第126話 Tの進路
「あ、台風だって」
「毎年毎年、凝りもせずよくくるよなぁ」
「日本なんだからしょうがないわよ」
先程まで、『バイト野郎歓迎会』をしていた俺たちは今はもう南の家に戻ってリビングでくつろいでいるところだ。
バーベキュー、最高だったなぁ。ああして歓迎されるとほんっと
「台風対策って毎年やってる気がするよ」
「もう毎年こんな調子なら余裕があるときに予めやった方が良いかもね」
「また仕事が増えますね.....頑張ってください」
「「.....。」」
そこで頑張ってくださいと言える
そう。今は皆とニュースの天気予報で台風情報を収集しているところだ。台風が来るのは月末らしい。なんでも、進路を急に変えてこの田舎をちゃんと通過するらしい。その直撃に関して皆、悩み顔と言ったところだ。
「やっぱ作物が心配ですか?」
「そうねぇ。対策立てられる作物は良いけど、限界ってものがあるから難しいのよぉ」
たしかに、毎年、台風被害にあった場所の情報は後を絶たない。日本各地の被害をニュースで放送している数なんかよりもっと多くの被害があるからな。取り上げられるのは被害が酷い所だけ。テレビなんてそんなもんだ。
「まぁ今年は高橋君がいるし、早い段階で対策が立てられる余裕があるからなんとかなるかな」
「はは。任せてください。見事、野菜を守って見せましょう」
「おっ。なんかいつもより頼もしい」
「“いつもより”ですか.....」
「あ、いや、いつにも増して!」
「そ、それほどでもぉ」
「.....なんかちょっと面倒くさい」
シャラップ! バイト野郎は褒められると成長するタイプなんですよ。ちなみに愚息は撫でられると一時的に成長します。もっと言うと、擦ればアレがデます。
「あ、あの、皆には悪いけど―――――」
「わかってます。
「.....ごめんなさい」
「なんで謝るんですか。中村家で中卒終わりは許しませんよ」
「千沙姉、私頑張るわ!」
ここだけ切り取って聞いてれば美しい姉妹愛だなって思うけど。ひきこもり野郎にそんなこと言ったって“感動”の二文字は生まれない。千沙、働け。
「ふふ。勉強に躓いたら兄さんに聞いてくださいね」
「わ、わかったわ! 願ったり叶ったりよ!」
どこまでも他力本願な妹と受験生。もう兄を辞めていいですかね。
っていうか受験勉強言うなら今日の“スイカ割り”の件は何だったのか。あ、いや、歓迎会してくれたんだもんな。感謝しなきゃ。
「ってことで、高橋君、悪いけど明日から作物の台風対策をメインに仕事をお願いね」
「了解です」
雇い主が俺のことを頼ってくれている。歓迎会であんなこと言ってくれたんだ。精一杯頑張ろう。
「あッーーーー!!!」
「「「「「?!」」」」」
そんな中、突然、陽菜が大声を出してきた。どうした、仕込んでた電マで絶頂を迎えたのか? だとしたらすごい盛大にイッたな(笑)。ぐへへ。
「た、台風の当たる最終日.....祭りの日よ」
受験に専念しろよッ!!
お前、やる気あんのか?! 塾行かないで自力で頑張るんだぞ! 今年のお祭りは諦めて来年行けよ!
「ひ、陽菜、行く気だったの.....」
「あ、いや、えーっと、和馬が『どうしても行きたい』って!」
「言ってねーよ」
「まぁ今年は我慢してください。その分、私たちが楽しんできますから」
どうしよう、このクズ妹。末っ子をイジメて楽しいか。
そういえばあったな、ここら辺で花火大会も同日に。なに、毎年皆行ってんの?
ちなみにバイト野郎のこの住み込みバイトはその日が終了日だ。延長しない限りその日でこの生活も終わる。長いようで短かったなぁ。
「まぁこれだけ進路や吹く風の強さが予報と違ったんだ。数日先なんてわからないよ」
「この人の言う通りよぉ。まぁ台風が直撃しているときはさすがの直売店も出来ないわねぇ」
「お客さん来ないし、やるだけ無駄」
雇い主と真由美さんが直売店のことに関して話し合ってる。そうだよね、台風の日はさすがにお休みだよね。
「あーでもそろそろ直売店の方が危ないかな」
「店がですか?」
「そ。あそこで店開いてからかなり経つから結構古いんだよね。屋根とか窓とか飛んでいきそう」
「そ、そこまでですか」
あの店、そんなに古かったのか。おつかいで行ったときはそんなに気にしなかったけど、目に見えないところで建物ってのは老朽化するもんなんだな。
「花火ぃ.......」
「ま、まだ言ってるの?」
「あ、葵姉だって花火が好きだから毎年行ってるじゃん。どーせ千沙姉みたいに私を置いてくんでしょ?」
「ま、まぁ、行くけど」
「姉でなし!」
「ひとでなしみたいに言わないでよ....。あ、じゃあこういうのはどうかな?」
「?」
「私が代わりに花火をスマホで撮ってくるって言うのは―――」
「そんな画面越しで見るなんて虚しすぎるわよ!」
「えー」
「それに葵姉、ビデオどころかカメラも下手くそじゃん! さっきの和馬の泣き顔なに?! ブレッブレだったじゃない?!」
はは。ざまぁ。あんな至近距離で、何枚も撮ってたのに1枚も上手く撮れてないとか。天才か(笑)。
「あ、アレは高橋君が動くからだよ! 私が下手くそなんじゃなくて、高橋君がいけないの! ね!」
「『ね』じゃないですよ。下手くそなだけです」
「.......。」
「
葵さんが俺の頬を抓ってきた。正論すぎで言い返せなかったのだろう。っていうか、全員あの写真消してくれないかな。
「まぁまぁ。ガス抜きってことでその日くらい良いじゃないの」
「ママ!」
「しっかり勉強頑張るのよぉ」
「ありがと!!」
真由美さん、甘やかしすぎ。こいつ、まだ勉強のべの字もしてないんですよ? ガス抜く前にガスが溜まってません。
「楽しみね! 和馬!」
「?」
「花火大会よ!」
「え、俺、毎年友達と行ってるんだけど」
「なっ?!!」
陽菜が驚く。え、なに。
「こ、この流れで兄さんは他の女友達と行くって言うんですか.......」
「いや地元の友達とね。あと女子いないし」
「わ、私の浴衣姿見たくないのかしら.....」
「いや別に」
「別に?!」
見たいよ。超見たい。だって陽菜可愛いじゃん。でもそんな素直に言えるわけないじゃんね。
それに毎年、俺は友達と行ってるからな。高校生になっても、きっと男友達だけで去年みたいに一緒に行くでしょ。.....皆、彼女作ってたら話は罰だけど、“友情”を優先してくれるはず。
「まぁまぁ高橋君だって付き合いがあるんだし。今年も3人で行こ?」
「4人で行きたかったわぁー」
「兄さんのKY」
「めんご。まぁ、もしかしたら当日会うかもね」
「兄さんに会ったらたこ焼きぶつけますから。もちろんタコ抜きです」
「私、りんご飴投げるわ。りんご飴食べ終わったヤツをね」
「え? じゃあ、私はビー玉抜いたラムネ投げようかな」
タコあろうが無かろうがソースで汚れるし、りんご飴無しのりんご飴を投げるのは、それもうただの
葵さんに至ってはついで感覚でバイト野郎に鈍器投げてくるし。どっちかって言うとビー玉の方が欲しいですね。もちろん葵さんが一度口に含んだヤツですよ? ええ、はい。
「泣き虫さんは本当に人気者ねぇ」
「どう足掻いたって父は娘からの当たりが強いからね。羨ましいよ」
「娘たちのあの発言を聞いてよく、『人気者』だとか『羨ましい』とか言えますね。嫌がらせですよ?」
そんなこんなで最高な一日を終えた中村家とバイト野郎1匹であった。
明日から台風対策の仕事かぁ。何をするんだろ。不謹慎だけど少しその作業が楽しみだな。そんな俺は控えめに言って馬鹿である。
――――――――――――――
ども! おてんと です。
笑いごとじゃないですが、農家の方の台風対策って思っているよりもずっとずーーっと大変なんだと知りました。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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