閑話 千沙の視点 もっと頼ってよ・・・
当時、10歳の小学生だった私は、熱中症の件で何事にも頼ってくれなくなった両親に、どうしたら役に立てるか考えていたときがありました。そんなある日、
「うーん、困ったなぁ。まだ買ってからそんな経たないのに、すぐ調子が悪くなるなんて。.....仕方ない、他の仕事を先に片付けるか」
お父さんは機械の調子が悪くて困っていました。
私はその場にあった取扱説明書や、当時から使えていた自宅のパソコンを駆使し、なんとか翌日には機械を修理してみました。
もちろん作業中のことは内緒です。心配してやらせてくれないかもしれませんし。
「こ、これ.....これを千沙がやったの?」
「はい!」
「て、天才か.....」
その時のお父さんの顔は今でも覚えています。自分では直せず、10歳の娘が修理したのですから、驚くのは当然でしょう。
外の仕事は私には力不足ですが、こういった機械の修理なら役に立てるかもしれないと考えた私は独学で知識を身につけ、幾度も機械を直していきました。
いつの間にか、お父さんは私のことを頼ってくれるようになり、面倒くさがりな私でも少し嬉しかったのは内緒です。
しかし、それでも母は、
「千沙は女の子なんだから.....そんなことしなくていいのよぉ。手だって、こんなに荒れて.....」
.....ちゃんと私の手を見てはくれませんでした。
でも、これくらいしか能がない私だから、高校は機械科農業高校を選びました。もっと知識を増やすために。もっとみんなの力になれるように。
県外にある高校では自宅からではなく、比較的距離が近い、お母さんの実家から通っています。そこでもほぼ毎日機械をいじっていたので、軍手などしていても手は日に日に荒れてきました。
お世話になっているお祖母ちゃんというと、
「千沙ちゃんはすごいねぇ。こんなに難しい物をひとりで直せちゃうんだから」
「そんな.....誰にでもできるようなことですから」
「少なくとも私にはできないよ.....頑張るのもいいけど、自分の手も大切にしんさい」
「.....はい」
「ほら、ばあちゃんがハンドクリーム塗ったげる。おいで」
「.....ありがとうございます」
心配してくれるお祖母ちゃんは本当に優しいです。
でも、ここでもやっぱりそうでした。手が汚れて、荒れていることに気づいても、この手をちゃんと見てくれない。誰もわかってくれない。
.....もう諦めて
「それでなんだけど千沙、悪いけど――」
「断ります」
高校に入ってから最初の夏休みがきました。私は実家に帰省し、ある日の食卓にお父さんから機械のメンテナンスを頼まれました。
機械いじりにだんだん嫌気が差し、熱が冷めきった私に頼まれても困ります。外、暑いですし。それに今、あるゲームにもはまってるこのタイミングで。
「またそういうこと言って。千沙、貴方、帰省してからまともに外に出てないじゃない」
「うっ」
機械いじりをする私に対して、散々口出ししてきたお母さんに言われるとは思ってもいませんでした。
.............そんな心配になるほど、私は不健康な生活を送ってきたのでしょうか。
というか、こうして考えると私は本当に変わりましたね。前まで二つ返事で機械の修理はやっていたのに。
『いいのよ、女の子なんだから』
最近、以前言っていたお母さんのその言葉で、私は私の手に言い訳してしまいます。こんなに頑張ってきたのに。でも、これでいいのかもしれません。
また加減を間違えて、機械いじりに没頭したら家族に心配されるかもしれません。それでは本末転倒ですしね。諦めましょうか。
頑張っても、誰もわかってくれないなら努力に意味なんて無いのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます