第一章 イチャラブは芽生えますか?

第1話 初めてのアルバイトが草刈り

 「なにやってんだろ俺...」


 天気は晴れ。雲一つ無い快晴だ。四月中旬になってこの気温暑すぎだろ...。


 「あの美人さんと仕事できないのぉ」


 俺はそう文句を言って、慣れない斜面の草を草刈り機で刈っていた。草刈り機のアクセルを開けるとグイン!グイン!グイーーーーン!!と鳴り響く。


 「う、うるせぇ」



~遡ること2時間ほど前~



 「あ~暇」


 俺、高橋たかはし 和馬かずまは自宅で時間を持て余していた。高校生一年なりたてほやほやの俺には土日が暇で暇でしょうがなかった。


 「部活とかやれば?」と母が問う。


 残念、あなたの息子さん中学で部活が嫌いになっちゃたの。


 無論勉強なんてする気ないし、教科書など見たくもない。なんだって受験を終えたばかりの今に勉強しなければいけないのだ...。


 「あ~暇」


 本当はアルバイトする時間の余裕はあるんだ。というかむしろアルバイトしたい。したいんだけど、ここ田舎だからか、周辺にアルバイトできそうなところがない。


 いや正確にはあるな。近くの大手スーパー”ニオン”が。知り合いが働いているので選択肢にないだけ。なんか友達と働きたくないじゃん?


 「散歩するか」


 周りは畑だらけ。いや畑しか無いなほんと。暇を持て余した俺は意味などなく外に出てみることにした。


 「どこ行っても畑ばっか。...ん? 畑? ......畑ねぇ」


  俺は自宅から歩いて10分程度の場所に直売所があるのを知っていた。たしか今日は販売日だったな。火曜、木曜、日曜日は店を出している日だったと記憶にある。時たま“野菜のおつかい”で行ってたしな。


 直売店といえば野菜を販売するところ、すなわちその辺の畑で収穫したやつを売っている店である。つまり、畑無くして野菜は作れず、野菜無くして店開けずである。


 俺はひらめいた。


 農家って基本人手不足そうじゃないか。偏見だけど。それじゃあ意外と雇ってくれたりして...。


 「ふふ」


 思い立ったが吉日、フッ軽ともいう。急いで家に帰り、訳に立つかわからなかったを持ち出してすぐ家を出る。


 俺は店に着いた。いつも開店開始30分くらいがピークだった気がする。つまりそこがめちゃくちゃ混む。一応、忙しいその時間帯は避けて落ち着いた頃に来た。


 「いらっしゃいませ!」

 

 お、おお~。なんつう美人さんだ。泣き黒子がとっても魅力的な黒髪の女性だ。俺たまにおつかいでここに来るけど、こんな美人な女性定員に会ったことないぞ。


 もしここで働けて、こんな美人さんと一緒にキャッキャウフフできるなら俺もう永久雇用でいい。あ、結婚という形でね。野菜作りより、子作りを頑張ります。にょほほ。


 おっといかんいかん、目的を果たさねば。


 「あの~店長さんいらっしゃいますか?」

 「え? あ、はい。少々お待ちください」


 うし! ここまで来たら勢いだ。当たって砕けろ、俺。


 「うちで働きたい?」


 疑問の声を上げたのはここ直売所の店主、中村さん。50歳くらいか、中肉中背の男性といったところか農家の方特有の容姿である。身長も170はある俺と変わんないな。帽子をかぶり、チェックのYシャツに下は作業着といういかにもって感じだ。


 いや~忙しいところすみませんね。稼ぎたくて、ぐへへ。


 とりあえず初対面だし、自己紹介をする。中村さんは自己紹介をしてくれなかったが...。まあ店の名前が“中村直売店”だし、きっとそうだろう。うん。

 

 俺は履歴書を渡そうとしたが、


「いいよ、仕事たくさんあるし」


 なんと二つ返事でOKしてくれた。履歴書は受理されませんでした。くそう。せっかく書いておいたのに...。


 まあいい、よく考えたら履歴書の志望動機のところ、“私生活に使えるお金が欲しい”とか、“自分にもできそうな仕事だと思い...”とか欲丸出しの上に軽く煽る内容だったので見られなくてよかった。


 明日は可燃の日だ。後で捨てよう。


 「でも服装がなぁ...。ま、いっか。じゃさっそく行こうか」


 そういえば俺、上は長袖で下は七分丈のズボン、靴はスニーカーだなとてもじゃないが到底面接しに来るような格好ではない。肌が露出していることが問題なのか、なんなら家近いし着替えに帰れるが、待たせるのもなぁ。


 ....てか今から? 明日からならまだわかるが早くない? 大丈夫なんだろうか。


 俺はそのまま流れで近場にあった軽トラに乗り、現場に向かう予定だ。...軽トラの荷台にはなんか細長い機械があった。なんだろあれ。


 おお! 初めて軽トラに乗ったよ! せ、狭いな。というか仕事内容聞かなったけど、多分畑だよね。畑を耕したり、収穫したりとかでしょ。農家のイメージそれくらいだよ。ごめんちゃい。

 

 現場到着。畑というよりここは...。


 「今からこので草刈りをしてもおう」


 おう、アポなしからのバイトさせてもらっといて言うのもなんだけど、もっとこうあるんじゃないんだろうか。せめて雑草むしりとか。


 ここ畑というかなんつうか斜面の上にみかんの木がなっていて想像していた感ないな。


 特にこだわりないけど、素人には難易度高めな気がする。


 「みかんの木の周りに生えている雑草をこの草刈り機で刈ってくれ」


 荷台にあった機械は草刈り機って言うんだ。草刈り機とは長い棒の先に燃料タンクがあり、もう片方の端に小さい刃がたくさん付いた歯車のようなものがある。その歯車が回転し、草を刈るらしい。


 そういえばたまに近所の畑でご老人がこんなの持って仕事してたな、徘徊かと思ったが違った模様。失礼。つか意外と重いな。


 「いいかい、お手本を見せるから。ここをこうして、こう、そんでもってこう!」


 中村さんの教え方に難あり。早くて覚えきれないよ。


 「できるだけ草の下ら辺をこうやって切ってみて」


 おお、草が次々と切れていく。これ指とか当たったら簡単に持ってかれそう。


 「眼鏡してるし、高橋君なら大丈夫でしょ」


 そう俺はメガネをしている、視力悪いんだよ。裸眼だと足元すらぼやけてしまうほどな。メガネは俺の本体なんだ。


 確かにこれ、間違って小石なんかにあたって飛んで来たら失明案件だ。


 「頑張ります」

 「よし、やってみて」

 「はい。...こうですね!」

 「下手くそだなあ」


 手厳しい。


 意外と難しいなこれ。


 「慣れるまで頑張って」

 「了解です」


 しばらく苦戦しそうだ。



~冒頭の続き~



 いつの間にか中村さんはいなくなり、みかん畑では俺一人で作業することになっていた。


 仕事ぶりは素人目線からでもわかる、まったく上達してない。む、難しい。


 それに服装がいけない。長袖はいい、問題はズボンである、七分丈のせいで肌が露出しているところにまだ刈ってない草とか草刈り機によって飛んできた土が当たって痛い。そこはまぁ我慢できる。


 そんでもって一番の問題はスニーカーで、斜面だから滑るのなんの。


 「どう? 上手くなってきた?」

 「うおっ!?」


 中村さんが後ろから声を掛けてきた。


 草刈り機の音のせいか近づかれても全く気づかなかった。心臓に悪いねこれ。


 「拙いけど、結構広い範囲刈れたね」


 そう言われれば確かに結構刈ってた気がする。3時間くらいかな? 時計見てなかったらわからないや。


 「今日はこれでお終い。...結構肩にくるでしょ?」

 「はい、ベルトを肩に掛けていても痛いですねこれ」


 そう、始め草刈り機で刈る際に刃のチップがついた歯車の方を左右に振るため、腕の負担がもんのすごいのだ。


 が、しかし本来は肩にベルトを掛け、草刈り機と繋ぎ、腕への負担を減らして刈るのが普通なのだ。


 なのに..........それなのにこの男、中村さんはお手本の時にだけで刈っていたのだ。やっぱお手本通りやるじゃん? 普通に考えて。


 俺は後々、ベルトが下に置かれていたのも気づけたのが幸いだった。ベルトしなきゃ負担がやばい、絶対に必要だわ。それ先に言おうよ?


 「手本見せたけど、やっぱ難しい?」

 「........。」


 お手本とは。


 終了時間の基準が分からないがそろそろ終わりと言われ、それに従って俺は軽トラに乗った。


 もちろん助手席は俺、運転は中村さん。帰りの途中では特に話題もなく無言で車内は静かであった。田舎め、静かすぎて気まずいぞ。


 「刈っている最中になんか雑木? みたいのがあったんで何本か切りましたよ?」


 と俺は告げた。


 中村さんがこちらを見て「え!?」と驚く。ちゃんと前見て運転してください。


 「み、みかん殺しだ」


 人殺しみたいに言わないでくれ。


 「たぶん...いや、絶対それみかんの苗木だよ」

 「苗木?」

 「そう! 要は“子供”でこれから成長させていく若い木!」


 先に言ってよ...。

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