閑話 千沙の視点  ただいま

 「ただいま戻りました」

 

 現在18時36分、私は中村家に帰省しました。.....なにも変わってませんね、落ち着きます。


 私は玄関に荷物をおろすと同時に、階段からねえさんが下りてきました。


 「え、ち、千沙?」

 「ただいまです、姉さん」

 「お、おおおお帰り!! もう心配したんだよ! 昨日帰ってくる予定なのに連絡ないんだもん!!」


 どうやら姉さんは私のことを心配してくれたみたいです。優しい姉さんを心配させるなんて妹失格です。


 当初の予定では、到着が昨日の予定でしたが、帰省途中に色々あって、もう面倒になったので近くのネカフェで過ごしました。一応、ネカフェから一家の大黒柱に連絡したのですが。


 本当に色々あって疲れました。家族には迷惑かけられないので、警察に事情聴取される前に逃げてきましたし。


 「すみません、携帯が電池切れだと思ったのですが、壊れたもので」

 「そうなの? でも良かったぁ無事で」

 「心配をかけました、次から気をつけます」

 「う、うん」


 私は荷物を玄関に置いたまま、とりあえず家族に顔を見せておきたいと思いリビングに向かいました。


 「ち、千沙?!」

 「お、おかえりなさい。帰ってきたのなら、ただいまくらい言ったらどうなの?」

 「言いました。が、声が小さかったんですね」


 お父さんとお母さんが私を見て驚いています。疲れていたでしょうか、声が小さかったらしいですね。


 というかお父さん、その驚き様、昨日送ったメール見てないんですか?


 まぁ、そもそも「昨日帰る予定」でしたが、「買い物があるので寄り道するかもしれない」と連絡しておきましたし。


 「いろいろ訊きたいことがあるけど、まずは夕飯ね」

 「母さん、夕飯作り手伝うよ」

 「私もやりましょう」


 久しぶりに私も家事を手伝いましょう。そう思ってましたが、


 「い、いや、千沙は手伝わなくていいから! 休んでて?」

 「.....荷物を片付けてきます。それとこれ、お土産です。後で食べてください」

 「ありがと」


 姉さんに断られてしまいました。


 私はそう言って、荷物を片付けに玄関に向かいます。面倒ですが、片付けないといけないと思うと憂鬱です。


 今日はもう部屋に持っていって終わりにしようかと、つい考えてしまいます。


 「たっだいまー」

 「.....おかえりなさい、陽菜」

 「っ?! 千沙姉?!!」


 みなさん本当に表情豊かですね。


 私の妹、陽菜は部活から帰ってきたんでしょうか。ラケットの入ったバッグを持っていますし。


 「お、おかえり」

 「ただいまです」

 「相変わらず、元気ないね」

 「? そうですか」


 やはり疲れているのでしょうか。昨日の一件の疲れがまだ残ってるのかもしれません。


 「落ち着きがあるっていうか、大人っぽくなった感じがするよ」

 「ふふ、ありがとうごさいます」


 というか、これは陽菜のせいじゃないですが、陽菜の元気さ半分分けてもらいたいですね。足して2で割ったほうがちょうどいいくらいですよ、私たち。


 私もこれくらい能天気に生活してみたいです。


 「陽菜、おかえり。二人とも、そろそろご飯だから手を洗ってきて?」

 「はーい」

 「わかりました」


 私は帰って早々に、これから夕飯をとります。家族と話がしたかったのでちょうど良かったです。


 「....やはりお母さんのごはんは美味しいですね」

 「ふふ、ありがと。どう? あっちでは元気にしてたかしら?」

 「はい。学校の皆さんにもよくしてもらいました」

 「それはなにより」


 お母さんのごはんは本当においしい。私は特に煮物が好きですね。


 「しっかし葵もそうだったが、寮生活は大変そうだねぇ」

 「はは、慣れればそんなことないよ」

 「寮とはなんのことですか?」

 「いや、千沙も寮生活じゃん?」

 「来年の3月まで、まだまだ長いけど頑張ってね?」


 これはもしかすると、私が寮生活していると思っているんじゃないでしょうか。


 たしか寮生活か、ここから2時間以上かけて毎日通うかの2択でしたが、間をとって近くの親戚の家から通うということにしたと話したはずです。覚えていないんですか?


 「あなたたち、覚えていないの? 千沙は寮ではなくて、私の実家から通うって話だったじゃない?」

 「「えっ」」

 「そう言ってたじゃない? 父さんはまだしも、葵姉まで忘れるなんて....千沙姉、可哀想」


 まさか陽菜から哀れまれるとは。私、影薄いのでしょうか。


 寮ではなく、お母さんの実家、つまり私の祖父母の家から通うことを直前に切り替えた私も悪いですが。


 「ご、ごめんなさい、千沙。忘れてたわけじゃなくて、私も農業高校だから、勝手に寮生活だと思ってたの」

 「いえ、気にしないでください。連絡せずに好き勝手していた私も悪いので」

 「ごめんね、千沙。俺は忘れていたよ」

 「それは気にしてください。娘がどこで生活しているかくらい知っといてください」


 お父さんは安定の能天気さですね。それにそもそも、


 「私が、寮生活なんてできると思いますか?」

 「「あっ、あぁ、なるほどぉ」」


 本当に親子ですね。仕草が似てきてますよ姉さん。


 そうです。まずどんなに月日が経とうと、寮生活なんて到底できる力は私にはありません。


 こういうのもなんですが、私はめんどくさがりで、安定しない私生活を送ってきて今まで生きてきたんですから、急に寮生活なんて無理ですよ。


 「それはそうと、千沙。貴方、中村家を4カ月ほど留守にしたんだから、何か土産話くらいないのかしらぁ」

 「あっ私も気になる!」

 「そうだね、聞かせて千沙」

 「中村家の夕飯時間は長いぞ?」


 お母さん、姉さん、陽菜、お父さんの順に訊いてきます。わ、私にそんな期待の眼差しを向けないでください。


 ....そうですね、もう過ぎた話ですし、これなら良い土産話になりそうです。


 「では、土産話として。最初に言いますが、怒らないでくださいね?」


 「「「「?」」」」


 「もう解決しましたが、ナンパされまして警察沙汰になりました」


 「「「「ナンパッ?!」」」」


 「昨日のことですが」


 「「「「直近ッ?!」」」」


 本当に表情豊かですね。


 「ち、千沙姉大丈夫だったの?!」

 「ええ、解決してくれましたから。さんが」

 「ひ、ヒーロー?」

 「武器を持たず、で立ち向かった、素敵なヒーローです」


 陽菜だけでなく、お母さん、お父さん、姉さんも心配してくれました。


 「そ、それは良かったわねぇ」

 「あ、あぁ。千沙に何もなくて良かったぞ」

 「ほんっとそう。感謝だね、そのヒーローさんに」

 「かっこよかった?! 千沙姉、好きになっちゃった?!」

 「いえ、もう2度会いたくないですね」

 「「「「..................。」」」」


 本当に表情豊かですね....。

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