第18話 桃花の視点 裏表と書いてデリカシーと読む
「あ、お兄さん」
「ん? 桃花ちゃんか」
私はメールでおつかいをおばあちゃんに頼まれたので、部活帰りに近くのスーパーに来た。
なんとそこには私の祖父母の家の隣人であるお兄さんこと、高橋 和馬がいた。何してるんだろ。
「なにおつかい?」
「うん。お兄さんも?」
「いや、おつかいというか、夕飯を買いに。うちは両親共働きであんま家に居ないしな」
「へぇ、大変だね」
部活が終わったのが19時くらいで、今はその30分後である。夕食時と言えばそうだね。
「私お腹ぺこぺこぉ」
「はは。頑張ってんな部活」
「早く家帰ってご飯食べたいよ」
「おつかい結構量あんの?」
「うん、そこそこ」
「へぇ。でも買い物しているとこ見ると女子力感じるな」
「でしょ? まぁ住まわしてもらってるし、できるだけ手伝いたいからね」
カゴの中にはトイレットペーパーや2リットル入りの水、牛乳、それにみりんが入っていた。ちなみに最後に卵を取ってくる予定である。ちょっと若いからって頼みすぎだよ、おばあちゃん。
「んじゃ」
「え、ちょっと待って? この量見てどっかいっちゃうの?」
「いや、お腹すいてるし」
「私もなんだけど!」
「俺にメリット感じない」
「お兄さん、ほんと彼女出来ないよ......」
まじか。お兄さん、いたいけな少女を見捨てて行こうとするんだね。ちょっと見損なったよ。
「そ、それに俺たち付き合ってないのにそんな、か、カップルみたいなことできないし」
「きっも!!」
そ、そんなこと気にしてたの? なら、お兄さん、メガネやめて自分を見直してみなよ。自信もって、イメチェンしたらちょっとくらい付き合ってもいいよ(上から目線)。
「わ、わかったよ。で、あとは何買うの? ささっと済ませようぜ」
「あとは卵だけかな」
私たちは卵を1パックとり、レジへ向かった。今が夜でお惣菜が安くなったりすると、途端に他もお客が増える。
結構並んで、やっと私たちの順番になろうとした時、私はあることに気づいた。
「あ、財布部室に忘れた」
「..................。」
「ね、ねぇ、お兄さん、良かったらなんだけ――」
「オレ、オカネモッテナイヨ」
「なんで片言?!」
ちっ、お兄さんをATMにするのは早すぎたか。ごちになれば、あとでおばあちゃんから代金もらってお小遣い増えるのに。
「いーじゃん、貸してよぉ。ちゃんと返すからぁ」
「ったく、だいたいなぁ。そういうのはちゃんと確認し――」
「か・ら・だ・で」
「ここは任せろ」
「やったぁ」
お兄さんの扱いだんだんわかってきた気がする。
あ、店員さんに言わないと。
「レジ袋はいりません」
「そこはちゃんとしてるのな」
私、地球に優しいから。
帰り道、私は自分のバッグと部活で使ったラケットだけを持っていた。おつかいしたものは全部お兄さんが持ってくれた。なんというか、頼めば本当に何でもしてくれそうなのでこれからの楽しみの1つになりそう。
「そういえばお兄さん、うちの卒業生?」
「そうだけど」
「会ったことなくない?」
「たしかに、先輩と後輩なのに記憶にないな。廊下とかで普通にばったり会ってそうなんだけどね。陽菜はなんかそのうち思い出してきたんだよなぁ」
「なんでかなぁ」
「なんでだろうな」
どんなに地味な人でも“会ったことあるなぁ”くらいは思い出せるんだけど。なぜかお兄さんは思い出せない。
「あっ」
「きゃっ」
そう言ってお兄さんは急に私の髪を触ってきた。そしてある程度一掴みしてポニーテールのように後ろに持って行った。
「お巡りさーーーん! こい――」
「待て待て! お前すぐ通報するなよ!!!」
急に女性の髪触って通報するなとか、これいかに。びっくりするじゃない。まぁお兄さんだし、さすがに手出してこないと思うけど。
「それにこんな田舎じゃ、警察はすぐこねーよ」
「誰かーーー! 犯され―――」
「おい!!」
最後の一言でお兄さんへの信頼を失くしそう。
「で、なんなの? 急に触ってきて」
「お前、ポニーテールだったろ? それにマスクしてたんじゃないのか?」
「そういえばそうだね」
イメチェンってわけじゃないけど、中学2年生までは私、陽菜と同じようにポニーテールにしてた。陽菜とは中学2年からよく一緒にいるようになり、結構仲良くなった。
その髪型だと陽菜とかぶるし、なにより心のどこかで陽菜と自分を比較して、自分の容姿に自信がなかったからマスクをして顔を隠していた。
「だろうな、だからわかんなかったんだよ」
「はは、ごめん」
「四六時中マスクしてる奴は自分の顔に自信がないってテレビで見たことあるけど、マスクをとっても普通に可愛いから期待外れだわ」
「っ?!」
え、なに、急に可愛いとか素で言ってんの! やばい、やばい、私もしかして顔赤いかも! いや夜だから大丈夫、街灯もそんな明るくない。バレないわ。
「な、なに、期待外れって」
「いや、ニキビがすごいとか、ものすごいたらこ唇とかさ」
「..................。」
「どうした?」
「ぷっ、そんなのありえないよ」
「だったな」
はぁ、なんかお兄さん、性格に裏表ないのよねぇ。そこが良いんだけど、恥ずかしいことも平気で言うからこっちが恥ずかしくなる。
「あ、お兄さん、メアド交換しよ」
「? おう、いいぞ。何かとこれから連絡しそうだしな」
私たちはそんなくだらない話をしてもう......いや、ようやく家に着いた。もちろん私たちは同じアパートで、しかもお隣さんなので本当に最後まで荷物を持ってくれたお兄さんには感謝しかない。
「ありがと、助かったよ」
「おう、荷物ここに卸すぞ」
「うん、お願い」
私は合鍵で玄関のドアを開ける。
「じゃ」
「?! おい、身体で返すんじゃ―――」
『バタン』
お兄さん、ほんっと
「お帰り、桃花。おつかい悪いねぇ」
「ううん。全然軽かったし、どうってことなかったよ」
大丈夫、ちゃんと身体で働いて返すよ、お兄さん。
ほらお兄さん、結構、不摂生そうじゃない? 食事とかおすそ分けしてあげたり、家にお邪魔して管理してみるのも面白そう。
『ピロン』
「あ、さっそくお兄さんからだ。なぁにぃ? もしかしてさっきの話の続き?」
私はついニヤニヤしてスマホに送られたメールの内容を見る。
[おい! 俺の夕飯の弁当、一緒に買ったからそっちに入ってるんだけど!!]
「..................。」
ごめんなさい。
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