第77話 童貞バレの朝は食欲が皆無
「高橋、お邪魔しまーす」
昨晩の“バイト野郎は童貞”という空しき騒動から一夜明けた。おかげで昨日は全然寝れなくて、息子に八つ当たりしてたな。自家発電という形で。
俺は朝食をいただきに南の家に来た。リビングに行くとすでに千沙以外のみんなが朝食を摂っていた。
「おはようございます」
「いらっしゃい、泣き虫さん」
「お、おはよう、高橋君」
「か、和馬、おはよう! い、いい天気ね!」
「高橋君は俺の隣ね、かもん」
さすがにバイトで来ている子が、昨晩“童貞発言”したからか、姉妹たちのこの引きよう。そんなに童貞拗らせた奴は嫌かな? まだ高校1年生だよ? これが20代とか30代までいって維持しているなら引くのもわかるけどさ。
「ありがとうございます」
「?」
俺はいつもと変わりない対応をする雇い主に感謝した。この日常のありがたみ。雇い主、あんたに一生ついていきます。
と、そこへ顔でも洗ってきたのか桃花ちゃんが肩にタオル乗せたまま食卓に来た。そうだよね、君もいるよね。すべての現況の君がいなければ、バイト野郎は朝からこんな目に合わずに済んだのにね。
「あ、童て―――お兄さん、おはよ」
「.....。」
ねぇ、今、“童貞”って言いかけなかった? わざとかな。わざとだろうな。
僕、今日お休みもらっていいかな。そしたら今から
「も、桃花ちゃん、それは良くないよ。謝りなさい」
なんと、葵さんから援護射撃がきた。でも、いいんです。一番の治療法はそっとしておく自然治癒ですから。
「そ、そうよ、誰だって初めてはあるものなんだから、馬鹿にしちゃダメ」
お前が一番深く傷をえぐっているよ。彼氏とヤっている経験あるやつに言われるとどっとくるこの悲しさ。もうご飯はいいんで、東の家に戻っちゃダメかな。
「え、えーっと、ごめんなさい童―――お兄さん」
反省しろよ! 生オ〇ホにすっぞ、ごらぁぁぁああ!!
「ほらほら、朝食よ、下品なことは後にしなさい」
真由美さん、“後”でも嫌です。
「えーっと、今日は明日の直売店に売る野菜を収穫する日だから、高橋君も手伝ってね」
「はい」
そういやぁ今日は明日の準備をしなければいけないんだっけか。なにやるにしてもやる気が出んよ。ザ〇汁も出んよ。
「あ、じゃあ俺とスイカの収穫を手伝ってもらおうかな」
「スイカですか?」
「そそ。最近、かなり暑いせいか、たくさんなっていてね。以前、葵と一緒に苗を植えなかったっけ?」
「そういえばそうでしたね」
なんと、葵さんとバイト野郎の愛の結晶を収穫するんですか?! できれば葵さんと採りたかったですけど。でも、やる気が出てきましたよ!
たしか植えたのが5月の下旬だっけか。3か月せずに採れんのね夏の野菜や果物は成長が早くていいね。
「ごちそうさまでした」
俺は雇い主とスイカの収穫に行くため、早々に朝食を終わらせ、着替えるために東の家に戻る。
「仕事、仕事ーっと。あ」
「ふぁあ.....あ」
玄関でサンダルを脱いで振り返ったら、パジャマ姿の千沙があくびをしながら階段から降りてきた。ばったり鉢合わせである。
こいつ最近、
「お、おはよ、千沙」
「おはようございます、兄さん。今日もお仕事頑張ってくださいね」
千沙も童貞バイト野郎を引くのだろうか。今のとこ普通だけど。
「きょ、今日は早いな」
「...最近、どっかの兄さんが夜にゲームを付き合ってくれないので」
たしかに昨日はまだしも、一昨日のお姫様抱っこの件のときも疲れてすぐ寝たしな。早寝早起きは健康のもとだよ? よかったじゃん。
「あはは、悪いな。んじゃ、今晩やるか。これから仕事だからまたあとでな」
「...ええ」
俺はその場を逃れるようにして自室に戻ろうとする。だが、千沙は過ぎ去ろうとするそんな俺のシャツを後ろから、片手でちょこっと引っ張った。
「え、なに?」
「に、兄さんに一つ言っておきます」
「あ、はい、なんでしょう」
千沙が顔を赤くし、下を向いて、少し大きめの声で告白する。
「わ、私も男性経験ないので!」
「え」
「兄さんだけが未経験じゃありません! お、落ち込まないでください!!」
「あ、ありがと?」
な、なに言ってんの。どうしたのかな。
千沙は慌ててサンダルを履き、東の家を出て行った。
そうか、千沙は処女なのか。処女ね.....。
「俺ら、兄妹じゃなくてカップルにならない?」
誰もいないのに、可愛い妹に向けてつぶやく俺。面と向かって言える勇気がないから言えた言葉なのかもしれない。
「ま、俺たちまだ高校1年生だ。これから頑張ろうぜ」
誰も居ないからって独り言をし、妹の処女にガッツポーズをするバイト野郎、控えめに言ってクズである。.....が、悪い気はしない。
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