第55話 魔物の特性
「グォオオオオオッ!!」
耳をつんざくような咆哮に俺達は揃って耳を塞いだ。
音で俺達の体勢を崩しに……というわけではなさそうだ。あの魔物はただ本能のまま動いているように思える。
それこそサルヴァと同じように。
咆哮が止み始めるのを待ち、セラとファクトにハンドサインを送る。
一旦距離を取る、という合図だ。
「ジル、戦わないのですか……?」
「あの魔物の能力が未知数だ。ただ図体がデカいだけってんなら簡単なんだけど――」
確か魔物は魔人の時の能力を引き継ぐ――これはゲームでも、この世界でも同じだ。
サルヴァの場合は黒い手を伸ばし獲物を捕らえるという点が一致していた。そこに捕食という要素が加わりはしたが。
つまり、あの魔物も魔人時代の戦闘スタイルと特性が似通ってくる筈。
「セラ、あの魔物……いや、リザードマンについて分かっていることがあれば何でもいい。教えてくれないか?」
「そう、ですね……少し粗暴な性格とは感じました。あと、身のこなしが凄かったです」
「そこは普通のリザードマンって感じだな……他には?」
「他には……すみません。戦っている時は私も頭に血が昇っていたというか、他のことを考えていたというか……」
「他のこと?」
「あっ、いえっ!! ジルには関係無いんです――いや、関係無いわけでもないんですけれど、あくまで私の中の話であって!!」
何故か顔を真っ赤にして慌てだすセラ。
いや、足は動いているからいいんだけど、魔物に追われている状況なのに余裕だなぁ。
「殿下」
と、ここで頼りになる男、ファクトが口を挟んできた。
「殿下はどうして攫われたのですか」
「え、あ、いやそれは……その、魔人は私を狙っているようで、その……」
「いえ、理由ではなく方法です。この3か月、殿下と同じクラスに所属させていただいて拝見してきましたが、殿下の魔法の腕は常人のそれではありません。それなのに、人知れずあっさりと捕まった……それがどうにも腑に落ちなくて」
「それも魔人の特異性に繋がるかもってことか」
「ああ。その魔人、魔物とかいう話には、あまりまだ理解は追い付いていないがな」
セラを攫った方法か。
俺は手を引いていた彼女の方を振り返り、抱き上げる。
「ひぇっ!? じ、ジル!? いきなり何を……!?」
「考え事をして足を止めないようにってだけ。セラは思い出すことに専念してくれ」
「なんて言われても……! 逆に落ち着きませんっ!」
「すぐ慣れる。走ってるよりはマシだろ?」
所謂お姫様抱っこというやつだが、相手が王女様なので中々様になる気がする。まぁ、ドレス姿ではなく学院の制服なのでお姫様感は薄いが――
「っと!」
大きく薙ぎ払われた尾を跳んで回避する。見るとファクトも何とか回避できていたようだ。
「流石だな」
「当たり前――と言いたいところだが、僕はお前ほど余裕はないぞ。次は分からない!」
「それならお前も俺の背中に乗っていいぞ」
「ぐっ……そんなことをされるくらいなら無様にやられた方がマシだ!」
まぁ、俺がファクトの立場でも同じ返しをしただろう。
男が同い年の男に背負われるなんて恥ずかしいし絶対嫌だ。
でも、弱気なことを言っていた割に、まだ元気はありそうだ。
この状況――ある意味ファクトは巻き込まれた形なので悪いとは思うが、手札は多い方がいい。
「あの、ジル」
「思い出したか」
「あ、いえ……思い出せない、です」
ぐ……!
思わず漏らしてしまいそうになった落胆を喉元で押し留める。
いや、仕方がない。そもそも彼女は今日、1人で魔人を倒すという大金星を挙げたのだ。褒めることは当然、責めることなど有り得ない。
まぁ、その魔人も魔物になって復活してしまったのだけれど。
「殿下、思い出せないというのはどういうことでしょう」
「どういうことってお前、そりゃあ――」
「部屋にいて、考え事をしていて――けれど目は冴えていました。それなのに、気が付いたら魔人に捕まっていて……全身が痺れて動くこともできなくて」
ん、痺れ……?
「すみません、お役に立てなくて――」
「分かった」
「え?」
「あいつの特性だ。くそ、厄介だな……!?」
脳裏に1つ情報がヒットする。
リザードマンの特性の一つで、対照の意識を刈り取るとなると――ゲームでも出てきたアレだろう。
「おい、ジル。アレの特性って――」
「魔眼だ」
「魔眼……?」
「リザードマンの眼には特別な力があることがある。極めて珍しいものだが、セラが気が付いたら攫われてたってこと、そして痺れたって後遺症――それらから、おそらく睨みつけた魔物を麻痺させ自由を奪うって類のものだろう」
麻痺――石化の魔眼。ゴルゴーンの瞳。
ヴァリアブレイドの中でも屈指の、プレイヤー泣かせのクソスキルだ。
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