第93話 桃花の視点 こんなはずでは…

 「あ、あのぉーお兄さん...」

 「ん? どうした?」

 「ここは.....どこ?」


 最初はただの“からかい”だった。


 今日一日だけ、お兄さんと大都会でデート。そんな誘いを持ち掛けた私だが正直、お兄さんのことは好きでも嫌いでもない。普通なのだ。普通。


 「どこって(笑)。ここがどこかも知らない桃花ちゃんじゃないだろ」

 「い、いや、その確認?...みたいな」


 一日中デートと言っても大都会に着いたのは午後の話で、コインロッカーよりみちしてから映画を見に行ったのであっという間に夕飯の時間になる。


 今はその映画も見終えて、私の予定では軽くそこらへんで食事でもして帰る...というはずだった。


 それなのに......次は予定通りのご飯を食べに行くはずなのに―――


 「確認もなにも、だよ? ラ・ブ・ホ」


 ―――なぜかラブホにいるJCわたし童貞高校生おにいさんである。


 ベッドに腰かけたお兄さんが言う。


 「先にシャワー浴びて来いよ」

 「......。」


 お母さん、お父さん、娘の貞操の危機ですがたべられちゃう






 さかのぼること1時間の前のことになる。雨はとっくに止んでいたときだ。


 「あー映画、面白かったね!」

 「そうだね、意外な展開だった」

 「うん! 結局、二人は結ばれると思ってたけど、別れたまま終了は後味悪いよねー」


 映画を見終えて、帰りの電車に乗るため最寄駅までお兄さんと歩いていた。でも、このまま田舎に帰ってしまうのは、なんだかもったいない気がした私だった。それこそ『味気ない』って思ってしまう。


 「あ、信号赤だ」

 「さすが大都会、交差点の人混みすごいな」

 「ねー」


 私はそのとき、ふと歩道沿いのイタリアンなお店が目に入った。ガラス窓越しから眺めたその光景はとってもお洒落で、食事をしてみたいと憧れるレストランだった。


 うーん、ここで食事してみたいかも。でも、こういうとこって高いし、中学生である私のお小遣いでは心もとない。


 あ、ダメ元でお兄さんに頼んでみようかな。私はレストランに視線を送ったままお兄さんに頼んでみた。


 「そうだ、お兄さん......(レストランに)食べに行っていい?」

 「え」

 「お兄さんが奢ってくれるなら、私......いいよ?」

 「......。」


 はは。さすがのお兄さんでも高そうなレストランじゃあ奢ってくれないかぁー。まぁ付き合ってもないのにそこまでしてくれたら軽く引くよね。


 「......いいぞ」

 「え」


 「俺もやぶさかでない! むしろこの時を待っていたんだ!」

 「お、お兄さんどうしたの?!」


 「大丈夫! こういうこともあろうかとリサーチ済みだ!」

 「え、あ、ちょ、どこ行くの?!」


 私は手を握られ、半ば強引にお兄さんに連れていかれる。その際、視界に入っていた先ほどのレストランは遠ざかっていった。


 どこかおすすめの場所でもあるのかな。残念って気持ちもあったけど、お兄さんがおすすめしてくれるなら口出しは駄目だよね。奢ってくれるみたいだし。


 「お、お兄さん、ここって.....」

 「安心しろ! だ。むしろおつりが返ってくるくらいだ」

 「あ、いや、そうじゃなくて」

 「さぁ行こうぜ、桃花! ばっちり予約はさっきスマホでしといた!」





 冒頭に続きの話に戻る。そう、なぜかお兄さんに連れられて私は今、ラブホテルにいる。しかも、もう部屋の中だ。


 「どうしたん?」

 「い、いや、えーっと」

 「あ、大丈夫! シャワー浴びてるときに覗きとか、侵入とかしないから」

 「しししし侵入ッ?!」

 「『最初はベッドで』って決めてるから安心してくれ!」

 「......。」


 駄目だ。この目はマジだ。マジで、私で童貞卒業をしようとしている。


 「お、お兄さんは抵抗ないの?」

 「なにが?」

 「せ、せせせせ―――」

 「交尾のこと?」


 そこはセックスって言ってほしい。いや言わなくていいけどさ。交尾ってJCに向かって言っただけで有罪判決だよ。


 「そ、そう、それのこと」

 「全然!」

 「な、なんでかな?」

 「桃花ちゃん可愛いし、優しいし、何よりだからさ!」


 MAJI・DE・YBAI☆


 いや、お兄さんのこと嫌いじゃないんだよ? でも好きでもないんだ。そんな曖昧な気持ちで私の貞操は捧げられない。なんとか回避しなければ。


 「いやぁー驚いたよ」

 「?」

 「桃花ちゃんから誘ってくるなんて」

 「っ?!」


 待って待って待って!! 私がいつ誘ったって言うの?!


 「わ、私が誘ったって?」

 「ほら映画のときに俺の頬にキスしたじゃん。それに桃花ちゃんの指で間接キスしたし...」


 アレなのね?! あのちょっと悪戯したくて、ついついお兄さんにキスとかしちゃったアレだったんだね?! だってお兄さんの反応面白いんだもん! ごめんね!!


 「極めつけはさっきの『お兄さん食べていい?』ってやつだね」


 アレもなのね?! あのちょっと高そうなレストランに憧れて、ついお兄さんに頼んだアレもだったんだね?! だってお兄さんお金持ってそうだったんだもん! ほんっとごめんね!!


 “レストラン”って言わなかった私も悪いけどさ!


 「ちなみにやっぱなしって言うのは.....」

 「あはははは」

 「あ、あははは」


 駄目だー。なまじ私にも非があるから強く言えない。なんとか手は無いものか。


 というかお兄さんのことだから、普段の感じなら「まずはお付き合いから」的な初心うぶさでちょっとは抵抗あると思ったんだけど、私の勘違いだったみたい。


 「でも意外だなぁー。お兄さんってこういうことはを大切にする人だと思ってた」

 「たしかに。普段の俺ならじっくり彼女を攻略したいからね」

 「きっ.......」


 思わず「きっも!」と言いそうになってしまった。


 「?」

 「な、なのになんでいきなりスるのかな?」

 「一日デートなんだから、そんな“体験版”みたいなやつじゃなくて、“大人なデート”がいいと思ってね。最後はやっぱラブホだよな!」


 私の持ちだした提案一日デート券がここにきて仇となってしまった。


 それにお兄さんの目がもうケダモノのソレだ。


 そ、そうだ!「避妊とかしなくちゃ」とか言って、在りもしないゴムの所持疑惑でここは逃げよう。名案だ。


 「ひ、避妊とか、その辺は大丈夫なの?」

 「ふっ」


 お兄さんが私の一言に鼻で笑った。テーブルに置かれた彼の長財布を片手に取り、中身からを取り出した。


 そしてそれを万国旗のように両手で広げた。


 「安心しろ。こんなこともあろうかと財布にある」

 「すみません、全然安心できないんですが」


 「ラブホに備えてある得体の知れないコンドー〇なんかじゃない。日本製のヤツだ」

 「いや、日本製とか得体の知れないヤツとかそういう話じゃないです」


 マジか。お兄さん長財布に入れておく系の男子だったんだ。そういう感じするよね。無粋なこと聞きました。ごめんなさい。


 「大丈夫、クリップとかで穴開けてないから。確認していいよ?」

 「すみません、全然大丈夫じゃないんですが」


 「ラブホに備えてある薄さがわからないコン〇ームなんかじゃない。耐久性を重視した、0.03ミリのヤツだ」

 「いや、薄いとか分厚いとかそういう話じゃないです」


 マジか。お兄さん、ちゃんと避妊のこと考えてくれたんだね。そこは好感持てるかも。っじゃなくて。


 っていうかなんつう個数持ってきてるの? それ全部使い切る気? 10個は下らないよね?


 「買ってからずっと財布に入れておいたからな。可哀想に.....」


 可哀想なのは私だよ。ゴムに同情してどうするの。.....昼の時と立場真逆だね。


 「お、俺、経験無いから下手かもしれないけど頑張るから!」

 「......。」


 なんかもういたたまれなくなってきた。私だって経験ないよ。どうしよ、どうしよ。


 ん? 経験が無い?


 そうか、コレがあったか。


 「も、桃花ちゃんも初めてなんだよね? 優しくできるよう努力しま―――」

 「いや? 男性経験あるよ?」

 「っ?!」


 お兄さんが絶句する。その際、手に持っていた“万国旗ゴム”を床に落とした。私の発言にひどく驚いているみたい。


 ふふ、有効打だね。


 「い、以前、彼氏いないって.....」

 「いないけど、私、とかしてたし」

 「っ?!」


 時が止まったかのようにお兄さんの動きが静止した。


 「ごめんね? 私、ヤリまくりのヤリJCだから」


 いやぁーお兄さんが“処女厨”でよかったぁー。




 ――――――――――――――


 ども! おてんと です。


 いつになっても卒業できない和馬。おそらくこの先も.....。


 この小説はぐだぐだ系ラブコメ(?)です。許してください。


 それでは、ハブ ア ナイス デー!

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