第267話

「おまえは私がものすごい速さで追っかけてくると思っているだろう?」


追っかけてくる月は俺に聞いてきた。


「私の速さが速いと思っているのなら、それはおまえの致命的な勘違いだ!」


追っかけてくる月は呆れ果てて俺に言った。


「おまえの人生のスピードの方が私よりよっぽど速いのだ。」


追っかけてくる月は言った。


「そのスピードに、おまえはずっと、追いつけないでいたのだろう?

追いかけてくる時間に、振り回されていたのだろう?

何が正しい判断なのかずっとわからずにいたのだろう?」


追いかけてくる月はしつこく俺に問いかけた。


「そしておまえはまた、同じ事を繰り返すさ。人生のスピードの速さに打ち勝つ人間なんていないのさ。」


追いかけてくる月は勝ち誇ったかのように言った。


次の駅で電車は停まった。


電車が止まると、追いかけてくる月も止まった。


「電車が停まればおまえも立ち止まったじゃないか。

速すぎるスピードで選ぶべき物を間違わないように、

俺が立ち止まればいいのさ。」


俺は追いかけてくる月に言い放った。


「果たして今回のおまえにそれができるだろうか?

時に抗うことが出来ないほどの運命が、おまえを押し流す事もあるというのに。」

追いかけてくる月は悔し紛れに言った。


そして森の中へと消えていった。


 俺の前世のように、自分の意思ではどうしようもできない事が、また未来で起こり得るのだろうか?


俺は急に怖くなってきた。


その時突然、じーちゃんの不在感が俺を襲った。


どこかに置いてきたかのように、それまで感じなかったのに、急にじーちゃんはもうこの世に存在していないんだと、悲しみが胸を突き刺してきた。


突然涙が溢れ出てきた。


拭っても拭ってもそれは止まる事は無かった。


俺はただ泣き続けた。


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