第37話 Tの字じゃなくて⊥

 「いやぁ良い天気ですねぇ」

 「ねぇ」


 天気は晴れ。夏休み入って最初のアルバイトである。天気が良いのは良いことだが、暑くて熱中症が心配だ。都心ではなんともう40度近くまで上がったとか。もう地球も末期だな。はは。


 「昨日の大雨が嘘みたい」

 「ほんっと嘘みたいですね」


 そう、昨日は大雨だった。


 俺と葵さんは今、“泥国どろのくに”にて次の作物を植える準備をしている。植える作物はカリフラワー。普段は植える専用の機械があるらしいのだが、故障中らしい。ありがとう、壊れてくれて。


 ちなみにここは以前、キャベツ畑だった畑である。もう時期だから、キャベツを終わらして、次の作物にカリフラワーを植えるらしい。


 「そういえば葵さんは夏休みはどうされるんですか」


 俺は中村家の夏休みが気になっていた。陽菜は部活で忙しいかもしれないけど、葵さんはどうなんだろ。今年は進学するなら受験生ってことになるんだし、やっぱ忙しいのかな。


 「そうだなぁ。まずは車の免許かな」

 「え、教習所行くんですか」


 「いかない。一発試験ってやつだね。実はもう仮免は取ってあるし、あとは路上練習と本免の試験だけだね」

 「よ、よかったぁ」


 「よかった?」

 「いえ、こちらの話です」


 教習所に通うなんて言ったら、愛を育む時間....もとい、一緒に仕事をする時間が減ってしまうからな。そうか、そっちの受験か。


 「でもね、勉強が足りないのかな、ちょっと学科のほうが心配なんだよね」

 「? 意外ですね。頭良いと思うんですが」


 「そんなことないよ。なんというのかなぁ、あのひっかけ問題についつい間違えちゃうんだよね」

 「あ~わかります。それでもって地味に納得できない、こういう考え方もあんだろ!って思っちゃいますよね」


 「そうそう。って、高橋君は免許持ってるの?」

 「普通二輪ですけどね、自分の誕生月が4月なんですぐ取り行きました。18になったら車の免許取り行きますよ」


 受験終わったあと、親に土下座して教習所に通った記憶は新しい。


 「学科免除でしょう? 私より先輩だ」

 「おいおい、後輩君、なにかねその態度は」

 「あ、すみません、先輩が面白くてつい」

 「あはっ」

 「ふふ」


 イチャついてんじゃねーよ案件である。バイト野郎、今日もたくさんする予定だ。


 葵さんの家みたいに、いろんな仕事に軽トラがあれば便利っていう生活じゃないからな。原チャもってるけど、最近あんま使ってない。


 でかいバイク欲しいなぁ。葵さんを後ろに乗せて、ガス欠するまで背中に胸を当ててもらいたい、抱き着いてもらいたい。ぐへへ。いかんいかん、息子よ鎮まれ。


 というか、葵さん意外と間違えるんだな、あの〇✕問題。俺、満点だったけど。


 「今度よろしければ、一緒に勉強しますか?」

 「え、いいの?」


 「もちろんです」

 「学科ないのに?」


 「いやぁ、もう忘れましたよ」

 「ふふ、本当に優しいね、高橋君は」


 バレちった。さすがに無理があったか。


 「でも、そうだね。甘えよっかな」


 やったぁ。絶対満点採らせるんで頑張りましょう!


 「高橋くんは夏休みどうするの?」

 「自分は特に部活とかやることないんで、ここくらいですかね」


 「勿体ないなぁ。青春満喫しないの?」

 「葵さんに言われるとは、不覚です」


 「うぅ。私はいいの!」

 「はは。それに、このバイトだって、青春の一部ですよ」


 「?」

 「葵さんと仕事をするのが楽しいんです。今しか出来ませんよ、農家のアルバイトは」

 「っ?!」


 顔を赤くする葵さん、まじ可愛いっす。結婚してください。


 「た、高橋君には陽菜がいるでしょ!! もう!」

 「?」


 なぜ陽菜なんだろう。俺アイツの彼氏じゃないですよ。アイツは別にいますもん。


 というか葵さん、赤面するということは、もうバイト野郎に脈があるって思っていいんですか?


 「わ、私、苗取ってくるね?!」

 「あ、俺が行きますよ」


 そういって、赤い顔を誤魔化してカリフラワーの苗を取りにいく葵さん。


 バイト野郎が取り行きますよそんなの。そう思い、葵さんと並行して進む俺。


 というか葵さん、そこ、昨日の大雨で土がぬかるんでるとこ―――


 「きゃっ!」

 「危なっ!!」


 俺はぬかるんだ土に足をもってかれ、転びそうな葵さんの胸ぐらを掴んでこっちに寄せる。


 その勢いのせいか、俺は葵さんを引き寄せた反動で後ろの泥沼に背中から転んだ。


 「きゃっ!!」

 「うおっ!」


 何とか無事キャッチしてみせたバイト野郎。怪我はないか葵さんに確認をとる。


 「葵さん無事ですか」

 「あっ!! わわわわ、動かないで!」

 「え」


 俺は今の状況を確認する。俺が下で仰向けになっている。


 葵さんはそんな俺に馬乗りである。下腹部に。


 あっこれ、逆Tの字じゃん。

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