第277話 番外編 5

「ん~、私、用事あるの思い出しちゃった~。」


「え、何の用事。」


類は全く空気が読めない。


凜はとっさに用事を考えた。


「えっとぉ~、あ! バイト! バイトがあるんだった!」


「そうなんだ~! 栗原って、どこでバイトしてんの?」


「え…えっと、あ~、居酒屋ぽんぽこって店なの!」


凜は帰り道にある居酒屋の名前をとっさに言った。


「へぇ~! 今度俺行っていい?」


「ダメダメ! 高校生が居酒屋に出入りしてたら学校にバレちゃうし、私が内緒でバイトさせてもらってるのもバレちゃう!」


凜はここで居酒屋のバイトと言ったのは、我ながらいいアイデアだと思った。


これでやっと類の攻撃から逃れられると思ってホっとしたのもつかの間、空気の読めないこの男はさらに食い下がってきた。


「居酒屋のバイトって、夕方からでしょ? じゃ、それまでカフェでも行こうぜ!」


「あー、あーーー、それがねっ! のっぴきならない用があるの! 向かいのおばあちゃんちのお風呂のお湯がぬるくなってる頃だから、私が行って追い炊きボタンを押してあげなきゃいけないのぉ~!」


凜は自分でも訳のわからない苦し紛れな言い訳をして、支離滅裂になった。


「そういう訳なので、ごめんねぇ~。」


そういうと凜は一目散に帰って行った。


「向かいのおばあちゃんのお風呂の心配までしてあげるなんて、さすが栗原! 顔も美しいけど心もピカピカだぜ!」


類は前髪をかきあげ、目を細めてあらぬ方向を眺めた。

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