第287話 番外編 15


旭はそんな怒涛の心理戦が行われている車内に気付いているのかいないのか、我関せずといった様子で、キュウリをボリボリ齧っていた。


旭の頭に皿があって、背中には甲羅がついて、全身が緑色になっている…安藤の目にはキュウリにかぶりつく旭がそう見えた。


ひぃぃぃ~!


目をこすって再び見ると、いつもの旭に戻っていた。


何なんだよまったく…。


俺、ほんとどうかしちゃったのか?


「なんでおまえキュウリなんか齧ってんだよ?」


「いくさ前の腹ごしらえ! 欲しかったらまだあるよ、いる?」


「いるかー!」




そうこうしているうちに、車は目的地近辺に着いた。


目的地の公園に行く道は車が通れる幅ではなかったので、近所のパーキングに車を停めて歩いていくことにした。


この辺一帯は、古くからある住宅地らしく、昭和に建てられたような古い家が多かった。


公園に続く道も細い路地で、二人並んで歩くと道一杯になるような狭さだった。



「こんな僻地に何の用だよ?」


安藤は当たりを見回してウンザリしながら旭に聞いた。


「気になるヤツがいるんだよ。」


「えっ? 誰? 何者なんだよそいつは?」


「うちのクラスの男子なんだけどさ、もう気になって気になってしょうがないんだよ。」


旭は前を向いたまま、黙々と歩きながら答えた。


「えっ、何? 俺そんな話聞いてない! 何なのそれ! どこのどいつだよ!」


旭が全く聞いていないにも関わらず、安藤は延々と文句を垂れた。

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