第81話 勃起クリー〇 は手に塗るな
「そうです。では兄さん......塗ってくださいっ!」
「え」
「「「っ?!」」」
あちらにいる女性3人は驚愕の表情だ。
しばし待たれよ。俺も状況がつかめない。
「ち、千沙、これはハンドクリームだよね」
「だからそうですって。では...」
「待て待て待て待て。なんで俺が塗るんだよ?!」
「え」
「え」じゃないよ?! なに意外そうな顔してんだよ。自分で塗れよ。兄にやらせるなよ。
「ハンドクリーム塗るくらい自分でできるよな?」
「そ、そうよ千沙姉! 何言ってるの?!」
「ち、千沙、まずは落ち着いて、開けた蓋を閉めて?」
陽菜と葵さんから援護射撃がきた。あちらも納得できない模様。
「と言われましても...」
千沙の悪い癖だぞ。そういう説明しなければいけない段階を1、2、はい100ーって飛ばしちゃうような面倒くさがるところ。
真由美さんも看過できないらしいので千沙に問う。
「まずは千沙、ほら面倒くさがらないで説明してぇ?」
「は、はぁ」
「泣き虫さんも困ってるわよぉ?」
「え?! 兄さん困ってるんですか?!」
この状況見ててわかんない? どう見ても俺抵抗してるよね?
勃起クリームを俺の息子に塗るんじゃなくて、お前の手に塗るならまだしも、なんでハンドクリームを他人に塗らせたがるの? あー駄目だ。今、内心セクハラしたら頭追いつかない。控えよう。
千沙は下を向いて、何が間違ってるのかわかっていないかのように俺たちに訴える。
「そ、そんな頭ごなしに責めないでください」
千沙の顔が暗い表情になる。え、泣きそうなんですけど。なんかいたたまれないんですけど。
「わ、わかったわかった。今回は俺が塗るから次回から一人でやるんだぞ?」
「やったぁ!...です」
「ちょっ! 高橋君まで何言ってるの?!」
「ず、ずるっ――じゃなくて! 和馬、あんた千沙姉を甘やかしすぎよっ!!」
なっ?! この俺が千沙を甘やかしてるだと...。たしかに最近こいつがちょっとでも落ち込むと、俺はすぐご機嫌取りをしてしまいがちになっている気がする。
「千沙、もう一度言うけど、俺が塗る理由はなんだ?」
「兄さんが言ったんじゃないですか...」
「「「え」」」
葵さんと陽菜、真由美さんが息ぴったりに驚く。ウケるんですけどーっじゃなくて。俺、別に塗りたいなんて言ってませんよ。
「以前、兄さんが私の手を『とっても良い手だ。でもこんなの痛い思いしかしないんだから治さないか?』って言いましたよね?」
「あーたしかにそんなこと言ったね」
以前俺が千沙にトラクターの修理を手伝いたいって言ったときにそんなこと言ったんだっけ。痛そうな手だから、それで辛い思いをするならなにか塗り薬とか塗ろうみたいな。
「で、いつまで経ってもハンドクリームとか塗り薬を買ってきませんし」
「うん、それは悪かった。俺が言っといて物を用意しなかった俺が悪い。ごめんな」
「いえ、お気になさらずに。それでそう言った兄さんには塗ってもらおうかと」
「うん、ごめん、まったくわかんないや」
「え、なんでですか?」
いや、千沙が手の肌荒れを治そうとしてくれるのは俺の発言が理由なら嬉しい。でも、それは手に塗る必要がある理由であって、俺が塗らなきゃいけない理由じゃないぞ。
「...兄さん、発言には責任が伴いますよ?」
「いやまぁ、そうなんだけどさ」
でもさ、ハンドクリームじゃん。蓋開けて、クリームを適量とって両手に満遍なく塗るだけじゃん。俺いらないよね?
「.......なんですか、嫌なんですか? やっぱり兄さんも
「そ、そういうわけじゃないぞ! むしろ美少女の手に触れる機会があるなんて願ったり叶ったりだ!」
「ちょっとあんたなに口走ってんのよ?!」
「高橋君、今はセクハラを抑えて! じゃないと話進まないから」
そ、そうだった。抑えよう。セクハラ、絶対。......なんかのキャッチコピーみたい。
ここはあれだな。葵さんや陽菜、真由美さんの好感度か、千沙の好感度のどちらを下げるかだよな。千沙の手をこのまま塗ったら3人に引かれるかもしれない。逆に塗らなければ、千沙に嫌われてしまう。雇い主が風呂でよかったぁ。
「ま、まぁハンドクリーム塗るくらい、いいんじゃないかしらぁ?」
「母さん?!」
「ママも何言ってるの?!」
「......千沙も隅に置けないわねぇ。そう、陽菜だけじゃないのね。ということで泣き虫さん、お願い」
なんか真由美さんが千沙を援護してるし。そう言い残して真由美さんは先ほどいただいた杏仁豆腐に使った食器を洗いにキッチンへ行く。事実上のご退場だ。逃げないでくださいよぉ。
千沙もそれでいいのか?本当にこんな変態が手を触って。通報しないよね?
「塗ってくれないと....兄さんのこと嫌いになるかもしれません」
「え」
「嫌いになるかもしれません」
「ちょっ、それは言い過ぎじゃない?」
「かもしれません....」
「...。」
.......俺は塗ることを決意した。
「よ、よーし、塗るぞぉ!千沙、準備はいいな?」
「いいですよ。こ、興奮しないでくださいね。したら通報しますから」
するんじゃん。無理だよ。今月から兄になりたてのホヤホヤ変態に興奮するなとか無理ゲーにも程があるんだけど。正直、兄の前に男の子だから。
「ほ、本当に塗るの? 高橋君......」
「ドン引きよ.......」
外野は黙ってろ!! 俺だって好きでやってるんだからな! じゃなくて好きでやってるわけじゃないんだからな!
俺は見るからに輸入もんの高そうなハンドクリームを適量とり、千沙の手の甲にのせる。
「んっ!」
「声抑えろよ! ハンドクリームだぞ!」
息子煽ってんじゃねーよ。やらしい声を出しやがって。これじゃ、間接的に息子が元気になっちゃうよ。間接勃起クリームだよ。
「最初は兄さんの手で軽く広げたりして温めてから塗ってくださいっ!」
「ハンドクリームはサンオイルかなんかかよ!」
今更そんな事言われても...。まぁいい、塗りながら擦る感じで広げれば刺激も少ないでしょ。
「「「「.......。」」」」
何この無言の空間。俺は塗るのに集中してても陽菜と葵さんは別に見てなくていいよね? テレビ見ててよ。なんか小っ恥ずかしいんですけど。
「よし。こ、これでおしまいね」
「え、もうですか?」
「いや、もう全体塗れたでしょ」
「あ、そ、そうですね」
今日の千沙は何だったんだ。朝に処女宣言するわ、夜にハンドクリーム塗らされるわ、普段にまして積極的なスキンシップだったよ。
うん、もう知ってる。実は俺のこと好きなんでしょ。口ではああ言ってるがお兄ちゃんを異性としか見れないんでしょ。もともと兄妹なんて無理な話だったんだ。カップルでいこ?
でも悲しきかな。正直、惚れられるようなところがバイト野郎に見当たらない。性格、眼鏡、ルックス、セックスどれを見ても魅力を感じない。最後のは余計だが。
「ていうか、そもそも
「あ、あっちでは兄さんが欲情して襲ってくるかもしれませんし」
「お、おお襲わねーよ!!」
もうすでに限界だよ。そう言われるとたしかに2人っきりは理性が危ないかもしれない。葵さんたちがいたおかげだろう。
「そ、それでは、私は
「お、おう」
「あ、兄さんも後でゲームに付き合ってもらいますから寝ないでくださいね?」
「....今日はもう寝たいんだけど」
「.......。」
「い、1時間だけだぞ?」
「....それで譲歩してあげましょう」
こいつ、譲歩の意味知ってんのかな。思いやりを感じないんだけど。千沙はその言葉を最後に南の家を出ていった。
「和馬、千沙姉を甘やかしすぎ......」
「これじゃあダダ甘だよ。ダダ甘」
陽菜と葵さんから非難を浴びる。知らんがな。だってあいつ言うこと聞かないと結局脅してくるじゃん。
「ふぅ。やっぱ風呂は最高だね。......ってどうしたの?」
雇い主が風呂から帰ってきた。俺らがいる空間の静けさが気になったんだろう。良かった、アレを見られなくて。千沙のせいで危うくバイト野郎が“耕される”ところだった。俺は雇い主に返答する。
「いえ特に何も。では、自分は
「うん、おやすみ?」
「たまには千沙に厳しくね、高橋君」
「......千沙姉に手出したらタダじゃおかないから」
俺は南の家を後にする。なんで俺は被害者なのに責められるのだろう。おかしくないだろうか。そりゃあ原因は俺にあったにしろ、まさか千沙があんな行動にでるとは思わなんだ。
南の家に着いたらさっそく千沙の部屋に行く。なに1時間の辛抱だ。俺はスマホのロック画面を見る。時間は21時32分。うん、23時までには部屋に戻れる。
『ガラガラガラッ』
「あ、兄さん。意外と早かったですね。やる気を感じます」
このあと俺は深く後悔する。気づいたときには遅かった。千沙の
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