第122話 クレイとアスト
正直なところ、俺にとって、このダンジョン探索に深い意味は無かった。
何か理由をつけるのであれば、暇つぶしだ。
レイジ達が順調に進んでいるのならそれで良し。
何かトラブルに見舞われて、サポートの必要が生じた際は手助けの策を講じる。
そんな気楽な気持ちで、ただ時間が過ぎるのを待っているにすぎない。
精々、いい遺物を拾えたら、レイジ達が行き詰まった時に横流しするために取っておいてもいいって程度だ。
まぁ、遺物は所詮ボロボロの骨董品。そのままじゃ使えないので、鍛冶屋で打ち直さなきゃいけないって手間はあるけれど。
「よいしょっと」
ダンジョン探索用の大きいリュックに成果物を詰め込み、担ぐ。
まだ多少スペースは余っているが、それでもずっしりとした重みを感じた。
「んで、これからどうするよ、相棒」
「相棒?」
「即席とはいえ、二人で潜ってんだから相棒だろ。それに、アストと俺、相性いいと思うぜ?」
「はっはっはっ、見る目がありますなぁ」
クレイの言葉に、俺は大げさに笑って見せた。
ここで彼に出会ったのは誤算だった。
まず、ろくに変装もしていない状態なのに、未来の主人公御一行の一人に出会うとか、普通にマズい。身バレの危険性があるからな。
でも、セラに対しては一応白髪になっているから彼女が知る『ジル=ハースト』との外見的特徴は一致しない。
そして、レイジに関しては……一応、彼の前で振る舞っていた『先生』と一致しないよう、クレイの前では必要以上にバカっぽく振る舞ってはいる。
彼の呼ぶ『アスト』ってのも、即席の偽名だ。
ハーストから、アスト。我ながら中々にお粗末だが。
彼から俺の存在が『ジル=ハースト』や『先生』として伝わるのは避けたい。
だから、できるだけ印象に残らないように、適当にやり過ごしてさっさと別れるのが得策であるのは間違いないのだが……同時に興味もあった。
主人公合流前のクレイ。その実力を見極めるチャンスだ。
「つーか、答えろよ。まだ潜るか? 一旦上がるか?」
「そうだなぁ……俺的には、まだまだ潜って良い感じってところだけど?」
「そりゃあいい。やっぱり気が合うぜ、俺達」
収穫的にはもう十分な気もするが、まだクレイの実力を見ていない。
俺は攻略継続を提案し、彼もあっさりそれに乗ってきた。
先ほどはつい、自分で魔獣の対応をしてしまったが、
さて、一旦このダンジョンについて、おさらいをしてみるか。
このダンジョンがあるのはバルティモア王国南部にある砂漠地帯だ。
砂漠は前世の世界と同じく、昼間は暑く、夜間は寒い、住環境としては中々厳しいこの場所には、古代の遺跡が数多く存在している。
そして、前世の世界とは違い、フィールドには危険な魔獣が闊歩しているため、気軽な探索も難しく、未だ手つかずな場所も多い。
ゲームだと、砂漠はほんの一部だけ入ったのみだ。
オープンフィールドという概念や技術も無かった時代の話だし、仕方がないと言えば仕方がないのだけど。
そんな中で、現在いるのは未開拓な遺跡のひとつ。当然名前は知らない。
環境は、学院入学前にセラと共に攫われた地下遺跡に似ているが、あそこほど整備はされていない。
所々石の柱で補強されつつも、基本は洞窟。土で覆われた床と壁に囲われた人工物の迷路だ。
生息している魔物はそこそこと言ったところ。もちろん、俺にとっては相手にもならない。
ただ、コウモリ型やトカゲ型のように影や隙間に忍び、音も無く襲いかかってくる魔獣が多いため、不意打ちには気をつける必要がある。
実際、足下を掬われたのだろう、出てくる魔獣のレベルに比べて、冒険者が残したと思われる遺物の質が良い気がする。
「っ! ドラァ!!」
と、そんなことを考えている間にも、影から襲いかかってきた魔獣を、クレイが一振りでぶっ飛ばしていた。
手に握っているのは巨大なハンマー。
かつての学友、レオンに比べ華奢な体つきではあるが、ゴリゴリのパワーアタッカーだ。
「へっ、ここらへんの魔獣はひ弱でいけねぇや。倒した手応えがないんだよなぁ」
「そうなのか?」
「おう。ほぼ素振りと変わんねえや」
「まぁ、随分重そうだからな。そのハンマー……じゃなくて」
「ブレイクツール、な!」
クレイはドヤ顔で、ハンマーを担ぐ。
そう、彼の武器はただのハンマーではない。
ブレイクツールと彼が自称する、遺跡で手に入れ、彼自身が手入れし改造・強化を施すワンオフ武器なのだ。
(これ、カッコいいんだよなぁ。まさに男のロマンっていうか)
そう思いつつ、彼の言う通り、小ぶりな魔物が多い環境ではそのポテンシャルを十分に発揮するのは難しい。
もう少し潜ればボスでもいるだろうか。
俺ではなくクレイのために、もっと手応えのある魔獣が出てきて欲しいものだ。
そう、下調べなく絶賛アドリブ中の俺は、ただただ祈るのだった。
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