第12話 女神とガラケー

  「「..................。」」


 現在、俺と葵さんはスイカ畑で作業している。さっきまでイチャラブしてたのにな。いや、本物のイチャラブわかんないけど。


 「......えーっと」


 やばいな。何がって? 葵さんがガラケー使っていること? そんなの「へぇ、古いですね。久しぶりに見ました」程度で流せる。


 「えーっと」


 やばいのは俺がさっき「高齢者が使うもんですよ、あんなの」って言っちゃったこと。葵さん大好きなのに、軽くディスっちゃった。やべ。


 「えーっと」


 さっきから「えーっと」しか出ないボキャ貧な俺。ごめんなさい葵さん。そんな気はなかったんです。


 そうか、だからさっきスイカを植えているときに「高橋君ってスマホなの?」とか急に聞いてきたんだ。世間話かと思ったよ。なに、別にガラケーが悪いわけじゃないが、葵さん、貴方、女子高生ですよね?


 「が、ガラケーとは珍しいですね」

 「っ!?」


 葵さんは顔を伏せたまんまで手にはガラケーを収めている。顔は赤い。ここで「熱中症ですか?」なんて煽れるほど俺のメンタル強くない。できるのは相手が陽菜ちゃんくらい。


 というか、陽菜ちゃんは普通にスマホでしたよ、お姉さん。


 「その、すみません。葵さんがガラケーを使っているとは知らずに先ほどあんなことを言ってしまい、傷つけてしまったなら申し訳ありません」


 正直に謝ろう、高齢者扱いしたこと。ガラケー所持がバレたくらいでここまで落ち込むなんてよっぽど恥ずかしかったのだろう。


 「そ、そうじゃなくて、いや、それもあるんだけど、でも、やっぱり変だよね。女子高生なのに使


 いや、ガラケー所持&使用は驚いたけど、“スマホ使えない”は初耳です。そっちのほうが今日一のびっくりです。てっきり何かしらガラケーのほうがスマホより優れている点があって、あえて使っていないのかと思ってた。


 「.....スマホ使えなかったんですね」

 「え、あ、今のはその、えーと、...........はい、使えません」


 自分で地雷を踏む彼女がこの上なく愛おしい。泣きそうです、葵さんが泣きそうです。ぺろぺろしていいですか! ぺろぺろしてよろしいでしょうかぁぁあああ!


 「なんでかな、陽菜や千沙は普通に使えるのに。操作が難しいていうか、その画面の情報量に追い付かなくて。苦手になっちゃった」

 「..................。」


 もう一度言います、貴方、まだ女子高生ですよ。


 と、とりあえず、スマホの嫌なところを肯定していこう。よし、今は元気になってもらいたい。元気な葵さんが素敵なんです。


 「あれですよね。年々、便利に進化していくのはいいですけど、過去に経験がないと使いこなせないような機能とかたくさんあって面倒ですよね」

 「そ、そうそう! そういうとこいけないと思う! 平たいから間違ってどっか押しちゃいそうだし、寝て操作したときとか画面がくるくる回って目疲れちゃうし。とっても扱いずらいと思う!」


 とてもじゃないが十代の言うセリフには思えない。1言ったら10返ってくる勢いだわ。


 「そうですよね。わかります。...........さ、では作業に戻りましょう。時間は有限です」


 無理だ。俺には私生活で使っているスマホをこれ以上否定できない。多少強引でもこの会話に終止符をうたねば。


 「うん! でもパイプちゃんと打ち込めそう?」


 そうだった、パイプをまっすぐ打ち込んで何とかあと10セット作らねば。


 あ、でも葵さんで客観的に見れたからわかったぞ。これ、の動作によく似ている。


 「少し試したいことがあるので離れてください」


 俺はハンマーを垂直に持ち上げ、そのままできるだけぶれずにまっすぐ振り落とした。『ガンッ!!』とさっきまでとが全然違うことに気づいた。


 まだまっすぐ地面に刺さってないが、それでもさっきよりはしっかりと深く入っていた。


 「おお! すごい!」


 なるほど、これでいける。俺は小学生の時、修学旅行のお土産で“木刀”を買った。購入以降、ほぼ毎日素振りしていた。結構な本数をな。しかも外で夜一人、やっていた。


 なぜかって? 若気の至りです。卍〇できると思ってたんだよ。月牙〇衝うちたかったんだよ。中学の時の部活は陸上部なのにな。


 受験で忙しくなってから、まったくやらなくなったがな。


 「なにかコツをつかめたんだね! これでネットの方は何とかなりそう、ありがと、高橋君」

 「コツというか、まぁはい、残りもすぐやってきます」

 「怪我しないように気を付けてね?」


 こうして俺がパイプを打ち込み、柱を作り、そこから葵さん二人でネットを周囲に張る作業に取り掛かった。最初のパイプ何本かはどうしても斜めってしまったが、なんとか、無事に“スイカ畑”を作ることができた。


 「はぁ、疲れた、いつも父さんと母さん、それとたまに陽菜とやるから、二人だと大変だったよぉ」

 「お疲れ様です、葵さん」

 「お疲れ様、高橋君」


 まーじか。いつも4人でやってんのか。素人の俺とそれに付き合わされる葵さんでなんとか日が暮れるまでに終わったのは良かった。


 「終わったし、父さん呼ぶね」

 「お願いします」


 そう言って葵さんは胸元から携帯を取り出して、電話する。ガラケーで。


 きっと電話の向こうの人もガラケーなんだろう。


 しっかしまぁ、陽菜ちゃんとかにスマホの使い方を教わらないのだろうか。陽菜ちゃんあたり、普通に教えてくれそうなイメージあるんだが。


 「あと10分くらいでこっちに来れるそうだよ」

 「了解です。.......ところで葵さん、ガラケーのことなんですが、スマホのこと陽菜ちゃんとかに訊かないんですか?」

 「うっ。教えてくれるけど、全部を全部聞くのが申し訳なくて、かいつまんで聞いても、なかなか操作が覚えられないのぉ」


 大丈夫ですよ、スマホ苦手な葵さんも可愛いです。


 そうか、陽菜ちゃんは教えてくれるんだ。家族なんだから遠慮しなきゃいいのに。


 「1回、陽菜に4桁のパスコード忘れたの言ったらドン引きされちゃって...」

 「さ、さいですか」


 ドン引きとまでいかなくとも、あんま普段使う人でパスコード忘れる人いないよな。


 「誕生日とかじゃないんですか?」

 「そうすれば良かったんだけど、スマホ買った日付にしちゃったの、誕生日だと安直すぎるから。案の定、3日くらい使わなかったから忘れちゃったよ。はは」


 そう言って自ら開かずのスマホにするとは、これいかに。というか、スマホ買って早々3日も使わないとか俺じゃ想像つかないな。


 「よろしければどこか空いた時間で教えますよ?」

 「えっいいの?」


 「ええ、そのくらいお安い御用ですよ? ちなみにこう見えてスマホはリンゴとアンドロメダどっちも使いこなせるくらい知識は十分にあります」

 どっちも使ってたしな。

 「あ、ありがとう! 助かるよぉ。陽菜は訊きすぎて白い目で見られるし。何よりこれから人前でガラケー出したくないもん」


 「はは、頑張りましょう」

 「私は良い後輩をもったなぁ」


 大げさな。バイト野郎は単純に葵さんと会話をもっとしたかったからという理由以外何もない。いいですか、葵さん。男はみんな狼で汚らわしいものを股にぶら下げている生き物なんですよ? ぐへへ。


 そんなこと考えている間に雇い主がトラックで迎いに来た。


 トラックは基本2人乗りなので葵さんと俺のどっちかが荷台に乗るのだが、先の件のこともあり、さっそく荷台でスマホ講座を開く。


 教える際、俺のスマホを使ったのでどうしても葵さんと距離は近くなる。主に顔が急接近してきた。


 汗かいていたのに、甘い匂いがする。ずっとクンカクンカしてたい。いかんいかん、我が息子が元気になってしまう。ちゃんと教えねば。


 「きゃっ!」


 舗装されているところを走らず、農道なのでよく揺れる。そして案の定、葵さんが揺れでバランスを崩し、こちらにもたれかかった。


 「ご、ごめんなさい」

 「ありがとうございます」

 「え、なにが」

 「いえ。ほら続けますよ」


 俺は生涯このを忘れないだろう。まじ最高。できるなら肩じゃなくて手でわしづかみできるようなハプニングはないのだろうか。


 おおっと、がいらっしゃるんだった。助手席には誰もいなく、雇い主の話し相手が居なくて寂しそうな顔は印象的だった。


 いや、この顔、完全に俺が葵さんを盗ったみたいに恨めしい顔なんだが........。

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