第5章『運命』

第121話 お宝探し

お久しぶりです。

毎日とはいかず、間が空くかもしれませんが、続きを執筆してまいります。

本作の書籍版、「死亡退場するはずの“設定上最強キャラ”に転生した俺は、すべての死亡フラグを叩き折ることにした」も4月20日に発売になります。

WEB版(本作)との相違点をかなり意図的に盛り込んでいるので、ぜひお手にとっていただけると嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。



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 レイジとセレインがシナリオ通りに旅立ったという知らせを受けてから、約1週間が経った。


 ゲーム内では、細かい時間経過が示されていたわけではないので、旅の道程が順調かそうでないかは分からないが、現在のところ、その順路に関してはゲームで描かれた通りを辿っているようだ。

 ここから徐々に事件に巻き込まれ、仲間を増やしていくのだろう。

 それを近くで見守りたい気持ちもあるが……俺はジル=ハースト。既にゲームのストーリーからは退場しているはずの人間だ。

 もしも表に出れば、シナリオが予想外の方向に狂う危険性だってある。


 だから、二人の動向の確認は、信頼の置けるポシェとフレアに任せている。

 あの二人の技量があれば、そう簡単にバレることもないだろうし……万が一想定外のアクシデントが起きない限りは、俺の出番も訪れないだろう。


 と、いうわけで。

 現在の俺はというと……


「よっしゃあ! お宝ゲットー!!」


 名も無き――否、ゲーム内には登場しなかった遺跡――つまりはダンジョンに潜り、冒険者らしくお宝発掘に勤しんでいた。


 この世界がゲーム『ヴァリアブレイド』に酷似した世界だとはいえ、ゲームの中で世界中全てを回れたわけじゃない。

 たったひとつのゲームで描き切るには、世界というものは広大だ。

 描かれなかった設定、主人公達の活躍の影に埋もれた歴史。

 そういったものは無数に存在する。


 この世界は、生きているのだから。


「おいおい、また発掘したのかよ。すげぇ嗅覚だな、アスト」

「はっはっはっ、キミとは年季が違うのだよ、クレイくん」


 傍で感嘆の声を上げるのは、俺と同業――自称、遺跡ハンターのクレイだ。

 見た目の年齢は20歳前後。健康的な土のような茶色い髪、褐色に焼けた肌。

 動きやすい服装ながら、露出した腕や足には傷跡が無数についていて、なんとなく冒険者として頼りになりそうな雰囲気を感じさせる。


 彼とは、今潜っているこの遺跡の入口で出会った。

 ダンジョン前でのブッキングは、冒険者によっては揉める原因となるのだが、俺もクレイもお互い独り身。

 中は魔獣の巣窟だし、お互い安全が確保できるのは悪くないってことで、即席のパーティーを組むことになったのだ。


 ちなみに、クレイ側からの提案である。


「なんかコツとかあんのか?」

「こればっかりは勘としか言えないな。地面の声を聞くのさ」

「はー、なんか農家みてぇなこと言うんだな」


 ドヤ顔で胸を張る俺に、クレイは感心するように頷いた。

 言っていることは適当っぽいが、先ほどから何個もお宝を発見しているのだから、信じるほか無いのだろう。


 ちなみに、ダンジョン内で見つけるお宝は、丁寧に宝箱に入っているわけじゃない。

 ダンジョンを作った古代人の残した物、あるいは、かつての冒険者がこの中で死に、放置された装備品などが塵や埃に隠され埋まった遺物が、お宝として発見される。

 そこら辺に裸で落ちているものもあれば、地面に埋まっているものも多い。


 ダンジョンは基本的に古く、脆い。この遺跡は人工物だが、随分と風化が進み、この中に生息する魔獣達に適した環境へと変化している。

 遺物が魔獣達によって隠されるのも、必然というわけだ。犬が自身の宝物を穴掘って埋めるみたいにな。


 そうして生まれたのが、ダンジョン探索と共に、お宝発掘に優れた者達。

 つまり、このクレイのような『遺跡ハンター』なのだ。


「っと、アスト! 後ろ!」


 突然、クレイが何かに気が付いたように叫ぶ。

 それと同時に、俺は背後を振り向き――弓を構え、矢を放った。


「ビギャアッ!!」


 音も無く背後から襲いかかろうと迫っていた、一つ目の巨大コウモリ。

 その狙ってくださいと言わんばかりの目玉に矢が刺さり、あっという間に絶命した。


「ひゅう。やるじゃねぇか」

「クレイが気付いてくれたおかげさ」


 そう肩を竦めて、笑い返す。

 実際、魔獣の接近には気が付いていたが、タイミング的にも彼に感謝するのは当然だろう。


(やっぱり、頼りになるな……)


 このクレイという男を、俺は今日出会う前から知っていた。

 いや、会ったこと自体は偶然で、正直かなり驚いたけれど……


(クレイ=ハローズ、か……)


 この男は、ゆくゆくレイジやセレインの仲間になる男だ。

 兄貴分の雰囲気を出しつつもお調子者で、パーティーのムードメーカー。

 もちろん、遺跡ハンターとしての経験を活かし、探索面でも様々な知恵を与えてくれる頼りになるキャラで……


 まさか、偶然で出くわすことになるとは。

 世界は広いのか、狭いのか……身を以て実感するには、まだまだ俺は知らないことだらけだと思い知らされた。

  

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