第91話 生徒会長と書いて天敵と読む
「手、離してくれないかな?」
「あっすみませんッ!!」
俺、高橋 和馬は満員電車の中から、高校の生徒会長さんを引っ張り出した。すごい確率だよね。今なら宝くじ当てられそう。
生徒会長こと
「まぁ、ワタシもこの駅に降りたかったんだけど」
「そうですか...」
何より注目すべきは胸だ、胸。おっぱいがデカいのなんの。葵さんがスイカなら、おなじく会長さんもスイカだ。
その会長さんは俺が握ってしまった手を見つめた。
「はぁ......後でアルコール除菌しなきゃ」
酷くない? そこまで言う?
「で、要件はなに?」
「え」
「ワタシを電車から引っ張り出したんだから、なにかあるんだよね?」
「あ、人間違いです」
突然ですが、皆さんの思う生徒会長のイメージはなんでしょうか?
「人違い? ナンパじゃなくて?」
「な、ナンパなんかしませんよ!」
「へぇー」
四字熟語で例えるなら品行方正、公明正大、巨乳美女といったところだろうか。まさにその通り。この女、まさしく
「まぁ女性の手を許可なく触ったんだ。停学処分だよ。はは」
「はは」じゃねーよ。なんで女子の手を握っただけで停学処分するの? 罪重すぎない?
「あ、退学処分じゃないからって感謝しなくていいよ? そこらへんは
「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」
「君も知っての通り、うちの高校は不純異性交遊は厳禁だからね。もちろん手を握ったこともその域とみなすから」
「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」
そう。この生徒会長さん、まじで異性関係に厳しいアレの人なのだ。ちなみに学校自体はそこまで交際についてうるさくしていない。普通なのだ、普通。付き合っているカップルだっているしな。
だがこの生徒会長さんは独自の制裁方法で見かけたカップルに罰を与えようとする。実際、被害にあったカップルもいる。もちろん一介の生徒会長が、生徒を停学処分できるなどありえない。妄言である。
「口答えするの? じゃあ退学処分だね」
なおさら抵抗するに決まってんじゃねーか。
ではなぜこんなバカみたいな妄言を吐くのか。理由は簡単。
「今は夏休みで難しいけど、なに、新学期が始まったらすぐ処すから」
「あははは」
「処す」って現代であんま聞かないな。
会長さんは学業成績は完璧。ルックスはもちろんのこと、生徒、教員からの人望も厚い。おまけにこの人が生徒会長になってから、美化清掃など地域交流のイベントなんてものをたくさん増やすから学校周辺の住民にまで印象が良い。
「ということで、君の名前を聞いておこう」
「......。」
そんな人生勝ち組のような彼女はどうやら自身に生徒を停学処分できる権力があると思っているらしい。笑っちゃうよね。
「名前を聞こうか」
「......。」
でも正直、そんな大それた処分とまでいかなくても教員などにチクられたら目をつけられ兼ねない。それだけじゃない。全校朝会や校内放送で公開処刑などを容赦なく独断で行うので一部の生徒からは恐れられている。
控えめに言って頭がおかしいのだ。
「もう一度言う。君の名前は?」
「......言うわけないでしょう?」
構っていられるか。桃花ちゃんと待ち合わせしなきゃいけないんだよ。
「...そう」
「じゃ、自分は忙しいんで、これで失礼―――」
次の瞬間、会長さんは俺の片腕を掴み、そのまま近くの壁に押さえつけた。
「いだだだだだッ!!」
「これでも言わないのかい?」
「いや、あんた罪状語って同じことしてるよッ!」
「おや? 生徒会長に向かってその口の利き方はどうかと思うよ? 罪が増えたね?」
「理不尽すぎッ!」
痛い痛い痛い!! しょうもないことで暴力で振るうあんたの方が罪重いよ!
「ぐッ!」
「ほら、早く」
「うっ......や、山田ぁ」
「下も」
「ゆ、裕二ぃ......」
裕二、ごめん。
俺はそう言って会長さんによる拘束プレイから解放された。
「あ、ついでに学年も聞いておこう」
「...2年です」
裕二も俺も1年だが、時間稼ぎとして学年は偽った。....いや、時間稼ぎになるのかな、これ。
「同年代じゃないか。それなら敬語を欠いた罪はなくすよ。停学処分だけだ」
まだ十分罪が重い件。
もうヤダ、早くこの
「じゃ、ワタシはこれで。新学期楽しみにしているよ」
ドSか。俺は全然楽しみじゃないし、あんたに会いたくもない。桃花ちゃんに会いたい。
会長はその言葉を最後に改札口へと向かった。
「ふぅ。やっと解放された」
というかさ、あの人、同じ中学の出身なんだけど。名前とまではいかくても、なんで顔すら覚えていないの? 俺ってそんなに地味かな。
「今回の件はそれで助かったけど」
ちなみに西園寺さんは中学の頃も2年生、3年生と2年間生徒会長だった。入学した時はびっくりしたよ。まさか同じ中学出身の生徒会長が、高校でも生徒会長なんだからさ。
そんなに面白いのかね? 頭良いんだからもっと偏差値高い高校行けばいいのに。
それに地元なのに、会長さんがどこに住んでいるのかまったく分からなかった。同じ中学だから同じ田舎者ってくらいはわかるけど。
「まぁ俺も会長さんを責められる立場じゃないんだよな」
実は俺も同じ中学出身の葵さんのことを全く覚えていないからだ。年の差は2歳。つまり俺が中学1年のとき、葵さんは3年生だった。
どっかしら校内で会ってるはずなのに全然思い出せない。なんでだろ。あんな美人さん、普通ちょっとやそっとでは忘れないのに。今度、葵さんに聞いてみようかな。
「千沙は私立中学校だから会ったことないし」
以前聞いたとき、千沙は中高一貫校の私立中学校に通っていたって言ってたな。でも高校生になることを境に、農業高校へ進路変更した。なんでも「髪を染めたかった」らしい。馬鹿にしてんのかと思ってしまった兄である。
たしかに千沙の赤色のインナーカラーは似合ってると思うよ。なんでそうまでして染めたかったのかは知らんけど。
「今度聞いてみよ」
他にもまだ全然中村家のみんなのことを知らない。聞くことでいっぱいである。
俺は考え事しながら改札口に向かうため、ホームの階段を上がろうとした。
『ピロンッ』
「ん?」
ズボンのポケットに入れておいた携帯が鳴った。画面を見ると桃花ちゃんからメールがきていた。やべ、JCを放置したままだった。
[お兄さん、ここどこ?]
「知らんがな」
メールでそんなこと言われても知らんわ。まぁ置いてった俺が悪いんだけどさ。
『ピロンッ』
[私は、どこ?]
「だから駅名を言えって」
俺はそうメールに打ち込んで桃花ちゃんに送った。
『ピロンッ!』
「ん? これどこの写真だ?」
今度はメッセージではなく、1枚の写真が送られてきた。写真には最近、見覚えのある壁が映っていた。
いや、コレ、最近というより...。
『ピロンッ』
「......。」
また送られてきた写真を見ると、それは先ほど壁のところで俺が会長に拘束されていた写真だった。
「......。」
俺は振り返った。案の定、メールの送り主はそこにいた。
「やっほー! お兄さん、腕、大丈夫ぅー?」
「......。」
電車から降りてたんなら助けろよ。
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