第20話 圧倒的不利!!
「今日は“
「おー!!」
「相変わらず元気でいいね、高橋君」
「元気が唯一の取り柄です」
天気は晴れ。俺が晴れ男だということは誰も疑わないだろう。7月に入っての最初の仕事、全力で頑張るバイト野郎である。
「ふふ、元気以外にも高橋君の良い所、私は知っているけどなぁ」
「ほほう。どのくらいですか?」
「ざっと100個くらい」
「おや、奇遇ですね。自分は葵さんの良い所を1000個言えますよ」
「はは、桁が違うよ」
イチャついてんじゃねーよ案件である。控えめに言ってまじ最高。
試しに言いましょうか? まずおっぱいが大きいところ、笑顔が素敵だということ、優しいところ、おっぱいが大きいところ、まだまだたくさんありますよ。
やっべ、セクハラが止まんね。
「ところで葵さん、以前から気になってたんですが“鳥町”とはここの土地の名前ですか」
「あ、そうか。ちゃんと説明していなかったよね? ごめんなさい、私の悪い癖だね」
「いえいえ、葵さんなんて可愛いもんですよ」
貴方の父親に比べればな。遺伝なんだろうか。例え葵さんのミスでバイト野郎の腕が吹き飛ぼうと笑顔で許すことができる自信がある。
代わりに結婚してもらいますが。だって息子のお世話出来ないよ、片手じゃ。ごめんなさい、今日セクハラが止まらないんです。
にしてもなんだ“鳥町”って。由来あんのかな。
「えっとね、まずこの場所は鳥獣被害の、特に鳥からの被害がよくある畑なんだよ。変な例えだけど、鳥の町みたいに鳥がすごーく集まるから“鳥町”っていうの」
なるほど、かなりネガティブな由来らしい。ちょっと聞いてて悲しくなる。それならどちらかというと“鳥町”というより、鳥が作物を待っている“
「たしかによく見たらこのトマト畑、厳重に守られてますね」
「でしょ?」
「そんなに酷かったんですか?」
「うーん、カラスがね......。小さな穴でもすんなり入って来ちゃうから困りものだよ」
カラスめ、俺と葵さんの愛の結晶を!
「そうですか、気を付けないといけませんね。ちなみに他の所にも名前が付けられているんですか?」
「うん、大体の畑には名前があるよ」
「ついでに教えてもらっていいですか?」
「もちろん。必要なことだし、これからのためにもね」
今の「これからのためにもね」をもっかい言ってほしい。なんか結婚したての新婚夫婦の会話みたいですっごくいい。その言葉を葵さんから聞くだけでご飯のオカズになります。
俺と葵さんは話しながらどんどん作業を進めていく。トマトの周りに生えた草をむしるのだが、肝心のトマトはまだ取れそうな実になってない。大きさが足りないのだ。なんでも5月に植えたらしい。収穫できるのは早くて7月下旬からだとか。
「まずはそうだなぁ。高橋君と初めてしたときのこと覚えている?」
葵さんに自覚はないだろうが、その言い方は息子にくるのでやめてほしい。良かった前かがみの作業で。
「ええ、キャベツ畑ですね?」
「そう、そこ。キャベツ畑は“
「はは、たしかに。あそこにはぴったりの名前です」
「ってことは足入っちゃった?」
「もうどっぷりと。堆肥がたくさん入ってたんですよね? 雨降った後でぬかるんでたんでしょう。まぁ長靴以上まで沈まなかったのは不幸中の幸いです」
「ごめんねなさい。私も一緒に作業していたのに言っておかなくて」
「いえ、むしろその後ご褒美がありましたから、お気になさらず」
「ご褒美?」
「こっちの話です。さ、他にはどんな場所があるのでしょう?」
思い出すのはポニ娘こと陽菜ちゃんとのラッキーハプニング。まだこの胸に控えめなおっぱいの感触が残っております。陽菜様、ありがとうございました。ああ、おっぱい。
「前に陽菜と野菜の残渣燃やしてた場所はわかる? あそこは“必通”っていうの」
「“必通”ですか」
「そ、“必ず通報される”、略して“必通”」
なんでこうもネガティブな名称の畑ばかりあるのだろうか。じゃ、あれか、あそこ前、燃してたけど通報されてたのか。でもあそこは住宅地からかなり離れているし、大規模に燃やさなければ通報されないと思うのだが。
「あの場所は大規模に燃やさなければ通報されないと思うのですが」
「うちの場合、1回通報されてから燃やす度に役所に許可をもらうんだけど、それが中々手間で、燃やすときには燃やす、だからどうしても大規模になりがちなんだよ」
「それは面倒ですね」
なるほど、通報する側も火事の心配があるからするのだろうけど、農家にとっては面倒この上ない話だな。こればかしは本当に事前の準備が大切である。
「うーん、あとは“虫パラ”と“楽園”があるけど、高橋君がまだ行ったことがないから実感湧かないかも」
「たしかに行ったことないと、どんなとこか想像つきませんね」
ただその畑の名称は悲惨な状況からきているということはわかるが。本当に農家って大変なんだな。
「なんというか農家って大変ですね。鳥獣被害や通報問題、野菜泥棒に後継者問題もか、あと自然災害などの問題を抱えているだなんて、生産者側で働いてみないとわからないものでした」
「....。」
「これは現代の日本人の職が農業から離れたから、身近な職じゃなくなってきたからこういった問題を解決できないんですよね。きっと一人一人が向き合えば、未然に防げるものも少なくないはずです」
「.......。」
「鳥獣被害に関しては、今では鳥獣保護法があるので下手に狩猟などできません。カラスなどもその法に該当するわけですからなお質が悪い。野鳥も生きていくために必要かもしれませんが、こちらも生活が懸かってます。どうにかならないんですかね」
「...........。」
一般家庭ではそんな鳥獣被害なんかにあわないだろう。せいぜいゴミ捨て場を荒らされるくらい。だからなのか、真剣にこういった被害に対する考えが甘いのは。動物を大切にすることは良いことなんだけどさ。
「それに通報する人も野菜泥棒も“消費者”だからか、生産者の苦労を―――って葵さん? どうしたんですか?」
「うぇ? あ、いや、ごめんなさい!」
「すみません、なんか自走しちゃって」
「ううん。すっごく、
「え? そうですかね」
「ありがとう」
そう言った葵さんの笑みはとても美しかった。生涯忘れられないくらい印象深い笑顔なのだろう。
だからなのか俺はつい、
「結婚してください」
「け、結婚!?」
やらかしちまった。つい言っちまったぜ。意外にも、葵さんは顔が赤い。もしかして脈ありっすか? 全力でアタックしようかな。
「あ、すみません間違えました」
「どこをどう間違えたらそうなるの!?」
「はは、原因は葵さんにありますよ。反省してください」
「え、えぇ、私ぃ?」
戸惑う葵さん、マジ可愛いっす。
そんなこんなでトマト畑の草むしりが全部終わってないが、バイトの終了時間なので終わりとなる。
なんというか、仕事の一つくらい終えないと、達成感というか、葵さん、いや中村家に役に立っているかわからなくなるバイト野郎であった。
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