないじゃん。耕すよ? 上辺だけってこと」
もう言ってること滅茶苦茶で嫌なんですけど。なんで頼んでいる立場なのに
「ちなみに娘たちから半径2、3メートルはあけてね。あくまでもボディーガードに徹して」
俺、お祭り全然楽しめないじゃん。馬鹿にしてんのか。
「はぁ。自分もあの3人に変な男が寄り付かないか心配ですけど、そうやって監視目的じゃあ3人にとってストレスですよ?」
「えー。じゃあどうしろって言うんだい」
「ほっとけば良いんじゃないですか」
俺は喋ってばっかで全く仕事しない雇い主を他所に、一人で作業を進めていく。仕事してくれないかな。
台風だよ? 祭りの前に台風が来るんだよ?
「その日の分の給料ちゃんと出すからさー」
「生憎と、この住み込みバイトのおかげでお金には困っていません」
「うっわ。可愛くないな。給料半減させるよ?」
「それはそれで訴えますから」
「法的手段を取るってか。ズルいなぁ!」
アルバイトのお給料半減させる奴が言えたことか。
「あ、ゴーヤは蔓が密集してるから多めにアンカー打っといて」
「ああ、たしかに。このままじゃ風の影響をもろに食らいそうですね」
「そ。ってことでよろしく」
「いや、ちゃんと仕事してくださいよ」
「無理。祭りのことの対策を立てなきゃ」
「......。」
どんだけマジなんだよ。いいのか、そんなんで。帰ったらこっそり真由美さん辺りにチクろ。そう心に誓ったバイト野郎だった。
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