第124話 スイカ割りとサプライズ
「さて、最後は俺の番ですね」
「そろそろ
「ふふ。兄さんを見事騙してあげましょう。仕返しです」
「良い女は時に嘘をつくもの.....ね!」
「頭が切れる泣き虫さんを騙してみたいわぁ」
「そうだ、高橋君が目隠ししている間にスイカを隠そう!」
どうしよう、誰も赤チームになってくれない。雇い主に至ってはもう赤とか白とか関係無い。ただのズルである。
俺たちは仕事もせずにスイカ割りをしていた。次は
「ちゃんと割り箸引いてくださいよ.....」
「はいはい。じゃ、あっちでしてくるから、目隠しして待っててね」
俺は言われた通り目隠しをして開始の合図を待っていた。
「こ、怖ぇ」
目隠しで何も見えない恐怖もあるが、何よりこれから2、3人に視覚を頼れない状況で騙されるという怖さがあった。誰だろうな。嘘が上手だとこれからその人たちを見る目が変わっちゃいそう。
「準備できたよー」
「じゃあ回ります」
と言っても俺は策士(自称)だ。スイカの位置なんてどんなに“ぐるぐる
なぜかって?
それはこれが木刀やバットではなくて、“鍬”だからだ。
鍬にはもちろん木の棒の先端に耕すための『金属製の板』がある。それを予めスイカのある方向に向けておいて、“ぐるぐる
つまりスイカの位置なんてこの『先っちょ』のおかげでわかっちゃうんだ。
「よーし、10回回るぞー」
なんて卑怯なんだ。正直、勝敗はどうでもいい。勝ちにこだわっていないが気づいてしまったんだからしょうがない。
「ちょっと待ちなさい、和馬」
「?」
と、陽菜からストップがかかった。
「あんた、“鍬平”の方におでこを付けて回ってくれないかしら」
「っ?!」
「その農具を逆にして回りなさい。もしくは鍬を軸にする際、鍬もちゃんと握って一緒に回りなさい」
「な、なんでかな。皆こうしてたよね?」
もしかしてこいつ、俺がズルすることに感づいたのか。いやいや考えすぎか。
「和馬を疑うなんて本当はしたくないけど、あの和馬だのもの」
「なななに言ってんだ、俺は―――」
「金属の板の先端でスイカの位置を探ろうとしてるかもしれないじゃない」
ば、バレたー! 陽菜め、俺がすること先読みしちゃったよ。そうだよ。ズルしようとしたよ。ごめんね!!
「そ、そんなこと、さすがのアレな高橋君でもしないよ!」
葵さん、地味に傷つきました。しようとはしてましたけど。
「.....私も、その線を考えてました」
「千沙まで?!」
「ええ。
「た、たしかにやろうと思えばできるけど.....」
「当然、兄妹ですから兄さんも気づいているはずです」
「じ、実の姉の私は気づかなかったよ.....」
いや、血は繋がってないけど、全くその通りすぎて本当の兄妹みたいだよ。兄になって初めて実感したわ。「お前、俺と同類だな」って。
「もちろん、和馬のことだからそんなことしないと思うけど。信じていたいしね.....」
「もちろん、兄さんのことですからしませんよね? 妹、幻滅しちゃいます」
「......。」
くっ。そうだよね。スイカ割りでそんなズルするなんて大人気ないよね。実行する前に指摘されて良かったぁ。
「じゃ、じゃあこうするわ」
「疑ってるわけじゃないのよ?! 日頃の和馬ならやりかねないと思っただけ!」
「ええ。兄を疑う妹なんていませんからね。でも、『もしかしたら』ってこともあしますし」
「.....二人とも充分疑ってたよ」
そう言って俺は陽菜の言われた通り、金属の板の方をおでこに付けて10回回った。
「よし! どっちだ!!」
「『左』だよ!」
「いいえ、『正面に真っ直ぐ』です」
「『左』だわ!」
ん? 三姉妹の声しか聞こえないんだが。真由美さんと雇い主は?
「あのーお二人は?」
「母さんと父さんは歓げ―――フグッ!」
「ママとパパは仕事に行ったわ!」
「え、じゃあ
「に、兄さんはそのままでいいですから!」
「いや、だって――――」
「す、スイカ割りなのにスイカ割らなかったらスイカに申し訳ありませんよ!」
いやさっき「
「ま、まぁ、コレを終わらしてからにするか」
「そ、そうそう! ってことで右ね!」
「さっき葵さん『左』って言ってたじゃないですか」
「あ」
ちょっとちょっと、もう一瞬で葵さんが
「葵姉馬鹿なの?!」
「うぅ~、ごめんなさいぃ」
「じゃ、じゃあ千沙が本当のことを言っているってことかな」
「ええ、そうです。兄さん、『後ろ』に振り向いて5、6歩進んでください」
え。
「いや千沙さっき『正面に真っ直ぐ』って言ってなかった?」
「言ってましたっけ?」
「言ってたよ!」
「妹を疑うなんて.....。それでも兄ですか」
お前、さっき俺のこと散々疑ってただろーが!
「え、えー。もう誰を信じたらいいかわかんなくなったよ」
「私、まだ一回も嘘ついてないわよ!」
「いや、陽菜は葵さんと同じチームなんでしょ? まぁ千沙も信じにくいが」
「か、和馬、嘘ついてないわ。愛の神に誓って!!」
スイカ割りに愛の神とか重いこと言うんじゃないよ。こっちまで小っ恥ずかしいでしょうが。
「わ、私だって言い間違いしただけで、嘘言ったたわけじゃないよ! マッチョに誓って!」
あんたは何かしらの神に誓ってものを言え。なんだマッチョに誓ってって。
「まぁ私は妹ですから兄に嘘なんかつきませんが。とりあえず誓っときます。ひきこもりに」
お前は自分に誓ってんじゃねーよ。『誓う』って言わない、ただ『言い張ってる』だけだよ。
「じ、自分で遊ばないでくださいよ.....」
「あ、ママだ」
「うん、おけ」
「意外と早かったですね」
なんか三姉妹と俺の会話がかみ合ってない気がするんだけど。今度はなんだ。
「じゃあ高橋君、質問!」
「え、なんですか急に」
「私が持っていた割り箸は何本だってかな?」
「? 赤と白が3本ずつあって、計6本ですよね」
「ふふ。では兄さん、ここにいる私たちはそれぞれ何色を取ったでしょう?」
「いや、さっきから皆ばらばらなこと言うから、もうよくわからないよ」
「ヒントはママやパパがどっかに行っても本数はそのままよ!」
「そ、それヒントなのか。ってことは、3人とも同じ色を取ったこともあり得るってこと?」
「「「正解!」」」
まじか。6本あって、そのうちどっちかの色を全部取ったってことかよ。それこのゲームの意味あるのか? よく引き直さなかったな。でも最後は平和で良いじゃないですか。
「えーっと。じゃあ、どこに行けばいいですか?」
3人とも同じ色なら赤か白なんて俺には判別できない。まぁ意外と楽しかったし、結果がどう転んでも最高なスイカ割りだった。
「「「そのまま真っ直ぐ(です)!」」」
でもつい考えてしまう。
3人とも“白”なら「その場で鍬を振り下ろせ」で終わるのにこうしてまだ俺を移動させるってことは本当は“赤”なんじゃないかって。
「ストップを行ってくださいよ」
俺はそう返事して前が見えないまま言われた通り突き進む。
「「「ストップ(です)!!」」」
「はい。......次はどちらへ?」
「「「そのまま鍬で割って(ください)!!」」」
え、ここかよ。
俺は三姉妹の言葉を信じる。立っている目の前にはスイカがあることを疑っていない。
なに、結局は「皆、赤チームでしたー」ってオチでしょ。
バイト野郎はそう思い込んでスイカを完全に叩き割るために、両手で握っている鍬に力を込める。
そして、
「ぬおりゃぁぁぁぁあああああ!!!」
『ガッ!!』
「ぐぁッ?!!」
いっっったっ----いッ?!!
は?! 無いの?! スイカ無いの?! 歩かせといてありませんは酷いよ! 皆して俺のこと騙しやがって!
「ちょ、ちょっと! スイカ無い――――!」
俺は付けていた目隠しを投げ捨てて、3人を睨もうとする。
だが、
『パンッ!!』
『パンッ!!』
『パンッ!!』
『パンッ!!』
『パンッ!!』
「っ?!!」
何かが破裂したような音を連続して食らった。
「......へ?」
俺は今の状況に頭が追い付ていない。
目隠しを取った明るい眼前の光景には、手には何か小さな筒状のような物をもった中村家の皆がいる。
「「「「「ようこそ! 中村家へ!!」」」」」
――――――――――――――
ども! おてんと です。
スイカ割りには優勝者は『葵』と『真由美』の二名になりました。
そうです。4回目のポイントは反映されません。なぜかって?
ふふふふふ。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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