第22話 王女と相棒
改めて、魔物サルヴァ討伐に向け動き出した俺達だったが、僅かな話し合いの間にも状況は大きく動いていた。
「こ、こんなところにも腕が……」
動揺したようなコメントを発しつつ、しっかり黒い腕を爆破し吹っ飛ばすセラ。
それほど大きく離れたわけでもないが、先の広場から、この盗賊団のアジトである遺跡の通路にまでサルヴァの腕は伸びてきていた。
「魔物も、その元になる魔人も、長く生きれば生きるほど力を増していくと言われているし、放っておいたらもっと勢力を広げるだろうな。1週間もすれば国中この手に襲われているかも」
「そ、そんなにですか……!?」
「さぁ。なってみないと分からない。勿論、させる気なんか無いけどな」
セラが切り開いた道を互いに手を繋ぎつつ進む。
手を繋ぐ必要は別に無いけれど、セラがどうしてもと言うのでそうしている。理由は知らない。彼女が教えてくれないから。
しかし、ここから逃げるために引いていた彼女の手が、今は共通の敵を討つためにと変わっているのは少しおかしな感じがした。
「そういえば、セラ。お前王女様だったんだな」
「え゛」
えに濁点の付いたような濁った声を発するセラ。とても王女とは思えないリアクションだ。
「じ、ジル、どうしてそれを……!?」
「あの魔人がまだ言葉を喋れる内に言っていたから」
そこで初めて知ったわけではないが、嘘でもないのでこの機に伝えておく。
元々、どんな状況でネタバラしをされるか、その際にどういうリアクションを求められるのかを考えるのは面倒だった。
だから、さらっと俺が彼女の正体を知ったことを告知しておくには、今はいいタイミングだと思ったのだけど、セラの反応と鈍くなった足運びを見るに、彼女に大きく動揺を与えてしまったらしい。
「セラ?」
「その……黙っていてごめんなさい」
「別に謝る必要はないだろ? むしろ、俺が失礼な口を利いて悪かったというか」
「そ、そんな! 失礼なんて無いです! 王女なんていっても私は所詮……」
「っと、悪い。話し込んでいる場合じゃなかったな」
迫ってくる腕を今度は俺が払いのける。
銅剣の時とはまるで違う確かな手応えと共に、ボトッと切り離された地面に落ちた腕が黒い霧となって消滅する。
「流石は相棒」
「え?」
「ああ、セラじゃなくてこっちな。まぁでも、拾っておいてくれたのはお前だし、お前のおかげでもあるか」
今、俺が握っているのはそこら辺に落ちている剣ではなく、この世に一振りしか存在しない刀、アギトだ。
なんでも、俺の魔力を頼りに遺跡内を彷徨っていたセラが辿り着いたのが倉庫に無造作に放置されていたアギトや弓矢……俺の装備だったという。
攫われる直前、俺と会話した時にちゃんとでは無いが見ていたということもあり、律儀に持ってきてくれた――なんと異次元に保管するというトンデモな手段を用いて。
異次元にアイテムを収納するなんてそれこそとんだチート能力だし、そんな魔法聞いたことも無かったが、セラはあっさりと目の前でやってのけた。「他の人にできるように設計できていないので宝の持ち腐れかもしれませんが」などと、自虐していたけれど自分だけでもできるというのは凄いと思う。
そういえばゲームだと手ぶらなくせに無限にアイテムを収納していたけれど、それもセラがやっていたのかもしれない……本当にハイスペックだな。
「……アギトさん、ジルの相棒は私ですからね」
「何に対抗意識燃やしてるんだよ」
どっちも相棒でいいだろうに……いや、相棒は複数いたら成立しないのだろうか?
なんてどうでもいいことを考えながらも着々と先ほどの広場へと近づいていた。
それにつれて腕の密度も上がっていっていたが、まるで雑草を鎌で刈るように軽々と退けて進む。
「ジル、その、さっきの」
「相棒のこと?」
「じゃないです! その、私が王女であるということの……」
「ああ……」
どんだけ気にしてるんだ、そんなこと。
「ジル、私は――」
「今はそんなの気にしている場合じゃないし……俺に都合よくて悪いけど、ここを切り抜けるまではお前はただのセラって思うことにする」
「ただの、セラ」
「まっ、後で不敬罪とかいって捕まえるのは勘弁な。そうでありましたら、今からでも態度を改めますので仰ってください、お姫様」
「姫……っ!? ひ、必要ないです! ジルはジルで、私はセラ! それがいいです!」
「じゃあそれでいこう。お姫様の命令だからな」
「むぅ……また意地悪言って」
進行方向が眩い爆発に包まれた。が、お構いなしに突破する。
音は響くものの、俺達には一切の影響がない。
これもゲームの戦闘時、フレンドリーファイアが起きない理由なのかもしれない。魔法の効果に指向性を持たせるだったか……まったく、ゲームが先か、このお姫様のトンデモチート先か……どちらにしろメタ的な部分を才能で突破するなんてぞっとしない話だ。
そう、セラのスペックに圧倒されていた俺だが、爆発の先に見えた光景に思わず足を止め、絶句した。
「っ!!」
「こ、これは……」
先程の、いかにもボス戦が行われそうな広場。空間の広さ的に間違いはない。
しかし、その景色は先程から大きく変わっていた。
まるで樹海……いや、腐った沼地のようだった。
木々のようにそこらに生え広がるのは奴の腕で、それらは壁面を真っ黒に染め上げるほど広がっている。
「ジィィィィ……ルゥゥゥゥゥ……」
最早意識があるのかも分からない。人間の体裁も保てていない。
腕の森の中央にいる、全身から腕を生やした魔物は、最後の怨念からか俺の名前を呼んでいた。セラが呼んだことで知ったのであろう、俺の名を。
「ジル……」
「行くさ。復讐どうこうだけじゃない、今止めないと手遅れになる」
奴はどんどん力を付けていく。この遺跡では収まりきらない程に強くなってしまう。
「援護、頼む」
「……っ! はいっ!」
セラの力強い返事に頼もしさを覚えつつ、俺は奴の世界に足を踏み入れた。
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