閑話 葵の視点 携帯ってガラケー?
今日は晴れ。彼、高橋 和馬と私は一緒にスイカ畑を作っている。彼がうちにアルバイトで来てからもう1か月が経つ。
「あっついすね!」
「そうだねぇ。無理しない程度にがんばろ」
本当に暑い。元気な彼は晴れ男なんだろうか。アルバイトの日は土日で、その2日両方とも雨が全然降らない。まぁ、直売店を開く日が日曜日なので晴れることはとっても嬉しい。
「葵さんは暑いの....っていうか夏が好きですか?」
不意に彼が訊く。暑いというより暖かいのがいいかな。日向ぼっこしながら読書するのとか最高なんだよね。最近忙しくて日中そんなことできないけど。
「うーん、たしかに寒いのよりはこういう季節のほうが好きかも」
「自分も夏大好きです!」
ほ、本当に? 前、趣味はゲームとお菓子作りって言ってた気がするけど、趣味とは別なのかな?
「これがスイカになるなんて想像できませんよ」
「ふふ、そうでしょ? 最初はどんな苗を見ても収穫時が想像できないよね」
彼が手にしたスイカの苗を指して言った。たしかに、私なんかは幼少のころからちょくちょくお手伝いしていて、スイカの栽培なんて昔からやっていることだから疑問には思えないけど、一般家庭じゃまずそうそう見ないよね。
そうだ彼に訊いてみたいことがあったんだ。
それは携帯についてのこと。私、現役女子高生の中村 葵はなんと携帯はガラケーです。恥ずかしながらスマホを使いこなせません。中学3年の私の誕生日に両親が買ってくれたけど、今は机の中にしまっている。
彼にガラケーを使う女子高生はどう思うか訊いてみたかったんだ。学校ではみんな普通にスマホで、なんというか孤独感が半端なくあって、でもどうしてもスマホを使えるようになれない。
理由は必要性だ。学校終わってからはすぐに家業に取り組むのでスマホを使って遊ぶことはない。夜も空いた時間はテレビとか読書で就寝まで時間が足りるのでガラケーで十分。
「ええ、スマホはアンドロメダですが」
「へぇそうなんだ。......ちなみにガラケーってどう思う?」
お願い理解者であって!
「ガラケーですか? まぁ高齢者が使うイメージですね。若者の持つものじゃないですよ、あんなの」
「こ、高齢者......」
「はい?」
「い、いや、なんでも! ささ、早く終わらせましょ!」
まさか高齢者扱いされるとは。うぅ。
まずい、学校の皆と同じようにガラケー所持をばれたら変人扱いされかねない。わ、話題を。
「しっかし広いですね? このマルチシートから次のマルチシートまで間隔が20メートルくらいある気がします」
「意外とこんなに広くても全部埋まっちゃうくらいスイカの茎って伸び広がるんだよ? 8月が楽しみだね」
「ええ、楽しみです」
「無事スイカたちを収穫まで守るにはちゃんと整備をしないと、収穫が予定の半分以下になっちゃう。気をつけなきゃね」
よ、良かった。なんとか危機は免れた。
「あとは私が植えとくから、高橋君は周りお願い」
「うす」
そうだよね、若いくせにほんとダメだよね私。せめて最低限使えるようにしなきゃ。電話やメールなどのアプリは使えるは使えるんだけど、時間がかかってしょうがないのよねあれ。
私は胸ポケットにしまってあるガラケーを外に出さないように気を付ける。電話するときは彼から離れなきゃ。
「んっ! ふっ! あれ、まっすぐいかないなぁ」
彼がパイプを打ち込む作業に奮闘している。こっちは終わったし、せっかくだから手伝ってみようかな。一度やってみたかったんだよね
「えっとね、私やってみるよ。ハンマー貸してみて」
彼が私に大きなハンマーを渡す。そして私はそれを使い、思いっきり振り落とした。
「う、うーん、うまく刺さんないね」
「コツとかあるんですかね」
「いやぁ、私これやってことないから、わからないや、ごめんなさい」
先輩として頼りなくてごめんなさい。
「い、いえ。むしろよく初見でやろうと思いましたね」
「いつも父さんがやってるんだけど、力作業はやるなって。だからやってみたくなっちゃった」
「さいですか」
「もっかいやってみるね!」
今度こそいいとこ見せるんだから。よーし!
「う、うまくいかないよぉ」
だめだ。ごめんなさい、高橋君、私を幻滅しないで。
「葵さん、あのぉ、これ、落としましたよ」
彼は私が落としたものを拾ってくれた。私はそれを受け取った。
「え? あぁ、ありが..................と」
私はこれを入れておいた左の胸ポケットに手を当てる。なにもなく、そこにはむしろ最近大きくなって肩こりの原因でもある私の胸以外なにもなかった。
「「..................。」」
どうしよう、この状況。
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