第50話 世界は意外と狭い
「あ、ああ貴方は....」
「お、おお前は....」
「「
俺たちはトイレの前で再開した。
「なっ、なんで貴方がこの家にいるんですか?!」
「それは俺のセリフだ!」
「なんで貴方がトイレにいるんですか?!」
「それも俺のセリフだ!」
「なんで貴方は上半身裸なんですか?!」
「それも俺のセリ―――じゃなかった!」
「ふふん、引っかかりましたね! じゃなくて!!」
「「一体どういうこと(なんですか)?!」」
俺らはお互い、興奮状態に陥ったため、冷静になる必要があった。
「はぁ....はぁ......よし、まず少しお互い落ち着こう」
「はぁ....はぁ......賛成です」
「聞きたいことが多いかもしれないが、自己紹介からだ」
「そうですね」
よし、落ち着いてきたぞ。
「俺は高橋 和馬だ」
「私は中村 千沙です」
こいつが千沙さんか。いや、千沙か。“さん付け”はやめよう。いやぁまさか大都会でナンパされてた子が千沙か。こんな偶然普通ある?
俺は尿意なんかどっかにいき、とりあえず話し合うことを優先する。
話し合うために来たのは近くの俺が借りている部屋だ。お互い向かい合うようにして、ちゃぶ台を挟んで、座布団に座る。
もちろん、彼女がそわそわするので例の“社畜”Tシャツを着なおした。
「......キリがないかもしれませんが、混乱を避けるためお互い質問は1つずつ、交互にしましょう」
「賢明だ」
「では貴方からどうぞ」
こいつ、さっきお尻揉まれたのに冷静だな。
「まずあの後、無事に
“あの後”って、もちろんチャラ男共にナンパされた時のことだ。実はそれなりに心配だった。警察を頼らずにその場を去ったから、また何かあっても助けられない状況だった。こいつのせいで捕まったしな。
「.............。」
「おい」
質問はお互い交互にとか言って、急に黙り込むとか喧嘩売ってんのかな。
「...いえ、すみません。ご心配をおかけしました。その節は本当に助かりました。ありがとうございます」
「お、おう。無事ならいいんだ、無事ならな」
急にどうした、真剣な顔になって。ま、本当に無事でよかったわぁ。
「では次は私ですね」
「ああ」
「...なぜ、怒らないのですか?」
「は?」
「ですから、そのとき貴方を見捨てた私を怒らないのですか?」
「もう過ぎたことだしいいよ、別に...」
「...そうですか」
なに、ちょっとでも後ろめたい気持ちがあるならお詫びして? ほら千沙、お前めちゃくちゃ可愛いじゃん。身体使ってご奉仕してよ。
「俺な。なんでここにいるの? 他の皆は
「ああ、別にあちらにも部屋はあります。単純にこちらの方が部屋が広く、うるさくしても皆さんに迷惑かからないというメリットがありますね」
なるほどね、そう考えると1人だけしかいない家って最高だよな。俺も家で自家発電してると「んっ.......ふぅ」ってつい言っちゃうけど、アレ意外と声大きいんだよね。
「なるほど、でも聞いていなかったな。千沙がここにいるなんて」
「私もですよ。まぁ確かに“住み込み”なら、普通に考えて
本当に大切なことなんだからちゃんと言って欲しいものだ。あ、待って、じゃあ千沙とひとつ屋根の下なの俺。ご褒美か。
「これからは、貴方が
「...さいですか」
そうだよね、尻を鷲掴みした奴と同じ家に寝たくはないよね。くそう。
俺らはこうして時間を忘れてお互い気のすむまで質問していった。
「俺のターン! なんであんとき、
「なっ?! それは間違えて...」
「おいおい、嘘はよくないぞ」
「ちょ、ちょっと気になりまして」
「何がだぁ?」
「そ、それは...って、今また質問をしましたね! 1つまでです! 終わりです!」
「ちっ」
「私のターンです! 貴方こそなんであそこに入ってたんですか?!」
「男の子だから? 性処理のためだよ」
「え、あ、ひゃい...すみません」
「なんで謝んの? なんで顔赤いの?」
「あっ、また質問しましたね! しかも2回も。私のターンです!」
「ちょっ?! これは違うだろ! せこいぞ! っていうか、質問ととるなら、答えろよ!」
「そ、それは恥ずかしかったからです」
「なんでお前が恥ずかしがんだよ!」
「貴方がえ、ええええエッチなこと平気で言うからですよ!!」
最近いろいろと吹っ切れたからか、俺は開き直って正直に生きている気がする。原因はDVDバレからの破壊神こと陽菜が7割、2割が高橋家の血筋。残りは葵さんの天然発言と仕草のせい。
だからもう恥ずかしいという感覚が麻痺ってたのかもしれない。めんご。お詫びに息子でも拝む?
「わ、私のターンですね。なぜ先ほどトイレでは裸なのですか?」
「あぁ、寝るときは基本パンツ一丁だからな」
「なっ?! 人の家ですよ!」
「だから譲歩して短パンにしてんだよ!」
「もっと服着て譲歩してください!」
くっ。いきなりそんなこと言われても無理だっつうの。日本語はやめて、いきなりアラビア語で話してくださいと言ってるようなもんだぞ。
「はぁ、もういいです。疲れました」
「あっ、もう日付変わってんじゃん! 明日も朝からバイトなのに」
家から持ってきた目覚まし時計の時間を見たら0時をとっくに過ぎていた。
「........すごいですね、貴方はなんでもできて」
「?」
なんでもって言うほどできないし、さっきまでの会話でそんな内容は話してなかったはずだ。何でそう判断したのかわからないな。
「今日のところは上で寝ます。私はここで失礼しますね」
「おう、おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言って千沙はこの部屋を出ようと引き戸を引いて廊下に出る。あ、まだ聞きたいことあった。
「最後にひとつ。いいか?」
「ええ。なんですか?」
「
『ピシャッ!!』
「ですよねー」
普通に考えて答えてくれないだろうけど、なに
なお、このあと自家発電禁止は1日ももたず、むしろ捗った模様。原因は言わずもがな。
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