第90話 ご褒美と邪魔のマーブル
ども! おてんと です。今回は時系列的に和馬の休日三日目となります。
前回公開した閑話より半日くらい前の話です。章の関係で順番を逆にしました、許して下さい。
――――――――――――――
「げ、桃花ちゃん」
「『げ』ってなに『げ』って」
出かけようと思い、玄関を開けたら隣人さんのとこのお孫さんと出会った。タイミング悪っ。
天気は雨。今日でバイト野郎の休日は最後となる。明日からまたバイト三昧の生活だ。でも葵さんや陽菜、千沙との美少女姉妹と一緒のラブラブ生活とも言えるので苦ではない。
「お兄さん、雨の中、どこかお出かけするの?」
「あ、ああ、大都会にな」
「昨日陽菜と行ったのに? なんで?」
陽菜。.....陽菜かぁ。未だ、昨日のエッチハプニングが信じられない。俺、人生初のファーストキスなんだけど、彼氏持ち(?)に奪われちゃったんだよな。いや、陽菜は彼氏と別れたんだっけ。
雨の中、大都会に行こうとしている俺に疑問を抱く桃花ちゃん。この様子じゃあ陽菜から何も聞いてなさそうだな。
「コインロッカーに忘れ物してね。今から取り行くとこ」
「へぇー」
「桃花ちゃんは? 見たとこ雨の中なのに傘も持たずにどうしたの?」
「え、お兄さんちに行こうと思って」
わーお。初めてこの子の爆弾発言防げたよ。絶対この子、俺が今ドア開けてなかったらあられもないことを叫んでたよ。未然に防げてよかったよかった。
あ、そうだ。桃花ちゃんの爆弾発言だから略して“桃花爆弾”と名付けよう。なお、被害者は俺だけである。
「はぁ......残念」
「はは。また今度遊ぼうね、桃花ちゃん」
二度と遊ばねーよ。帰れ、帰れ。
「何言ってるの?」
「え」
「残念なのはせっかく温めておいたネタをお兄さんの家の前で叫べないことだよ」
ああ、“桃花爆弾”のことね。人を傷つける言葉を“温めておいたネタ”って言うのやめてくんないかな。マジで犯すよ?
「それは残念だったな。じゃ、俺行くから」
「あ、じゃあ私も行くよ」
「家で大人しくしてろ」
なんでついて行こうとするの? そんなホイホイ行くような交通費じゃないよ。少なくとも往復で3000円は下らないはずだ。普通、付き添いでそこまでする?
「家に居ても暇だし」
「受験勉強でもしてなさい」
「親みたいに嫌なこと言うねー」
「そりゃあ嫌がること言ってんだもん。たりめーだろ」
「「......。」」
しばし睨み合う俺と桃花ちゃん。
「はっ、付き合ってられるか。じゃーな」
ただでさえ、本来ならば
......なんだ、電話越し疑似セックスって。
「そう。私たちを置いていくんだね...」
「おう......え?」
「お兄さんの馬鹿ッ! 私を孕ませといて、抱くの飽きたからお腹にいる子も置―――フグッ!」
「馬鹿野郎ッ!! さっさと行くぞ!!」
結局、爆弾落とすんじゃねーか。
「いやぁ楽しみだなぁ」
「そだね」
「お兄さんと大都会行くとは思っていなかったよ!」
「そだね」
「雨でもやっぱり暑いねー」
「そだね」
現在、俺らは大都会に向かっている電車に乗っている。時間帯的に通勤ラッシュを避けたから人込みは落ち着いている。えーっと、あと6駅くらいで乗り換えだな。はぁ.....これだから田舎は都会から遠くて移動が面倒なんだ。
「なんか返事がテキトー」
「そだね」
「あ、そういえば陽菜とのデートはどうだったの?」
「そだね」
「お兄さんは童貞ぇー」
「......。」
「うっわ、つまらな」
童貞で遊ぶんじゃないよ。
「はぁ....よくもまぁ往復で3000円以上するのについてくるな」
「以前、おつかいの時、お兄さんに奢ってもらったから実質交通費2000円くらいだよ」
この子は人の神経を逆撫でしないと呼吸ができないのかな。
俺は奢ったんじゃなくて、お前が返してくれないだけだからね? 口にするのも大人げないので黙っていただけだからね?
「でもまぁ......」
「?」
「身体で返す約束だし? 今日は付き合ってあげるー」
なんと?! いつの間にか、一日無料彼女デート券を童貞野郎がゲットしていたらしい。やったね。でも悲しきかな。素直に喜べない。
なぜかというと、陽菜と昨日
「なんかスパンが短ぇな」
「え?! お兄さん嫌なのッ?!」
「いや凄く嬉しいよ? 桃花ちゃんおっぱい大きくて可愛いし」
「お兄さん、飴と鞭を同時に施すタイプだー」
「今日限りは俺の彼女なんでしょ? 受け入れて?」
とりあえず、軽めのセクハラをお見舞いしておく。ざまぁ。日頃の恨みをセクハラというかたちで仕返しする男、控えめに言ってクズである。
「あ、そろそろ乗り換えだ」
「......お兄さん、ここ、出れるのかな」
「さ、さぁ?」
俺たちは結構前から乗車していたので席に座っていた。人いなくて空いていたしな。でも今は違う。都会に近づくにつれて電車の中の人混みがすごくなっている。
「あ、やべ。桃花ちゃん、降りるよ」
「あ、ちょっ?!」
まぁなに「通してくださーい」とか言って半ば強引に突き抜ければ出れんだろ。俺はそう思って人混みの中をかき分けて出ようとする。
「桃花? 早くしないと出れないぞー」
桃花が俺の後ろでもぞもぞして人混みに埋もれている。お、おい。何してんの?
そのときひょこっと桃花が埋もれた位置に右手だけが出てきた。なるほど、手を掴んで引っ張れってことですね。
「ったく。これだから田舎もんはぁ」
自分で言っといてなんだけど、俺に特大のブーメランが刺さった。グサッと。
そして碌に確認もせず、その手を握り半ば強引に引っ張り電車を降りる。
「はぁ......次からはちゃんとドア付近か、何駅か前に準備しなきゃダメだな。ごめんな桃花ちゃん―――」
俺は後ろにいる桃花ちゃんに謝りながら、今も手を握っている方向を振り向いた。
「いや、ワタシは美咲だけど?」
「っ?!」
「人違いじゃないかな?」
なんと、振り返ったら桃花ちゃんではなく、違う女性だった。誰だ、この人?
......いや、知ってる。俺はこの人を知ってるぞ!!
だってこの人―――
「せ、生徒会長さん?」
「あれ? 君、ワタシを知っているの? うちの生徒かな?」
......
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます