第9話

「え、えと……あ、新しく入ってきた子だよね!? よ、よろしくね?」


 頑張って話しかけてくれているようだが、空としては、もう本当の自分が見られてしまったわけで、返事をできる精神状態になかった。


「…………」


 向こうにいる同居人も、何も言わない。空が返さない限り。


「お、おう」


 ――空は、そう返した。


「う、うん」


 ――それからは無言が続いた。

 空は先程の見られていた件はどうでもよくなって、今は同居人に目を向けていた。

 金髪に紫の瞳。それに釣り合う目から放たれる優しさと強さ。耳は人の形と違い、翼の形を模している。髪の中央付近にある直立している角のような形をした髪の毛たちが、髪の色の効果もあって、全体から『雷』という印象を放つ。

 そして空は今、そんな少年の目にどう映っているのだろうか。空はそればかりが気になってしょうがない。


「え、えと……――そういう感じで、いいのかな?」


 空はそれを受けて、ただ頷く。

 きっとキャラ性のことだろう。今更覆そうったって、無理がある。それに、部屋では流石に自分でいたい。

 幸いにも、この人(?)は、クラスメイトではないので、クラスにこのことがばれた瞬間、お陀仏だ。だって、クラスについて愚痴っているのだから。空がどこのクラスかなんて知らないだろうが。


「君が今日編入してきたっていう、あの……」


「え、ああ。そう」


 ――なんて悲しい会話なのだろう。話題が一向に見えてこない。


「え……と……――ああ! そうだ。部屋の説明をしておかないとね!?」


 相手の子もようやく話題を見つけられたらしく、空も同様に安堵する。


「で、疑問点としては、何故ベッドしかないのか……」


「え? ああ、えっと……この学園は、個人の『魔力』の色々を底上げするために、こういう部屋になっているんだよ」


「魔力の色々、ねぇ」


 知らない。どう反応すればいいのか分からない。多分、この子もあまり語彙力はないのだろう。というか、テンパっているから、こんな感じなのだろう。

 何ともまあ、空は自分が無力に思えて仕方がない。


「で、何でこの部屋にはベッドしかないんだ、って俺の質問の答えはどうなるんだ?」


「え、だから――」


「あー、言い方変えるわ」


 言い方が悪かった。もっと簡潔に言ってやろう。


「他の家具たちは?」


 空は今度、部屋にない家具たちについて言及したのであった。

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