第19話 嫉妬しちゃうじゃない!

 「はい、今週もお疲れさま」

 「ありがとうございます」


 今日は晴れ。というよりもう仕事が終わり、日が暮れそうな時間帯である。6月も下旬になり、先月までならこのくらいの時間帯は涼しい気温だが、もう夏に近づいている今じゃ、まだ暑い。


 俺は今週、人生2回目の草刈りで土曜と日曜の2日間も使ってしまった。仕事をこなすのが遅すぎる。役に立ってるんだろうか。


 「いいなぁ、私も欲しいなぁ」

 「はは、あげねーよ」

 「そんなはした金じゃなくて給料自体が欲しいの!」

 「はした金って言うなよ!!」


 俺は今週の分のお給料を真由美さんからいただく。少し前までは“日払い給料”だったが、面倒なのかまとめて週払いでまとめてくれている。俺的にも二日分の方がもらった感あっていい。できれば月払いには今後しないで欲しい。


 そんな俺のお給料を欲しがる陽菜ちゃん。今日は部活が早く終わったらしい。バイト野郎の終わりのころに帰ってきた。


 全速力なのか、帰ってきたとき「はぁ、はぁ」と息切れしていたのは驚いた。なに焦ってたんだろう。録画し忘れた見たい番組でもあったのかな。ならこんなとこで、バイト野郎にからんでていいのか。


 「しかし、まぁよく続くわぁ」

 「?」


 「何の話?」

 「ほら、このバイトよ」


 「はぁ」

 「そう言われるとたしかに。ま、確かに今までの奴よりは続くわね、いつまでもつか楽しみだわ」


 初耳ですよ。まさか俺以外にアルバイトしに来る奴がいるなんて。というか、その話だとそんなこのバイト長続きしないのか。そういえば初めて真由美さんに会った時も雇い主に「あなたやったわね」とか言ってた気がする。


 「自分以外にもいたんですね」

 「ええ、だいたいはで来たり、とかね? 自分で言うのもあれだけど、ほらこの子たち見目麗しいじゃない?」

 「っ!? そんなことないわ。普通よ、普通!」


 ごめんなさい、俺も後者の理由でこのアルバイト保っています。だって二人を見ていると浄化されるんだもん、汚れた心が。


 「ちなみに他の人たちはどのくらい続いたんですか?」

 「えーっと、1カ月くらい? 高橋君と同じように週2日なのよぉ。まぁ、貴重な人材をだいたいが危ない仕事させて駄目にするのよねぇ」

 「時々私たちがパパの監視も含めて一緒に簡単な作業するけど、あまり続かないわね」


 なにさせてんだ、雇い主。でも悲しいかな。バイト野郎の心当たりはぱっと思いつくだけで軽く両手が埋まる。


 おっと、否定せねば。葵さんたちと一緒に仕事が楽しいのもあるけど、やっぱ世の中お金でしょ。座右の銘であり、世の真理よ。


 「自分は.......」

 「わかってるわぁ。『高橋君は違う』ってことくらい。だからなのかしら、こんなに続くのは、きっと優しいからよね」

 「ママ、絶対違うわ。こいつの葵姉を見るときのあの血走った目....いつかヤらかすわよ」


 やめてくれない? 今そういう話ぶっこんで来るの。真由美さんの前だからって俺に好き勝手言いやがって。


 「そのうち、私も―――」

 「いえ、ただ稼ぎたいだけですよ。うちの近くにアルバイトできそうなところなんて近くのスーパーしかありませんからね」


 俺は被害妄想する陽菜ちゃんの言葉を遮って言う。


 「ふふ、そういうことにしといてあげるわぁ」


 そう言って真由美さんは呆れ顔をする。


 「それじゃあ、私はお父さんと買い物行ってくるから。陽菜、留守番よろしくね?」

 「はーい」

 「お疲れ様です。また来週もよろしくお願いします」


 これから買い物ですか。まぁ、日中は仕事で忙しいもんな。俺と陽菜は残され、バイト野郎は帰る準備をしようとする。


 「はぁ、お給料かぁ」

 「なにか欲しいものでもあんの?」

 「いや、別に。でもアルバイトしてお金欲しいじゃない?」


 わかるわぁ。久しぶりにポニ娘と意見があった気がする。そうなんだよ、子供は好き勝手買い物している大人を見ると自分も自由に使えるお金が欲しいもんだよ。


 「あ、この前、ペンキの作業で豚クイーンスマホケース汚したじゃん? お詫びにスマホケース買うよ」

 「気を遣わなくていいのよ? ちなみにあんたの給料なんかより、私の方がお小遣い高いもの」

 「高いんかい。ちなみにいくらくらいなん?」

 「5万」

 「高っ!」


 まじかよ、俺の給料が月に2万から3万円だぞ。それを考えると倍近くあるぞ、直売店って儲かるのかな。


 ちなみにバイト野郎の親からのお小遣いは食費を抜いて3万である。この中で学校まで行く交通費の定期金額が1万円以上含まれるため半分くらいしか残らない。バイト野郎の時給を上げてもらいたいものだ。


 「ま、いいって言うなら別にいいけど」

 「そうよ。自分のお金なんだから、ちゃんと考えなさい。それに買ったし、次のケ―――いや、なんでもないわ! やっぱ、買ってもらおうかしら!」

 「どっちなんだよ」


 言ってることめちゃくちゃですよ、ポニ娘さん。


 「ってことで、今度買い物に付き合ってもらおうかしら?」

 「? いいけど、いいのか? 部活とか休みとれんの?」

 「いいわよ、そんなの」


 そんなのって..........。桃花ちゃんが聞いたらぶっ殺案件だよ。というか部活はいいにしても家業は手伝わなくていいのか?


 ほんっとなんだったの、あの人生相談。やる価値なかったんじゃねと思うくらい俺の中で後悔が生まれるんですけど。


 「じゃ! 詳細はメール送るから! お疲れ様!」

 「はいはい」


 まぁ俺が原因だし、大人しく従おう。というか、これ、


 「デートじゃね?」


 バイト野郎、彼氏持ちの子とお出かけすんの? 言葉と裏腹にちょっとガッツポーズする俺。控えめに言って、最低である。

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