第45話 ははっこの雑魚が!
「つ、疲れたぁ。これでまだ午前の仕事が終わっただけかよ」
俺は今日から中村家で住み込みバイトを開始する。
天気は晴れ。普通に夏である。すごいね、雲1つない快晴じゃないか。記念すべき1日に相応しい。
とりあえず、昨日アルバイトから帰ってきたら、うちにの母親が居たのでその事を伝えておいた。
母さんもまた2、3日したら出張するから、当分の間、高橋家をあけるらしい。
「失礼するわね」
「あ、はい」
俺は東の木造建築の部屋で基本、休憩する予定だ。そんな俺に真由美さんが手作り昼食をくれる。
「これ昼食。口に合うといいけどぉ」
「絶対美味しいですよこれ。なんかわざわざすみません」
「いいの。そういう条件で働いてもらうんだから」
「頑張ります」
受け取ったお盆には、種類が色々あるサンドイッチと冷たい系のスープ。デザートはプリンだな。控えめに言って、美味そう。
「それと悪いけど、夕飯は料理の関係で南の方の家でいいかしら?」
「え、いいんですか」
「ええ、昼食はサンドイッチとか麺類で簡単に済ますことが多いからこっちに持ち運べるけど、夕飯はおかずがたくさんあるもの」
やったぜ。夕飯は中村家のみんなとご飯とか楽しそう。昨日はたまたま母さんが居たけど、最近1人で食べることが多いからちょっと寂しかったんだよね。
「じゃあ午後は1時からね。よろしく頼むわぁ」
「はい、よろしくお願いします」
今が12時過ぎくらいだから、1時間くらいか。そこから7時までとすると、間にお茶の時間を挟むと6時間もないな。
今朝は8時半からだから、最大で10時間弱。.......あれ? 法律って何だったっけ?ま、まぁ農家だし、そのくらい普通なのかな。頑張ろ。
「ご馳走様でした。めちゃ美味かったなぁ。.......時間が空いたし、ゲームでもしようかな」
俺、早食いなのかな。まだ30分以上あるよ。
俺は時間を潰すため、スマホのアプリを開きゲームをする。やるゲームは決まってる。
戦争をテーマとした、シューティングゲームである。ゲーム名はコールド・オブ・ダーリン。略して、COD。さて、今日も狩りますか。
「ん?フレンド申請きてる。コイツ頭やばくない? プレイヤー名“貧乳女王”ってw 頭湧いてんのかな」
アプリ起動したらフレンド申請が来てた。日付では昨日申請してきたらしい。名前的に変態さんかな。
「ま、似た者同士だ。仲良くやろうぜ」
俺も“ツルペ〇ロリ万歳”ってプレイヤー名だし、お互い恥ずかしい名前だな。なんか“貧乳女王”と性格合いそう。
「おっ早速、フレンド対戦申し込んできたな。ふふ、ぶっ殺してやんよ」
俺は“貧乳女王”がいきなり対戦を申し込んできたので受理した。もちろん1対1である。これはもはや戦争ではないな。
「なっ?! ここバレたのかよ! 俺まだマップに映ってねーぞ!!」
15分後。最初は苦戦したが、
「はははは、俺無双、俺無双!! 4回連続でキルしてんぞ! おらおらおら!!」
さらに10分後。こいつ、何回も対戦を申し込んでくるんだけど。そんなに勝ちたいの? 譲らねーけどな!!
「やべっバイトの時間だ。.......ふっ命拾いしたな。デス数が2桁いかずに済んでよかったなぁ?」
俺は“貧乳女王”に圧勝した。ざまぁ、変態さん。画面越しでもわかるぞ、悔しがってる姿がな。
そして俺は午後の仕事をしに外に出た。
「じゃあ、もしかしたら千沙さんと会えるんですね」
「夕食時にね」
「まぁ“もしかしたら”だけど」
俺は今、真由美さんと葵さんと一緒にトマトの収穫をしている。明日の直売店で売るためだ。
このふっくらした、瑞々しい真っ赤なトマトを口いっぱいに方張りたい気持ちを抑え、収穫を続ける。
「それはそうと高橋君、前から思ってたけど作業着って洗ってるの?」
葵さんは1つ隣の畝のトマトを収穫し、進行方向は俺と一緒である。そんな葵さんはバイト野郎の不潔さが気になっていた模様。
たしかにもらった時は真っ白なツナギ服だったけど、今は以前したペンキ塗りや、草むしりとかでカラフルに汚れている。
「え、ええ、もちろんです。なぜそんなこと聞くんですか?」
「い、いやごめんね! なんというか所々小汚いから」
これは汚れが落ちないんですよ? ちゃんと洗濯機で洗ってても、染みついた泥汚れや、ペンキが落ちないんだよなぁ。洗剤がいけないのかな。作業着用洗剤とかあるし。
でもさ、
「一般家庭の洗剤を使うから汚れが落ちないのかもしれませんが.......なんか、この方がよくありませんか?」
「?」
「いや、ほら汚れていると後悔がないというか.......」
「あぁ、なるほど。たしかにずっと真っ白だと気にしちゃうよね。ある程度汚れていた方が気が楽ってことでしょ?」
違うよ葵さん。そうじゃないよ。でもこんな恥ずかしいこと言えないしなぁ。
「.......そうです。まったく誰ですかね、白なんて選んだのは。センスを疑います」
「はは、父さんだよ」
おっ雇い主か。まじでありがとう白で。やっぱ、どーせ汚れるなら白だろ。これから末永く続けるバイトなんだからさ。
俺は初めてかもしれない雇い主への感謝を込めて、今日も白色のツナギを汚す。
.......いやわざとじゃなくて。ときどきあるんだよ、腐ったトマトがあっても気づかずに手で潰しちゃうことがさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます