第46話 食卓にて

 「いらっしゃい」

 「お邪魔します」


 俺は仕事終え、風呂に入らせてもらってから夕飯をいただく。今日から中村家で3食おやつ付きの住み込みバイトだからこれが毎日になるのだ。


 南の家は初めて入るので新鮮だ。ここで葵さんや陽菜ちゃん、あと千沙さんも暮らしているのか。俺も住みたいな。部屋は葵さんのとこがいい。


 「和馬、ご飯よ? 感謝しなさい」

 「お、おう」

 「なによその味気ない返事は」


 「1日中働いたんだから、お腹すいてるでしょ? たくさん食べなよ。あ、席は俺の隣ね、高橋君」

 「あ、はい」


 「ふふ。高橋君、緊張してるの? 自分の家だと思ってくつろいでね」

 「りょ、了解です」


 招かれた部屋は12畳はあるんじゃないかと思うくらい大きいリビング。そこには部活終わりなのかジャージ姿の陽菜ちゃんと、雇い主、エプロン姿の葵さんがいた。


 葵さん、舐めてるんのかな。バイト野郎にエプロン姿見せるとかもう求愛行動してるようにしか見えませんよ? 料理は私ですってか、食べていいんですか?


 そんな心と裏腹に緊張しているバイト野郎。まずい、さすがに俺でも場違い感はあるように思える。


 「そのTシャツセンスないわね、あんた」

 「わ、悪いな」

 「.....なんかさっきから張り合いないんだけど」


 だろ。てか、ポニ娘は張り合い求めてたの? 今の俺の格好は部屋着に着替えてここに来た。


 部屋着は白地に「社畜」と書かれたTシャツである。下は黒色の短パンだね。


 「あらあら、泣き虫さんでも緊張するのね」

 「え、ええ、でかい家だなって思ってましたけど、まさかここまで広いとは。それに俺、ここにいていいのか不安になってきました」

 「そ、そう。もうツッコまないのね」


 ツッコむって“泣き虫さん”のことかな。それどころじゃないですね。いやぁ、緊張するよ、こんな広いリビングで初めての食事会はさ。いや、これから本当にここで朝食と夕飯ここで摂るの?


 「食事が冷めるし、早くいただこう」

 「そうね」

 「いっただっきまーす!」

 「いただきます」

 「.....い、いただきます」


 夕食も夕食ですげーな。焼き魚に、煮物、みそ汁も漬物もあるし。えーっと他には天ぷらと、豚肉の生姜焼きまで。ほんと量あるな。美味そう。


 「高橋君、今日はどうだったの? やっぱり1日お仕事は大変?」

 「ええ、正直に言うとしんどかったですね。トマトの収穫もなかなか難しいですし」

 「え、そんな難しいっけ? あれ」

 「あなた、高橋君は慣れてないのよ?」


 やっぱ中村家にとってトマトの収穫って簡単なことなん? だって、ちょっとの色の違いで熟してるかどうかなんてわからないよ、普通。


 「和馬、あんたよく焼き魚をきれいに食べるわね」

 「そう?」

 「骨だけ綺麗に残して、身だけを食べるのって、魚によるけど難しいよね」

 「本当に何事も丁寧なのねぇ。関心しちゃうわぁ」

 「.....。」


 そうかな、みんなもあんま変わんない気が.....ってあれ、雇い主の焼き魚、食い方下手くそなんだけど。


 「しょ、食事は早さだからね、高橋君」


 1人でタイムアタックしてろ。


 「ちなみにあんた好きな料理はなに?」

 「ジャンルを問わないなら、蕎麦かな」

 「そ、蕎麦はちょっと難しいんだけど.....」

 「?」


 え、なに難しいって。普通にスーパーで売ってんじゃん。そこに麺つゆとかかき揚げをテキトーに入れて蕎麦が食えればいいんだよ、俺は。


 「あらあら、この子ったらいきなり聞いちゃって」

 「いや、彼の言ってるのはスーパーに売っているパックとかでしょ」


 雇い主と同じ意見だわ。


 「じゃなくて、おかずの話よ!」


 好きな料理は? とか小学生が質問してきそうなこと聞いてきやがったくせに、なんか縛りつけてんだけど。


 「唐揚げ.....かな」

 「へ、へぇ」

 「あ、唐揚げは私も好きかも」


 「おいしいですよねぇあれ。店で食べるのと、家で食べるやつじゃ味が違って、どっちも美味しいんですよ」

 「.....。」

 「わかるわかる」


 おっ、バイト野郎と葵さんの好物が一致した模様。


 葵さんは苦手な食べ物ってあるのかな。もしピーマンとかグリーンピースとかだったら俺が代わりに食べますよ。できれば1回葵さんの口に入れて戻したやつとか最高です。


 「というか、千沙はまだなのか」

 「そうねぇ」

 「今日はもうおやすみしちゃったのかな」

 「私起こしてこよっか?」


 あ、そーじゃん。千沙さんにもしかしたらここで会えるかもしれないじゃんか。いやぁ長かったなぁ。もうバイト野郎我慢できないよ。陽菜ちゃん、行くなら俺が起こしに行ってくるよ。ル〇ン

ダイブで。


 「いやいや、寝かしといてあげなさいよ。うちのんだ。そのうち下りて来るよ」

 「そうねぇ。それにあの子、一回寝たら滅多に起きないものね」

 「ごめんね、高橋君。まだお互い紹介もしてないのに」

 「はは、どーんまい和馬」


 くっそ。お預けかよ。というか、


 「あのぉ、失礼かもしれませんが、なぜ千沙さんを放っておくのですか? あ、いや、すみません、意外でしたもので。そういうところは厳しい方だと思っていましたし」

 「「「「..................。」」」」


 おっと、バイト野郎、特大地雷を踏んじまったぞ。

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