第99話 第一回 アオイクイズ
「では問題」
「デーデンッ!」
「よ、余裕だね...」
俺と葵さんは仕事もせずに農家クイズをおっぱじめた。あ、いや『アオイクイズ』だっけか(笑)。安直な名前からして知能を感じないクイズイベントだな。
「えーっと『なぜあのピーマンは赤い』のでしょうか? 理由も添えてお願いします」
そういって葵さんはここから少し離れた位置にある赤いピーマンを指して言った。ふむ、やはりそうきたか。
正直、品種が違うようにしか見えない。だってピーマンって言ったら普通は緑でしょ? それが真っ赤なピーマンとは、これいかに。
それに以前、オクラを収穫したときに、そこには緑色のオクラと赤いオクラがあった。形は同じでも色が違う品種らしい。でも今回は葵さんがこんな含みのある言い方をするからその線は薄いと思う。
「近くに行って見てもよろしいですか?」
「いいよ! あ、でもお触り禁止ね!」
ピーマンがあっち系のお店の娘のように聞こえる。
そうか、触っちゃダメなのか。俺はピーマンに近づき、観察を始めた。観察した赤いピーマンの隣には緑色の一般的なピーマンがある。特に畑上で区切ったり、特別な育て方をしているわけではない。
「うーん」
「ヒント欲しい? あぁーでも今回はご褒美があるし、高橋君意外と頭が切れるから油断できないな」
イラっとくることを言われたから、なおさら自力で解きたくなった。そしてなにより、罰ゲーム“ソロ半裸ツイスターゲーム”だけは回避しなければ。
「ふむ、大きさもさほど一般的な緑ピーマンと変わりませんね。最初は品種が違うだけかと思っていましたが、どうやらそれだけじゃないようです」
「へ、へぇー」
お、正解に近づいた感じがする。葵さんも演技下手だよなぁ。なんかそのうち葵さんの方からボロが出そう。
「整枝した赤いピーマンがなっている方も、緑の方と同じくらいの大きさですし、葉も違いが見受けられませんね」
「くっ」
顔に出していいんですかぁ? あっち向いててもいいんですよ?
「先ほど葵さんが『お触り禁止』と言ってましたし、触ったときの感触が緑色のと少し違うのかも」
「わ、私、そんなこと言ったかなぁ?」
「ええ。言いました」
「......。」
この人、本当にさっきから口といい、表情といい地味にバイト野郎にヒントを与えているんだけど。ウケるんですけどー。
「触ってはいけないということから赤いピーマンは“硬い”のか“柔らかい”のかに別れますね」
大体の夏野菜は成長しすぎると硬くなる。例えばナスは成長しすぎると硬くなる上に、艶もなくなってくる。キュウリも硬くなってパンパンに膨らみ、色も緑色から黄色に変色する。
「い、いやぁ感触は緑色のと一緒だと思うなぁー」
「......。」
あっそ。じゃあなんで触っちゃダメなんだって話ですよ。きっとなにか関係しているはずだ。
「この赤ピーマンは特に肥大化したわけじゃありませんし、変色だけですね。品種が違うようにも見えますが、特にこの畑上で区切っているわけでもありませんし。普通にお隣には緑ピーマンが等間隔で植えてあります」
「もう答えを言って?! 心臓に悪いよ!」
と、言われましても。葵さんを追い詰めている感じがして面白いんですよ。やみつきになりそうです。
「つまりこれは緑色のピーマンが“熟した”からで赤いんですね?」
「なっ?!」
ふっ、図星のようだな。
「な、なんでその答えにたどり着くの?」
「トマトと同じ考えをしました」
「と、トマト?」
「ええ。トマトも最初の頃は硬く、緑色から始まり、実が赤く熟して軟らかくなってから売り物となりますし、このピーマンとよく似ています」
「いやいやいやいや! どこが似ているって言うの?!」
「まず、赤く変色したピーマンが売り物にならないならば、切ってその辺にポイします。虫が食べて穴があいたピーマンみたいに即処分ですね。でもその辺に赤いピーマンは落ちていません」
「そ、それで?」
「なので切り捨てずにこのまま丁寧に育てている理由は、赤いピーマンに利用価値があるからだと思いました。最初はこの赤色が“腐っている”という可能性も考慮しましたが......」
「こ、考慮したけど?」
「腐った特有の臭いがしませんでしたからその線は無いでしょう。尤も、このまま放置すればそのうち腐食すると思いますが」
俺は葵さんの表情などから答えがあっていると確信したため、次の憶測を余計に付け加えようと語りだす。バイト野郎が答えを当てたからか「正解」とは言わずとも葵さんが未だ驚いた眼で俺を見る。
「どんな味かも当てましょうか?」
「あ、味?」
「ええ。熟しているという仮定が本当ならば、赤いピーマンは“甘い”はずです。そのため、緑色のピーマンのような苦みは無いと思われます」
「......。」
おっと、先輩風吹かしたがっている先輩がだんまりだぞぉー。なんだこれ、超楽しすぃー。
「し、市場であまり流通されていない理由とかもわかる? そ、そこまでわかってこそ初めて“正解”と呼べるんだよ!」
「......。」
ちょっと軽く引いてしまった。そこまでして後輩の回答を認めたくないのか。見損ないましたよ。
「まぁ熟したピーマンを売るならそれなりの時間や手間がかかりますし、出荷してスーパーなどで売り出しても、きっと日持ちはしませんから価格に見合った価値がこの赤いピーマンには無いのでしょう」
「.........。」
先輩に対して思いやりという気持ちが欠如している後輩。控えめに言ってKYである。さーせん。だって“ソロ半裸ツイスターゲーム”は嫌なんだもん。
葵さんがうつむく。なぜかぷるぷると小刻みに震えている気がする。どうしたんだろうか。
「......いい...」
「はい?」
「もういいよ! 高橋君の接待知らずッ!!」
激おこぷんぷん葵丸の誕生である。怒った顔も可愛いですね?
っていうか「接待知らず」ってなに。初めて聞いた。普通、後輩にそれ言う? 大人げないと思うんですけど。
「私、もう帰る!」
「え、ちょっ葵さん!」
「ピーマンの収穫お願いね!」
そう言って葵さんは乗ってきた軽トラに乗り込んで帰ろうとした。ちなみに葵さんはバイト野郎が休暇を取っている間に免許を取ったらしい。
それで今日はここまでバイト野郎を乗せて葵さんが運転してくれたからな。
「あ、葵さん、失礼しました! 自分が悪かったですから、まだ収穫の説明途中じゃないですか?! 一緒に頑張りましょう!」
「知らないよ! 高橋君、頭良いんだから自分でできるでしょ!」
「パワハラにもほどがありますよ!!」
おいおい、そんなに悔しかったんですか。たかがピーマンの成長過程を憶測で語っただけじゃないですか。
「そもそも高橋君はもっと先輩を褒めるべきだよ!」
後輩を褒めるとかならまだ普通な感じがするけど、逆に先輩を褒めるとは、これいかに。
「ほ、褒めると言われましても、何のことですか?」
「これだよ! こ・れ!」
そう言って葵さんは軽トラのドアをばんばん叩いた。え、車?
「私、免許取ったんだよ?! 『運転上手ですね!』とか『エンストしないなんて尊敬します!』とかないの?!」
「そ、そっちですか」
ピーマン関係ねーじゃねーか!
たしかにこの畑に来るまで運転についてなんも褒めてない気がするけど、こんなに承認欲求が強いなんて知りませんでしたよ。
仕方ない。
「わーすごい! さすが葵さんです! 自分なんかじゃ絶対に運転できませんよ! 憧れます!」
「そんな取って付けたようなべた褒めは要らないから!」
もうどうしろって言うんですかぁ。疲れましたよ。仕事初めてもいないのに人間関係で心が擦り減ってしまいましたよ。
あ、そうだ。
「あ、イノシシですよ! 葵さん!」
「え?! どこ?!」
「隙ありッ!」
「あっ!」
俺は一瞬の隙をついて軽トラの鍵を引っこ抜いた。ふふ、これで軽トラで帰れまい。
「高橋君、返して!」
「素直に返すわけないでしょ?! 俺が預かります!」
そのまま鍵を胸ポケットにしまった。
「そっちがその気なら、こっちも実力行使だからね!」
「え、ちょっ!」
そう言って葵さんは俺から鍵を奪い返そうとバイト野郎の胸に手を出す。だがその手は鍵が入っていない方の胸ポケットをまさぐっていた。
「...。」
「......あ、相変わらずすごいね」
「......。」
「...前より膨らみがすごい気がする」
あんたどこ触ってんだ。絶対これ見よがしに人の胸筋触ってんだろ。
「........葵さん」
「......厚手のツナギ服なのに谷間の深さが―――」
「葵さん!!」
「ひゃいッ?!」
俺が怒鳴ったので変な声を出した葵さん。そりゃあそうだ。こんな時に変態行為とか、よくそれでさっき人のこと怒ったよな。
「葵さん......」
「え、えーっと、これはなんというか、そのですね―――」
「こんなことする先輩を敬えと言うのですか?」
「っ?!」
「最低ですね」
「......おっしゃる通りです」
「さ、仕事しましょ」
「......はい」
こうして俺と葵さんはやっとピーマンの収穫を始めることができた。二人で作業しているのに通常より時間がかかってしまい、後の仕事にも支障が出てしまった。今回の反省点はお互い欲望を露にしてしまったことにある。
――――――――――――――
ども! おてんと です。
次回で閑話なしで100話目になります。
......特に特別話を書くわけではありません。というか、それより恒例の1万PV記念回を書かなければいけないんですよね......。
くっ、ハブアナイスデー!
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