第296話 番外編 24


「…いやぁ…あれだね! 栗原さん、ステキな一面をお持ちなんだね…ハハッ」


類がひきつりながら笑顔で言った。


「栗原さん、私、見直した! カッコいいって思った。」


旭は凜をまじまじと見た。


「ハッ! 違うの! これは…、そう! 何かがパーって降りてきたの! そうっ! 戦いの女神ミネルバとか言ってた、それ! そんな通りすがりの野生の神が私に降りてきたのよ運転手さんっ!!!」


凜は冷や汗をかきながら安藤に言い訳をしていた。


安藤はそんな凜を見て、遥かローマ神話の神々に想いを馳せていた。




「あのぅ…。」


床にへたりこんでいた秋田が皆に声をかけた。


その顔はもう恐ろしい形相ではなく、いつもの地味な秋田直行の顔だった。


「俺…どうしたんだろう…。なんでこんなところに…。」


秋田は自分の状況が分からなくなっていた。


「あんた、何にも覚えてないの?」


旭が聞くと、秋田は首を振って怯えていた。


「あんた、さっきの不良グループに脅されて、学校の皆からお金を巻き上げてたんだよ!」


「えっ! 俺、そんな事してたの? 覚えてない! 覚えてないよー!」


秋田は頭を抱えて座り込んだ。



「あれ、運転手さんは?」


凜は安藤がいないのに気付いた。


安藤は他の部屋に行っていたみたいで、手に何か持って戻ってきた。


「秋田君…だっけ? ここに一部始終が録画されてるはずだから。あいつらから脅されていたって証拠になる。」


安藤は、秋田たちが来る前に押入れから抜け出した時、カメラを仕込んできたのだった。


「…安藤先生って…、もしかして盗撮マニア…?」


類はどんびきしていた。


「んなわけねーだろっ! カメラは運転する時に変なやつ来た時の対策でいつも車に乗せてんの! ここ来る時、なんか嫌な予感したから一応持ってきといたんだよ!」


「くそっ、俺の悪い印象は、いつまでたっても拭えないんだな…。」


安藤はがっかりしているようだった。


「そうでもないぞ! 安藤! 私の事をかばってくれたじゃないか! 私にとってのイイ男ランキングは、兄・光が不動のダントツ一位だが、安藤はすでに私の愛犬ジェームズの下に位置している! 初登場ながら急上昇だ!」


旭は目を瞑って、ウンウンと頷きながら安藤の肩に手をやった。


「犬より下なんかよっ!!!」


安藤の雄叫びは、周囲一帯に響き渡った。




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