第104話 新たな物語

「どういうことですか、ジルさん」

「そういうことです」

「きちんと説明を」

「……今の俺は神を殺すだけの呪いに侵食された状態です。いつ流されて、自分を失うか分からない。だから、いざそうなった時に俺を殺せる人を傍に置いておくべきだという話です」


 もちろん今は戦闘中ではない。が、身体から緊張が抜けていない感じがする。

 完全に人のあるべき姿から一歩踏み外してしまった。ここから戻れるかどうかは……正直、明言できないというのが実情だ。


「まずはこの身体を何とかしなければ。表の世界では生きてはいけません」

「そうだな。魔獣と勘違いされて殺されるかもしれん」

「おい、殺害予告か」

「まさか。だが遺書は書いておけよ。いつそうなるとも限らんからな」


 フレアは見せびらかすように鞘から刀を抜き放ち、少し眺めてからまた納める。

 ちなみに俺の愛用していたアギトは……すっかり駄目になってしまった。刃も、鞘も。散々酷使した結果だ。


「やらなければならないことは3つ。この身体を元に戻すこと。腕は最悪戻らないでしょうが。そして次は新しい剣を手に入れること。こいつは当てがあるのでとりあえずはそこを目指すことになります」


 指を折りつつ話を進めていく。

 そして残った最後の1本。これが最も重要だ。


「最後、この力を完全に使いこなせるようになること」

「……はい?」

「理想は平常時は今まで通りの人間らしい姿に、そして必要な時は今のような状態になっても、この力を引き出せるようになることですね。最悪、ずっとこの姿でも仕方がないとは思っています」

「まぁ、私はそれでも構わないが。貴様の本質が変わるわけでもあるまい」

「そういうこと」


 笑みを交わし合う俺とフレアに対し、先生は深々と溜息を吐き――そして、俺の手を握ってきた。


「貴方達はそれでいいかもしれません。しかし、世界がそれを認めない。貴方はずっと、他者からその外見故に恐れられることになるんですよ」

「構いません。それで目的が果たせるのであれば」

「そう……ですか。やはり、貴方はあくまで復讐のために生きるのですね」


 先生はそう、少し寂しそうに笑った。

 彼女はどこか母を思わせる。そんな彼女に見つめられるのが、今の自分を見られるのがなんだか嫌で、俺はつい目を反らした。


「私も、許されるのなら貴方と共に行きたいですが」

「それは駄目です。貴方はセラ——セレインの側に」

「ええ、分かっています。彼女を守り、育てることこそ、私の役目であり、そして、きっと貴方を救うことになると……そう、信じます」


 俺が救われるかどうかは分からないが、彼女の未来こそ俺の復讐に次ぐ望みだ。

 未だ眠るセレインの頬を撫でようと手を伸ばし……引っ込める。


 今のこの姿では、彼女を汚すだけだ。


「ああ、そうだ。この少女——サリアですが、何かあの森に用事があったようなんですよね」

「用事……ああ、そういえば森の中を1人で彷徨っていたな」

「ああ……きっと彼女は俺達を気遣ってくれたんだと思います。俺達の邪魔をしないようにと、一人、危険な場所に。だから――」


 俺はポーチに入れていた花を彼女のポケットに入れ込む。


「なんだ、それは」

「薬草の一種だよ。あの森に群生するな。彼女の目的は母の病気を治すため、この薬草を手に入れることだったんです。帰り道で偶然見つけられて良かった」


 先生も、フレアも知らないサリアの目的。

 俺はさもそれを彼女から聞いたかのように語ったが、直接サリアの口から聞いたわけじゃない。


 俺は、サリアの思考――いや、夢を読み取ったのだ。だから知ることができた。

 どうしてそんなことができたのかは分からない。もしかしたら、あの虚神と同調したことで手に入れた後遺症のようなものだろうか

 けれど、なんであれ、これのおかげでサリアが犠牲を払ってまでここに来た価値も生まれるというものだ。


 先生の意見に便乗するのであれば、サリアもまた、欠けていれば神殺しは成らなかっただろうから。


「彼女のことも、頼みます。もちろんエリックのことも」

「分かりました」


 話すべきことは全て済んだ。

 フレアを見れば彼らのかけられた睡眠も永遠ではない。じきに目を覚ますだろう。


「ああ、リスタ」


 目を覚ます前に去らなければ——と、歩き出そうとした瞬間、見計らったかのようにフレアが先生に声をかけた。


「折角だ。1人呼んでもらいたい」

「おい」

「なに、構わんだろう。これもいざという時、貴様を殺す為だ」


 リスタ先生とこいつの雰囲気から、フレアもミザライアの生徒だということはなんとなく察しがついた。

 そして、こいつほどの実力だ。おそらく、まだ見ぬ学院最強というのはこの女のことだろう。まったく、偶然にしたって出来過ぎだ。


「貴様と私の技を比べれば、私の方が上だろう。貴様の剣は対人戦の浅さを感じさせる」

「はっきり見抜いてくれやがって……」

「それに私の獲物はまだ健在だ……が、そんなものではまだ不確定だ。私も、貴様と同じ技を身に付けねば」

「技?」


 首を傾げる俺を無視し、フレアは先生のその人物の名を告げる。

 よく知るその名に一瞬固まったが……なるほど、フレアも彼女のことを知っていたわけだ。


「っと、そうなるとどこかで落ち合う必要があるな。人目を避けた方が良さそうではあるが」

「いや、目的地は彼女も知っている。そこに直接来てもらえばいい」

「ほう?」

「けれど、あの人が頷くかどうかだ。先生、ちゃんとこっちの事情は伝えてくださいね」

「はぁ……面倒ですね」


 先生が深々と溜息を吐く。まぁ確かに、ここぞとばかりに色々厄介ごとを背負わせている気がするし。


「ジルさん。また、会えますよね」

「……ええ」

「私が担任として生徒を持ったのは、貴方達が初めてでした。できれば、卒業まで見届けたかった」

「俺もです」


 もしかしたらこれが最後になるかもしれない。

 語り合いたいことは山ほどあったけれど、語り尽くすには時間が足りない。

 だから、これ以上言葉を交わさず、俺は先生の前を――町を後にした。


 

 こうして世界に正しく刻まれた。ジル=ハーストが死んだという歴史が。

 第三王女、セレイン=バルティモアが見初めた護衛。最強の剣士。もう、それを確かめる術は残っていないけれど。

 そんな尾ひれの付いた噂は勝手気ままに泳ぎ回り、やがて常識へと変化していく。


 しかしその裏で、本来この世界が歩むべき未来は静かに崩壊した。

 この世界に新たに生まれた運命が誰に微笑むのか。誰のための物語なのか。


 最早、知る者は何処にもいない。




==================


ここまでお読みいただきありがとうございます。

としぞうです。そしてこれはあとがきです。


これにて第三章は完結となります。

本当はもう少し学園生活を楽しませても良かったのですが、絶対グダると思ったのでやめました。

ジル君も生死不明という着地を想定していたのですが、がっつり生き残りました。彼の復讐はこれからだ!


というわけでこの『ゲームのストーリー開始前に死ぬ“設定上最強キャラ”に転生したので頑張って生きたい』もこの章で大きな区切りになります。というかなりました。


第四章はがっつり時間が過ぎた物語を書く予定です。

現実時間ではちょっと時間が空くかもしれません。

というのも、あの登場人物名前出したっけ。設定どんなの撒いたっけというのを、作者である僕自身が回収していかないといけないからです。

(『ヴァリアブレイド』の主人公って名前出してたっけ……?)

なので、読み返して、直すべき部分があればちょいちょい整備して、あとがきが残っていれば根こそぎ削除して、

(イケてないサブタイも直して、)

改めてちゃんと先の話を考えた上で続きを世に出せればと思います。


ぜひフォローしてお待ちいただけると助かります。

(近況ノートに書くかもしれないので、作者をフォローしてくれても嬉しいです。拝みます)



もしお時間がありましたら、他にも作品展開してます。見ていってやってください。


「鬼哭啾々~」はカクヨムコン投稿用に作った物語なので今月中には完結するボリュームです。

「雑用係兼支援術師~」は書籍化します。2月の頭発売。そうです宣伝です。

「友人に500円貸したら~」も書籍化します。こいつの原稿がヤベーノ。終わんない。しんじゃう。


他にも短編様々ございます。見ていってやってください。短編は大体頭おかしいです。たまにちゃんとしたのもあります。


最後になりますが、本作、『ゲームのストーリー開始前に死ぬ“設定上最強キャラ”に転生したので頑張って生きたい』もカクヨムコンに参加中です。


カクヨムコンは読者選考を採用した、読者の皆様の応援が力になるコンテストでございます。

ぜひ、面白いと思っていただけましたら、今後の展開にご期待いただけましたら、

この下の方から☆で評価(称える?)いただけますと、嬉しく思います。

レビューを書いていただいても嬉しいです。これまでレビューを頂いた方、マジでラブです。


というわけで、宣伝も決意表明も宣伝も終えたので、あとがきも締めさせていただきます。

ここまでありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします!


としぞう

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