第262話
「こっちのマッチ箱…これは何か意味がある物なの?」
俺はマッチ箱を手にとって表や裏を見てみた。
それは店のマッチのようだった。
古くて見えにくいが、住所や電話番号などが書かれてある。
「それは、澄ちゃんとよく行ってたジャズ喫茶のマッチ箱だな。」
「こんな物まで澄子さん大事に取ってたんだな。」
俺は感心してしまった。
「あのジャズ喫茶はな…、澄ちゃんを連れて行ったら本当に喜んでくれて、何度も二人で一緒に行ったんだ。あの店は、澄ちゃんとセットになってるようなもので、一人で行くと多分ものすごく違和感を感じただろうと思う。澄ちゃんが横にいるのが当たり前だったからな。だから、別れた後は一度も行ってないんだ。良子が…ばーちゃんがな、自分もあの店に連れて行って欲しいって、すごく行きたがってたんだけど、一度も連れて行かなかった。いや、連れて行けなかったんだ。あの店に行く道すら通るのが辛くて、ましてやあの店に行ったら澄ちゃんの事を思い出して、きっと耐えられなくなると思ったんだ。今思うと、良子には本当にすまない事をしたな…。」
「そっか…。」
もしかするとばーちゃんは、一緒に住んでいるうちにじーちゃんは澄子さんの事を忘れるかもしれないと思って、それを試すためにわざと二人の思い出のジャズ喫茶に連れて行って欲しいって聞いたのかな?
結局連れて行ってもらえなかったから、じーちゃんが澄子さんを忘れることは無いと悟ったんだろう…。
夫の心の中に忘れられない人がいるって知りながらも一緒に暮らすのって、さぞかし辛いよな。
俺だったら無理かも。
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