第75話 久しぶりの桃花と書いて嵐到来と読む


 「お兄さん、手伝って!!」

 「和馬、私を助けなさいっ!!」


 夕飯をいただこうと南の家に来たら、玄関に入ってすぐ桃花ちゃんと、陽菜が取っ組み合いをしていた。


 あんたら何してんの?


 「...俺、夕飯いただくから。じゃ」

 「ちょっと! お兄さんそれはないよっ!」

 「和馬、桃花を私から離してっ!!」


 嫌です。絶対お前らに関わると夕飯遅れるじゃん。


 「私が陽菜を抑えているから、両手にやつ引っ張り出して!」

 「俺を巻き込むな...」

 「和馬! いいからとりあえず桃花をどうにかして!」

 「だから俺を巻き込むな...」


 人の話を聞かないタイプが二人もいると収拾がつかないよ。


 「ほらJCを触れるいい機会だと思って!」

 「触ったら即通報だから! 嫌がるJCを無理やり縛ってきたって言うから!」

 「...。」


 前に似たような、いや、まったく同じ状況があったな。部活サボり野郎のチマメ騒動だっけか。


 「むしろ和馬が桃花を捕まえてて!」

 「なっ! お兄さん、そんなことしたら嫌がるJCの身体をまさぐって、開発したって通報するから!」


 うん、結局どっち味方してもバイト野郎は通報なんでしょ。桃花ちゃんに至っては完全に俺、性犯罪者として通報されるから余計罪が重いんですけど。


 なに“開発”って。そんな短時間でできるの? むしろご教授ください。息子貸すからさ。無料オプションだし。


 「ちょっ! その脅し方はズルいわよ! じゃ、じゃあ私、罪にわ、わわ脇を舐められたって付け加えるから!」


 脅し方にズルいもくそもねーよ。


 勝手に罪を増やすな。冤罪にもほどがあんだろ。まじで捕まったら、釈放された日には舐めまわすからな。もちろん脇以外も追加オプションで。


 「お兄さん手伝ってくれるなら...えーっと、いつものお兄さんの家の前でやるアレやめるっ!!」


 ご褒美をくれるならちょっとは考えるけど、結局脅すのね。思ったんだけど、俺が住み込みバイトでこちらに住んでいるとき、桃花ちゃんは俺の家の前でアレをやってんのかな。すごい気になるんだけど。


 「わ、私は......えーっと、また唐揚げ作ってあげるっ!!」


 そうそう、陽菜みたいにこれくらいのご褒美をね。


 「それなら私が毎晩ご飯を用意してあげるよ! おばあちゃんが、だけど」


 お前は自分から何かをしようとしないのか。


 「はぁ.....桃花ちゃん、もう諦めろ」

 「えぇー」

 「やった!」


 俺は陽菜を抑えている桃花の両脇に両腕を通し、持ち上げて陽菜から引き離す。


 「だいたいな、陽菜が隠してるってことは見せたくないものがあるってことだ。親しき仲にも礼儀あり、だぞ」

 「でも!」

 「“でも”じゃない。無理やり暴こうとしないの」

 「...はぁい」


 俺の一個下とは思えないくらい子供だよね、桃花ちゃん。おっぱいは絶対、中学生女子平均バストを大幅に上回っているのに。


 「和馬もたまには役に立つわね! じゃっ!!」


 そう言って陽菜は両手に何か持ったまま二階に駆け上がり、自室に向かった。


 「「...。」」

 「お兄さん、ちょっと後悔したでしょ?」

 「......別に」


 俺と桃花ちゃんはリビングに向かった。


 「いらっしゃい。廊下で騒がしかったけど、どうかしたのかしらぁ?」

 「桃花ちゃんは陽菜の席の隣でいいよね」

 「高橋君、かもん」

 「なに言ってるんですかお父さん。兄さんは私の隣ですよ。そっちに男二人は狭いじゃないですか」


 真由美さんと葵さん、雇い主に千沙がすでに食卓にいた。少し遅れてしまったな。やっと夕飯にありつける。


 今日は桃花ちゃんもいるからか、いつものでかく感じるテーブルも少し手狭に感じる。俺はいつも雇い主の隣なんだが、今日はすでに雇い主の隣は葵さんが座っていたため、これに俺が入っては邪魔なので千沙の隣になる。...いや千沙のところの方が狭い気がする。ま、いいか。


 「「いただきます」」


 俺と桃花ちゃんは少し遅れて夕飯をいただく。なに、そのうち陽菜もくるだろ。


 「で、お兄さん、なんで千沙さんのお兄ちゃんになったの?」

 「あー。話すと長くなるけど、夏休み入ってすぐいろいろあってな」

 「桃花さん、あげませんよ?」


 兄を物みたいに扱うんじゃないよ。


 「いりませんよ、そんなの」


 お前も隣人さんを物みたいに扱うんじゃないよ。


 桃花はもう少し“即答”が、ときに人を傷つけることを学んだ方がいい。


 「ほう...“そんなの”呼ばわりですか」


 千沙が目を細めて、桃花ちゃんを捉える。あ、もしかして怒ってる? 兄をかばうなんて良い妹だね。見直したよ。関心、関し―――


 「謝ってください、


 ん? 普通そこは俺じゃない?


 「こんなド変態を兄と呼ばなければならない私に謝ってください。“そんなの”以下ですよコレ」


 え、えぇー。怒るとこそこ? なに、“そんなの”以下って、どんなの?


 「あ、はい。ごめんなさい」


 千沙に気圧され、謝る桃花ちゃん。両者ともに反省の色はない模様。ただただ俺が被害者なだけ。


なら千沙、兄と思わくていいんだぞ。強要してないんだからな。


 「いいですか、昼間なんて電話で何言われたと思います? 尻をもみし―――」

 「ああああああ!!」


 おまっ! 食卓だぞ! 雇い主の前だぞ! 兄が死ぬぞ!


 ってゆーか、そこだけ切り取って言うんじゃないよ。


 「なにシリヲモミシって」

 「泣き虫さん、それは関心しないわぁ」


 雇い主は安定の馬鹿さで助かった。真由美さんにはバイト野郎の電話セクハラがバレたか。と、騒がしくなった食卓に、


 「遅くなったわね! お腹空いたわ」


 良いタイミングで陽菜が食卓に来た。話題を変える良いタイミングだよ。


 「はぁ...まぁ今日のところは私にも非はありましたし、不問にします」

 「あ、ありがと。次から気を付けるよ」


 千沙はもうこれ以上言うつもりないらしい。助かったぁ。


 「なんの話してたのよ?」

 「お兄さんのいつものセクハ―――」

 「ゴッホンッ! 桃花ちゃん、久しぶりに会えたんだ。どう? 元気にやってる?」

 「?」

 「...そうだねー」


 桃花ちゃんにもバレてましたか。葵さんは空気を読んで黙ってるから助かるけど、雇い主以外、これで全員知っちゃったよ。


 「も、桃花ちゃんは夏休みどうしてるの?」


 葵さんが話題を変えてくれた。ありがとうございます。マジ女神。結婚してください。子供は10人ほしいです。


 「部活しか特にしてませんね」

 「陽菜と違って桃花ちゃんは頭いいから受験勉強とか焦ってないのかしらぁ」

 「うっ」


 勉学に関しては余裕な桃花ちゃん。そんな頭いい子と娘を比べる真由美さん。やっぱ受験とか気にしますよね。


 「はは、でも陽菜は勉強すれば頭良いですよ。期末テストの科目、数学以外全部私の負けです」

 「たまたまよぉ」

 「...実力かなぁ」


 小声で抗議する陽菜。いつになく元気ないじゃないか。


 数学以外の科目良かったのね。桃花ちゃん以上ってことは80点以上かな。それは安心した。勉強して結果が伴うなら受験勉強そんなに焦る必要もないでしょ。どこの高校を志望するかによるけど。


 「.......。」


 急に俺をじっと見つめる桃花ちゃん。なに、俺なんかした?


 「...そう言えば夏休み入ってすぐ、こんなことがありました」

 「「「「「「?」」」」」」


 なんだ改まって。良いニュース?悪いニュース?


 「お兄さん聞きたい?」

 「え、俺?そりゃあ、まぁ、聞きたいかな」

 「やったね、本人公認だよ」


 え、ちょっ、なんか怖いんですけど。教えてないことを公認と受け取らないで欲しい。


 「お兄さんが私をママにしたんですよぉー」


 「「「っ!?」」」

 「ブフォッ!!」

 「汚っ!高橋君、なんで俺にかけるの?!」

 「...あらあら修羅場ねぇ」


 俺は斜め前にいる雇い主に向かって、口に含んだお茶を盛大に吹きかけた。


 なるほど、そうきたか。そう言えば夏休みに入ってすぐ、桃花ちゃんを一瞬ママにしたな。


 するとあれだね。これはおかえりと言えばいいのかな。桃花ちゃん《ママさん》。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る