第125話 最後感だしたって、まだ種しか植えてないし

 「「「「「ようこそ! 中村家へ!!」」」」」


 それはとても幻想的で、目の前に無数のキラキラが舞っていた。


 中庭に居たから、風が吹いてそれらを視界の外に吹き飛ばした。


 「......。」


 そんなキラキラを飛ばしてきた中村家の皆は、揃いも揃って口から細長い紙がたくさん出ている筒状の物を俺に向けていた。


 「ふふ。目が点になってるよ、高橋君」

 「さすがの泣き虫さんでも予想できなかったでしょう?」

 「ちょっと癖になりそうね!」

 「わかります。こういう反応って新鮮ですよね!」

 「はは。高橋君、驚きすぎでしょ」


 俺の目の前で皆がはしゃぎだす。


 そんな状況下でただ一人、俺はまだ――――


 「え、どういうこと?」


 意味がわかっていなかった。





 「お、落ち着いて。高橋君」

 「あ、はい」

 「これはね、サプライズだよ」

 「さぷらいず?」

 「なんかバカみたいになってる.....」


 「兄さんがここで働いてから4カ月くらい経とうとしているんですが、まだ歓迎会をしたことが無いらしいですからね」

 「か、歓迎会?」


 「いやぁーいつやろうか迷ってたんだけど、なんか良い感じにスイカ割りの順番が高橋君で最後だったからね」

 「は、はぁ」


 「なによ、和馬。さっきから微妙な反応して。ちなみに4回戦では私たち姉妹全員“白”だったわ」

 「ま、まじか」

 「まぁ同じ『騙す』ならこっちの方が素敵な『騙し方』じゃない?」

 「.....そうだね」


 「ほら、泣き虫さん。飲み物を手にして? 今日の歓迎会はあなたが主役よぉ」

 「え、あ、はい。ありがとうございます?」

 「ほ、本当に驚いているのねぇ.....」


 え、つまり俺の歓迎会ってこと? 今? ここで? 駄目だ、人間性を疑っちゃう『スイカ割り』から急にバイト野郎を祝う『歓迎会』はギャップがありすぎてついていけない。


 よし、一旦冷静になろう。


 「ちょっと待ってください」

 「た、高橋君?」


 俺は少し離れたところにある水道のところまで行って、蛇口にホースを繋ぎ、思いっきり頭にぶっかけた。


 「ちょっ、和馬?!」

 「何してるんですか兄さん?!」


 うん、すっきりした。


 俺はずぶ濡れのまま皆を改めて見た。近くには俺が目隠しするまで無かったバーベキューでもするかのような設備と、食事をするためのテーブル、人数分の椅子があった。


 中庭にはさっきまで俺に発砲してきたクラッカーの飛来物が散乱していた。風があったからかあちこちにキラキラと紙屑が落ちていた。


 知らないうちにここまでするなんて.....。


 「あーこれら全部.....もしかして自分のために?」

 「さ、さっきからそう言ってるじゃん」

 「クラッカーの音でおかしくなりました?」

 「頭がおかしいのは最初からでしょ。何言ってんのよ」

 「泣き虫さん、落ち着いたら着替えてきなさいな。風邪ひくわよぉ」


 なぜか頬に何か流れ落ちるのを感じた。たぶんさっき思いっきり水を頭からかけたからだろう。たぶん。


 でもわからない、こみ上げてくるこの言葉では言い表せないこの感情が。


 あ、これって。


 「に、兄さん、泣いてます?」

 「「「え、嘘?!」」」

 「なっ、泣いてない!」

 「高橋君も大げさだなぁ。どこのバイト先でもあるただの歓迎会だよ?.....よし!」


 そう言って、未だ水道付近にいる俺のところへ雇い主が近づいてくる。片手には一升瓶のような物を持っていた。おそらくこれからソレを飲むのだろう。


 「ち、違いますよ! こ、こここれはですね!」

 「何が違うんだい? どこのバイト先でもあることだろう?」

 「そうじゃなくて、自分は泣いてませ――――」


 「こんな田舎だけど、探そうと思えばバイト先なんていくらでもある。距離はあるかもしれないけどね」

 「っ?!」


 「そんなご時世でも君はこんな農家をバイト先に選んでくれた」

 「.....。」


 「不慣れなことが多くて大変だっただろう。ときには怪我をし、疲れがとれないまま次の日を迎えることもあっただろう」

 「.......。」


 「それでも今日まで何も文句を言わず、投げ出さず、考え、向き合い、行動した君はすごい人間だ」

 「.........。」


 「比べる対称となるアルバイトが君以外いないから、高橋君が

 「.............。」


 「そもそも『いない』というより続かない根性無し共ばっかだったしね」

 「..................。」


 「だから二つ程、高橋君に改めて言いたい」

 「.....なんですか?」


 「もっと早く歓迎会を開くべきだった。『ごめんね』と」

 「そ、そんなッ――――!」


 「それと、もう一度言おう。『中村家へようこそ!』ってね」

 「っ?!」


 とうとう俺は泣いてしまった。良い歳した男なのに、感動の気持ちが抑えられなくて、恥ずかしいくらい泣いてしまった。


 「あはははははは! 高橋君も人の子ってとこだね! よし。今日は君の歓迎会だ!」

 「うっ。し、失礼な―――ぶはっ?!」


 俺が泣いているのに気を遣ったのか、雇い主は俺の頭に片手に持っていた一升瓶の中身をぶっかけた。


 「うんうん。これでらしくもない泣き顔でも『上司にアルハラの勢いで頭から浴びせられました』って主張できるね!!」


 酒の無駄ですね。.......まぁでも、助かりました。あっちの女性陣にはかっこ悪いとこ見せられないですよ。


 「あ、ありがとうござ―――」

 『パシャッ! パシャ!』

 「え」

 『カシャシャシャシャシャ!!』

 「ちょ!」


 なんかいつの間にか葵さんとか千沙や陽菜が俺のとこ来てバイト野郎の泣き顔をスマホで写真撮ってくるんですが。


 「やめっ! ちょ!」

 「隠さないで! ただでさえスマホ扱い辛いんだから!」

 「じゃあ撮らなきゃいいでしょ?!」


 葵さんめ、なんでスマホ使いこなしてんだよ。こういう時に限ってちゃんとカメラ機能使えてるし。


 「最高ですね!良い顔じゃないですか!」

 「お前!覚えてろよ!」

 「はい。忘れないようにスマホの待ち受けにしときます」


 千沙はここぞとばかりにカメラの連射をしてくる。人の泣き顔がそんなに面白いか。


 「ハァハァ。和馬、こっちに目線お願い!」

 「しねーよ!」

 「ケチ! あんた、泣き顔も最高とかどんだけ胸きゅんさせれば気が済むのよ!」


 知るか! なんで陽菜は火照ってるの?! 俺は両腕で必死に顔を隠すが、この三姉妹がその両腕を顔から遠ざけようとする。


 こういうときに限って連携プレイするの辞めてくれないかな。おかげでスマホのシャッター音は鳴り響いたままだし。


 「はは。高橋君は人気者だな!」

 「あらあら。泣き虫さんが困ってるじゃない。イジるのも程々になさいな」

 『パシャッ!』

 「真由美さんも撮らないでくださいよ!」


 「あ、それ俺にも送っといて」

 「はいはい」

 「送らないでください!」


 なんて嫌な家族なんだ。


 人が感動して泣いてるところを面白がってスマホで撮りまくるなんて最低だ。


 それに『スイカ割り』ってイベントのはずだったのに結局はスイカを割ることも無く、歓迎会をサプライズで仕掛けてくるとか卑怯だし。


 おまけに今更俺の心情をわかったように話してきた雇い主には腹が立つし。


 あーくそ。マジでここに来て良かったって思うじゃん。


 「あーあ! スイカ割りたかったなぁー!!」


 そんなやけくそを吐き出した俺は今日も明日もこれからも、このバイトを続けていくのだろう。


 こんな最高な農家バイトに巡り合えたんだしからな。


 そう、学生生活なんかを他所に、これからも俺は『畑を耕し、そこに―――――


 「いや、“スイカ割り”って楽しいけど後片付け大変だし」

 「ええ。なにより、あんな砕けた果物なんて食べづらいですから」 

 「そうそう。スイカは切って食べるのが一番よ!」


 「......。」


 あーはいはい。


 そうですねッ!!



――――――――――――――



ども! おてんと です。


試しに雰囲気最終話(?)っぽくしてみましたがまだまだ続きます。というか最近書きたいことが思いついても忙しくて時間が(言い訳).....。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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